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パリ軟禁日記 34日目 世界を一つに

2020/4/19(日)
日付が変わった頃、風呂から上がったらリビングがダンスフロアになっていた。

暗闇の中、部屋をチカチカと照らし出すのはテレビの明かり。画面の中にはデヴィッド・ゲッタのライブ中継がフロリダから届いていた。高層マンションの中階にあるプールサイドにDJブースを置き、大音量でマンションのバルコニーにいるクラウドを沸かせていた。中には明らかに友だち全員呼んだんじゃないか、というほど密集しているバルコニーもあった。命を賭してでも見たいということなのだろう。僕も妻も彼らと同じように身体を揺らせて楽しんだ。ライブが終わることには60万ドル近くの募金が集まっていた。音楽家の持つ力は偉大だ。

深夜2時からは、レディー・ガガ、世界保険機構(WHO)、グローバル・シティズンが共同で主催したオンライン・コンサート「One World:Together At Home」が始まった。出演者がそれぞれ自宅などから演奏する映像を世界中のお茶の間に届ける、という今の時世にあったスタイルだった。僕が生まれるほんの少し前に行われた伝説のチャリティーコンサート、「ライブエイド」のような歴史に残るコンサートになるだろうと思い、視聴するのが楽しみだった。ラインナップも豪華だ。

WHOが主催していることもあり、第一線で働く医療従事者のスライドや映像が曲と曲の間に挟み込まれた。逼迫している現場の医師・看護師の方々はそれこそ寝る間もないほど必死で頑張ってくれている。彼らのような、一番困っている現場の肉声はなかなか届けるのが難しい。取材を受けるヒマもなければ、自分で発信する余裕もない。毎日、一日中マスクをつけているからだろう、彼らの鼻の横からスッと赤い跡が残っていた。

音楽ライブという観点で感じたことしては、アーティスト一人の力でなし得られることは限りがある、ということだった。彼らの自室の演奏風景はYouTube等にあるアマチュアの演奏動画と同じ構図がほとんどだった。音響に関しても、レディー・ガガ含む数名のアーティストは本格的なマイクを使って音がよく拾えていた一方、マイクの質が悪いのか、自室の反響が悪いのか、歌声が持つ潜在的な力を十二分に伝えられていないケースも見られた。これまで見知っているコンサートで味わった感動はアーティストだけでなく、場の雰囲気があり、演出があり、機材があったと改めて気づく。

離れた地点にいる別々のメンバーのバーチャルな共演と聞いて思い出すのは、2017年にドコモとPerfumeが行った5Gの検証実験「FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。」だ。東京、ニューヨーク、ロンドン。10,000km以上離れた3つの空間でそれぞれ踊る彼女たちの映像がタイムラグなくシンクロするその映像は奇跡的だった。当然、どんなお金持ちでもそんな設備と回線がある自宅はまだなかったようで、今回のライブではお預け。近い未来、こういうことが当たり前にできるようになるのかもしれない。

今回のベストシーンを挙げるとすれば、チャーリー・ワッツ(ローリング・ストーンズ)の「ドラム」だった。そう、スタジオに行かなくなって、ドラムセットがなくたって、ドラムはできる。彼は一言も話すことがなかったけれども、僕は自宅でできる可能性についての熱いメッセージを受け取った気がした。


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