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萬
2016年5月25日 11:34
一羽のすずめが側にやって来たぴょんぴょん飛び跳ねながらときおり思い出したかのように立ち止まっては首を少しかしげ小さなつぶらな瞳で僕を見上げた空っぽの青いポケットに触れて何も入っていないよと言うとすずめは音もなく身を翻しわかっていましたという風に軽々と仲間のもとへと飛び去った一羽のはとが足元にやって来たぴょこぴょこと足を引きずってときおり微かに喉を鳴らし折れ曲がった赤い
2016年5月23日 06:50
I君の手が暗い光を放つ手摺りに触れた時僕はかつてここが深い森の中であったことを思い出した深い深い森の中梢が幾重にも重なり合い僅かな光もその葉に捕らわれて延々と編み上げられた静物の誰の目に触れることもなく誰をも逃さぬ陰影の奥底で君は白く柔らかい光を放っていた深い深い森の奥存在し得たはずの全てから誰一人に気づかれることもなく厳かに築かれた景色の中で澄んだ街の匂
2016年5月21日 11:40
ある朝目覚めると僕の祖父は見ることを失った病気の妻と幼い子供と共に生まれた地を離れ病院を転々とした後、微かに光を取り戻したがそれでもその殆どを失ったまま寝床から起き上がることのなくなった祖母の跡を追ったある朝目覚めると僕の父は聴くことを失った妻と子供達を負った頑健な身体は病み衰え病室に座り込んだ後、僅かに音を取り戻したがそれでもその殆どを失ったまま自らのかつての姿を忘れられずに
2016年5月21日 00:48
ダンボール箱から子犬が僕を見上げていた不安そうな顔をして悲しそうに鳴いている思わず近寄り両手を差し出し抱き上げた湿った鼻先 折れ曲がった耳に潤んだ瞳しがみ付こうと太く短い足を突き出して弱々しく鳴きながら微かに身を震わせた腕の中の毛むくじゃらな小さな体は暖かい僕はこの栗毛色を連れて母の待つ家に帰るこうなるのは最初から分かっていたけれど僕は泣きながら胸に抱えた生き物を連れていま
2016年5月19日 16:14
私は壊れた景色いつもどこかが歪んでいる言葉では説明できないけれどただそこにあるだけで何かが少しずつ崩れてゆく私は景色であるがゆえに確かな身体を持たず自分を見ることもできないただ私を映すその瞳の中にいつも困惑の徴を見る欠けているわけではないただ私の存在ぶん余計に調和は平衡を失う動物が生まれながらに立つことを覚え食べることを覚え鳴くことを覚えているのならそしてそ
2016年5月19日 00:10
空っぽの浴槽に柔らかい手を差し入れて確かめるように在るべき身体を掬いあげる掌の裡の幽かな重さは透明な面影を残し少しずつ指の間から零れ落ちた
2016年5月18日 03:41
はしれはしれ子供達その気持ちでいられるのもいまのうちいつかオオカミがやってきてばらばらになった靴だけが君をすこし思い出す
2016年5月18日 03:38
I 洗面鏡に備え付けられたスイッチに触れ僅かに力を入れる。プラスチックの枠が撓み、指先の傾斜が滑り落ちる。乾いた音。橙色の灯りが点く。眼前の電球が熱を放ち始め薄い瞼が熱くなる。台所から差し込む光は姿を消し、朧気な部屋の輪郭は掘り起こされ、露わになった影は無防備な縁を纏う。肌寒い季節、明かりの色は暖かい。白い壁紙、白い洗面台、白い洗濯機、白い色の全てが夜の許で陽に染まる。あるいは秋の色。その下で
2016年5月16日 19:37
一匹の魚が飛び跳ねた水面高く飛び上がり小さな飛沫を残して静けさの中に消えてゆく僕はいつもそのように海のない丘の街から遠く離れた夜の許へ灯を見上げて飛び跳ねる
2016年5月15日 02:23
君は其処にいて其処にいない僕は僕の心が映す影を見る長く続く道の先で振り返ることも知らず明かりはさらにその先を照らし僕は僕の心が映す影を見る※洞窟を抜けたら太陽が見える。でもどうしてそれが洞窟の外だと言えるのだろうか。此処が洞窟の中だとさえ気付けなかったのに。
2016年5月14日 13:21
明日見た夕べ満ちゆく彼方眠りは遠く目覚めぬ明かり瞼の奥へ去りゆく君は夜明けを厭う夢見る光
2016年5月13日 23:08
百日紅の花をひと房白い頁に挟む頁から溢れた花弁は本を紅く飾る
2016年5月13日 22:59
どろぼうは夜中にやってくるぐっすりすやすや夢の中こっそり静かに窓あけてきれいな夢ごと子をさらう
2016年5月13日 17:50
放たれた猟犬が潜む獲物を救いへと狩り立てる開かれた空は優しく手を広げ削ぎ落とされた最後の熱をその透明な胸に招き入れる命の驚きは地へと吸い込まれ喘ぎ 忠実な友は為したことを知らず示し得るもっとも確かな純粋を自ら証ながら 跳ね回り砕けた石で肺を満たす遠くから鐘の音が聞こえる歩む毎に草木が茂り光は眼から解けていく掻き分け進む爪は朽ち始め放つことのできない軌跡があらゆる名