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2016年5月の記事一覧

広場

一羽のすずめが側にやって来た
ぴょんぴょん飛び跳ねながら
ときおり思い出したかのように
立ち止まっては首を少しかしげ
小さなつぶらな瞳で僕を見上げた

空っぽの青いポケットに触れて
何も入っていないよと言うと
すずめは音もなく身を翻し
わかっていましたという風に
軽々と仲間のもとへと飛び去った

一羽のはとが足元にやって来た
ぴょこぴょこと足を引きずって
ときおり微かに喉を鳴らし
折れ曲がった赤い

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階段

I

君の手が
暗い光を放つ手摺りに触れた時
僕はかつてここが
深い森の中であったことを思い出した

深い深い森の中
梢が幾重にも重なり合い
僅かな光もその葉に捕らわれて

延々と編み上げられた静物の
誰の目に触れることもなく
誰をも逃さぬ陰影の奥底で
君は白く柔らかい光を放っていた

深い深い森の奥
存在し得たはずの全てから
誰一人に気づかれることもなく
厳かに築かれた景色の中で

澄んだ街の匂

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朝を待ちながら

ある朝目覚めると僕の祖父は見ることを失った
病気の妻と幼い子供と共に生まれた地を離れ
病院を転々とした後、微かに光を取り戻したが
それでもその殆どを失ったまま寝床から
起き上がることのなくなった祖母の跡を追った

ある朝目覚めると僕の父は聴くことを失った
妻と子供達を負った頑健な身体は病み衰え
病室に座り込んだ後、僅かに音を取り戻したが
それでもその殆どを失ったまま自らの
かつての姿を忘れられずに

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子犬

ダンボール箱から子犬が僕を見上げていた
不安そうな顔をして悲しそうに鳴いている
思わず近寄り両手を差し出し抱き上げた

湿った鼻先 折れ曲がった耳に潤んだ瞳
しがみ付こうと太く短い足を突き出して
弱々しく鳴きながら微かに身を震わせた
腕の中の毛むくじゃらな小さな体は暖かい
僕はこの栗毛色を連れて母の待つ家に帰る

こうなるのは最初から分かっていたけれど
僕は泣きながら胸に抱えた生き物を連れて
いま

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本質

私は壊れた景色
いつもどこかが歪んでいる
言葉では説明できないけれど
ただそこにあるだけで
何かが少しずつ崩れてゆく

私は景色であるがゆえに
確かな身体を持たず
自分を見ることもできない
ただ私を映すその瞳の中に
いつも困惑の徴を見る

欠けているわけではない
ただ私の存在ぶん余計に
調和は平衡を失う

動物が生まれながらに
立つことを覚え
食べることを覚え
鳴くことを覚えているのなら
そしてそ

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空っぽの浴槽に柔らかい手を差し入れて
確かめるように在るべき身体を掬いあげる
掌の裡の幽かな重さは透明な面影を残し
少しずつ指の間から零れ落ちた

子供達

はしれはしれ子供達
その気持ちでいられるのもいまのうち
いつかオオカミがやってきて
ばらばらになった靴だけが
君をすこし思い出す

浴室

I

 洗面鏡に備え付けられたスイッチに触れ僅かに力を入れる。プラスチックの枠が撓み、指先の傾斜が滑り落ちる。乾いた音。橙色の灯りが点く。眼前の電球が熱を放ち始め薄い瞼が熱くなる。台所から差し込む光は姿を消し、朧気な部屋の輪郭は掘り起こされ、露わになった影は無防備な縁を纏う。肌寒い季節、明かりの色は暖かい。白い壁紙、白い洗面台、白い洗濯機、白い色の全てが夜の許で陽に染まる。あるいは秋の色。その下で

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一匹の魚が飛び跳ねた

一匹の魚が飛び跳ねた
水面高く飛び上がり
小さな飛沫を残して
静けさの中に消えてゆく

僕はいつもそのように
海のない丘の街から
遠く離れた夜の許へ
灯を見上げて飛び跳ねる

プラトンの洞窟

君は其処にいて其処にいない
僕は僕の心が映す影を見る
長く続く道の先で
振り返ることも知らず
明かりはさらにその先を照らし
僕は僕の心が映す影を見る

※洞窟を抜けたら太陽が見える。でもどうしてそれが洞窟の外だと言えるのだろうか。此処が洞窟の中だとさえ気付けなかったのに。

月夜

明日見た夕べ満ちゆく彼方
眠りは遠く目覚めぬ明かり
瞼の奥へ去りゆく君は
夜明けを厭う夢見る光

誕生日

百日紅の花をひと房
白い頁に挟む
頁から溢れた花弁は
本を紅く飾る

夜盗

どろぼうは夜中にやってくる
ぐっすりすやすや夢の中
こっそり静かに窓あけて
きれいな夢ごと子をさらう

狩り

放たれた猟犬が潜む獲物を
救いへと狩り立てる
開かれた空は優しく手を広げ
削ぎ落とされた最後の熱を
その透明な胸に招き入れる

命の驚きは地へと吸い込まれ
喘ぎ 忠実な友は為したことを知らず
示し得るもっとも確かな純粋を
自ら証ながら 跳ね回り
砕けた石で肺を満たす

遠くから鐘の音が聞こえる
歩む毎に草木が茂り
光は眼から解けていく
掻き分け進む爪は朽ち始め
放つことのできない軌跡が
あらゆる名

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