子犬

ダンボール箱から子犬が僕を見上げていた
不安そうな顔をして悲しそうに鳴いている
思わず近寄り両手を差し出し抱き上げた

湿った鼻先 折れ曲がった耳に潤んだ瞳
しがみ付こうと太く短い足を突き出して
弱々しく鳴きながら微かに身を震わせた
腕の中の毛むくじゃらな小さな体は暖かい
僕はこの栗毛色を連れて母の待つ家に帰る

こうなるのは最初から分かっていたけれど
僕は泣きながら胸に抱えた生き物を連れて
いま帰って来たばかりの道をまた戻る
しゃくりあげ 涙がとめどなく溢れ出し
見慣れたはずの景色が目から零れ落ちた

丸まる尻尾と口から僅かにはみ出た舌
白いお腹を出して少し安心したように
綿毛はぴったりと大人しく胸に納まって
不思議そうに濡れた顔を見上げていた
そして半袖シャツに黄色い染みを広げた

滴がズボンまで滴って新しい靴まで濡れた
不安なのは僕で悲しいのは僕だった
独りぼっちの不安とさらに溢れる涙と共に
僕は両手を差し出し悲しみを抱き降ろした

ダンボール箱からあの子が僕を見上げていた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?