十月書房で乱歩翁がパイプを燻らせる / 芸術未満 25
一人暮らし用の穴ぐらでもあるかのような宇治小倉の小部屋に一人で帰っても気が重く、面白くもないことが多かった。下田は大学からの帰路、一人でいるという不安や恐怖を正視するのを避けたく、正体不明の焦燥心に煽られ田園地帯の宇治小倉をやり過ごし、無意味と思いつつも河原町三条辺りにまで行ってしまうことがあった。
インターネットもない、音楽配信もない、アイフォンもグーグルもアマゾンもSNSもない過去世界なので、孤独を紛らわす下田の行動は商業ビル内の本屋やCD店を見て回り、寺社やら鴨川