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芸術未満

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「芸術」に憧れ、反発し、惹かれながらも怠惰に流れがちの美術部学生。美と性は不可分か、異性らの面妖な美は聖なのか俗なのか。めまいのする青少年新懊悩記。
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#私小説

コーティング剤を効かせたテレビコマーシャルが絨毯爆撃のように美意識を麻痺させ変形…

 体育の授業が終わり、教室に戻って着替える際「木下と高井を見ろ」と男子児童の誰かが言った…

木造校舎の床でプロレス / 芸術未満 30

 世界は性的なイメージで溢れていた。それが良いことなのか悪いことなのか分からなかった。テ…

自意識についての過剰な意識 / 芸術未満 29

 宇治小倉の洞窟のような部屋に一人でいると、就寝前など下田は掴みどころのない茫漠たる不安…

付き合っている先輩たち / 芸術未満 28

「大学でも下宿でもいつも一緒なのか。『付き合う』というのはひょっとすると息苦しいのかも知…

『新婚さんいらっしゃい』の夫婦みたいな / 芸術未満 27

 大学はショッピングモールのようだった。下田も勿論、学生たちは学徒などというよりも消費者…

十月書房の神秘学本 / 芸術未満 26

 ある時、下田はいつものようにパイプ葉の匂いを感じながら茫漠たる気分で神秘学や美術書の前…

十月書房で乱歩翁がパイプを燻らせる / 芸術未満 25

 一人暮らし用の穴ぐらでもあるかのような宇治小倉の小部屋に一人で帰っても気が重く、面白くもないことが多かった。下田は大学からの帰路、一人でいるという不安や恐怖を正視するのを避けたく、正体不明の焦燥心に煽られ田園地帯の宇治小倉をやり過ごし、無意味と思いつつも河原町三条辺りにまで行ってしまうことがあった。  インターネットもない、音楽配信もない、アイフォンもグーグルもアマゾンもSNSもない過去世界なので、孤独を紛らわす下田の行動は商業ビル内の本屋やCD店を見て回り、寺社やら鴨川

彼らは笑顔写真をハサミで切り抜かれ、体裁良い無害ぶりを振りまいている / 芸術未…

 神聖化された像が、どんな苦痛でも一瞬で取り除いてくれるということは恐らくない。「苦痛や…

まるで宇宙船に連れ去られたという人物の話を聞くような気分であった / 芸術未満 23

 下田と大橋はそれぞれ別の高校に行ったが、家も近所だったので時々会った。ある日大橋が遊び…

透明なフォークが紙皿に置かれている / 芸術未満 22

 下田には幼年時に『勇者ライディーン』や『鋼鉄ジーグ』を一緒にテレビで見た大橋ケンゴとい…

夏の青い網戸 / 芸術未満 21

 子供の頃、夏休みの旅先で下田は早朝に目覚めた。ログハウスのような部屋は青い網戸から涼し…

人工郊外住宅地では、その言葉は貴重なロック福音であった / 芸術未満 20

 遠野モリカは「クリムトが好き」と言った。下田は彼女に嫌われたくなかったので調子を合わせ…

血を業火で燃やせば、きっと燃えるような赤い薔薇になる…だろう / 芸術未満 19

 美術部「礫」の部室は、滝本が積極的に呼び掛けを行ったこともあり、「あそびげい」(美学及…

「実学」…その言葉に怯えたような下田はヌードトランプの絵を見た / 芸術未満 18

 「美」とは何か、という茫漠な問題を学生が大真面目に研究しても許されるのだろうか。  下田はあるとき電車内の広告で「実学」という文字を見た。『実学を習得。〇〇農業大学』その字は怖ろしかった。美学は「実学」ではない気がする。農作物のように手に取り食べることができる、という確固たる実りや収穫がないのではなかろうか。「実」でないなら「虚」であろうか。虚学。『実学を修め、未来に備える』などと怖ろしい文句も並んでいる。その言葉に怯えたような気になり下田は電車を降りた。  美学って将