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巨人の剪定(2)

1か月前

「恋愛小説」① 恋を知らない小説家が、学生時代関わりのあった女性の娘と出会う 唯一の恋愛小説となるそれは 彼の文体からしたら 娘の出現を通して「彼女」の過去を探る旅 深まる謎 「彼女」は若くして死んでいるから 文字にすれば男と女はミステリーに謎めく 「お母さんに似てきたね」

【夏の魔の夢】 線香の匂いがまたしていた 気付いたのは俺ばかりではないのだった 盆が来るからだろうか 線香の煙は死者の腹が満たされると言う 一月二月も線香の匂いがしていた 家鳴りも酷かった もともと家鳴りは神で今は祀られず妖怪 歪んだ負のエネルギーの穴を修復する 作業中の音なのだ

【夏の魔の夢】 夜半ー 急に目を覚ました 雨戸を閉め忘れていた チャリーン・・ スプーンで皿を叩くような音がした チャリーン・・ また鳴る 外の洗濯機を影が通った 隣人がベランダから降りるには柵がある 塀の向こうは踏切 女が死んだ この部屋はよく線香の匂いがする 零時を回っていた

【二十八節】リザーブ ここは怪奇幻想倶楽部 チョロチョロと竜頭の口から 手水盥に落ちる水の音 赤い屋根に赤い空 赤い十二の布帽子 青い業火で顔隠す 見上げたそれは青鈍の目で 冷ややかに私を見下ろす 金剛空海像 こんなに巨大だっただろうか 墓石の下 左隅の暗がり 次は私が納まる場所

【第三十節】星宿 ここは怪奇幻想倶楽部 鬼宿之事 女尸 天狗ー天上の犬を探すことについて語る

第二十四話 和魂 _夜、眼を閉じれば広がるのは葦の原 浮かぶ歩き草 見上げれば真上に高く半の月 泥茎の下にもウタヒメが休む 生半可な言葉では振り向かない 底に潜む瓶に震動して目を覚ます 一枚 また一枚 光の破片を私は紙に落としこむ 貴女を喚ぶのは幾度め 貴女に会ったのはいつの代か

【二十九節】遺恨 ここは怪奇幻想倶楽部 その白い着物の女は 顔を隠すので正体が知れない 明らかに意図的であり 悪意がある 地鎮鎮魂の儀などは御機嫌伺いにもならない 餌をまくだけのこと 女もまた贄だったのかも知れない 地中浅く 怨みは深く 骨にしみこんだ あちらこちら 軋む音がする

【十六節】時間差② ここは怪奇幻想倶楽部 そのトンネルには男の幽霊も出るが女のほうが質が悪いようだ 写った写真を保存している関係者宅ではいないはずの部屋で足音がする 病院に言っても不調が治らず、寺で祓うように言った男は一週間後に事故で死んだ 退職後のことなので問題にはされていない

【二十一節】プロジェクトX② 王子でUFOを目撃したこの時 前日から運転停止の宣言が各鉄道会社で発表されていた つい先頃やっと復旧を果たした路線もある そして俺は空に彗星を、流星を見たのだ あれから空を見ると地震が来るのがわかるようになった 地震雲 5体のUFOは何をしに来たのか

【七節】渡し守 ここは怪奇幻想倶楽部 三途の川は翡翠色 親は死んでいる 河原で石を積まなくて済みそうだ ギッチラギッチラ おお、お迎えか 見ると老夫婦がリヤカーを漕いでくる なんともローカル色漂う 乗せて頂くのも申し訳なく断る 対岸の岸 錦帯橋のような橋を あんたら押して渡る気か

【八節】妨げ ここは怪奇幻想倶楽部 霊山を歩く者あり 死装束・自害用の懐刀 月明かりのみ頼り 修行鍛練の賜物とは山のザコすら 動向を見守る、気を発している 登り続けよ 道の選択肢は減る 突如脚は固まり、前進まぬ 目がなれて、崖の真っ黒な大きな口が開き 墜ちるのを待っていた 救いか

幻想小話 第四十七話 三六寺 精眼寺は散歩の帰りに回る事にした 行きがけに「三六寺碑文」を見つけた 気になっていろいろ調べたが手掛かりがない 視界が開けているのに雫が落ちて波紋する音 魚がはぜる飛沫と音、魚の尾鰭を脳裏に視る 銀杏の木の上に大蛇がいた 彼は翔ぶためにどすりと落ちた

【二十七節】龍の交尾⑤ ここは怪奇幻想倶楽部 女房が羨ましい? あっしが?ええ、お侍様 あっしは女房が羨ましいですとも あっしには絶対姿を見せない女房の、あれが何か知りたいが、女房は無邪気過ぎて無理です そもそも信心深い人間を仇なす者はおるが 神仏に弓引くのとおんなじではねぇか?

【十五節】時間差① 我々は時折、非常に近接した現場での仕事がリンクする 顔を合わせることはないが、向こうが虎ノ門ヒルズの現場の後、自分が近くの虎ノ門トンネルの現場になった 白い着物の女が歩いていると話題になった 見張りの後ろに取り憑き、顔は上げず見せない ダルい体がダルいまずい

第一話 筋違い 神田筋違橋での事 なにやら空が朱い夜でな 女が歩いてくる すれ違い はて、と思って 「もし娘さん」声をかけた 「どちらからきなすった?」 女は少し私を眺めて「森」と答えた 緋い足袋裏は成る程、土で黒い 「どちらへいきなさる」 「蘇芳の家」 そしてまたすたすた 逢禍

第二十一話 穴二つ 妻と愛人が仲睦まじきことが 夫婦円満の秘訣 と言ってはばからなかったのは 武者小路実篤その人だったか 熱などと言うものはいつか冷めるもの 七日七晩、琵琶湖に裸で沈み 夫を呪って額に角を生やし鬼女となった姫は、深い嫉妬によりほんの数年で 年増の醜女となった 合掌

第三十二話 境界 硯屋の御堂は人がたの姿の曼陀羅布を背負うと、何もなかったかのように行ってしまった 「七福も付いていってしまった」 「文鎮だけに文鎮でしたわね」 代わりに置いて行ったのは硯屏風かと思いきや、香炉であった 「またなんの趣向を望みだろう」 「さあ?」 万代は刺繍に夢中

第二十話 行方 さる御新造さんの話である 明るく茶目っ気があるが、白地に黒抜きの蜘蛛の巣のような模様の着物をつけていて、個性的な人だ 私は万代にも仕立ててやりたくて、御新造さんを訪ねた 「あら」 御新造さんは飯の支度中だったらしく包丁を手にしている 後日その伝家の宝刀は川に沈んだ

第二十三話 窪み 門を出る 穴の中に鼻孔から上を出して 覗いている男がいる 「勝手に穴を掘られると困るのだが」 うわの空 しばらく行き振り返ると ズズズと穴が引きずられている 私は眼鏡を指で上げズレを直す どうにも引きずられているのは道のようで私は十歩すらも進んでいなかった