今どきの子どもたちのように、幼い頃からステッキの存在を知っていたわけではない。加えてそれを手にした頃にはもう、魔法など無邪気には信じられない年齢になっていた。なのに、ステッキといえば魔法、の連想はやまない。笑い皺ひとつ刻み、魔法使いの振りをして、紅葉の山へとステッキを向けてみる。
前世の報いだろうか、オレが縁を結びたい女たちはこぞって贈りものを欲しがる。縁日の水中花はまだカワイイほうで、今のド本命は月虹をかたち取った髪飾りが欲しい、と言いやがった。さて月虹とは──と調べてみたら、遠き南や山でのみ見られる月の虹、とある。 なるほど、関係未満で秋風は吹く、か。