一福千遥

趣味でのんびりと書き物をしています。 こちらはすこし長めの小説メインで置いてます。どう…

一福千遥

趣味でのんびりと書き物をしています。 こちらはすこし長めの小説メインで置いてます。どうぞよろしくお願いします。 ※フォローなどはご自由にどうぞ。 ※ネタが被ったらごめんなさい…… ※平穏不穏問わず、ここで書かれている世界観はすべて架空のものです。

マガジン

  • Novelber

    綺想編纂館(朧)様の企画「Novelber」への参加作品を置いています。秋の夜長、ひとときなりと共に過ごしていただけましたなら幸いです。

最近の記事

文披31題参加作へのスキをありがとうございます! 時に静かで時にドタバタ、夏模様をお楽しみいただけましたら幸いです! ……とはいえ、更新が遅いところはごめんなさい……

    • 散り花の白

      「これが最後の一本、か……」  シオミツの入口にある、かつては代書屋があったと聞く空き地にコウがテントを張り、五日が経つ。桐の箱に納められている線香は、もうとうに一本きりとなっていたが、それでもコウは火を点けられずにいた。 この一本に火を点け、すべて灰になれば、それはシオミツからの立ち去り時を意味する。  朝な夕なにあらゆる情の名残がかぎろうシオミツは、もはや昔日の栄の痕跡しか残らない場所であろうとも、たしかにあんまり長居すべきではないのだろう、そうコウは感じている。だが──

      • 雑貨店にて

         ──つい十数分前まで、軒下で雨宿りをしながら昔語りを聞いていたのが嘘みたいだ。  雷雨一過の快晴のもとをしばし歩き、コウは雑貨屋に辿り着いた。  西の港と南の港との、ちょうど真ん中にある木造のその店は、『雑貨取扱』と右から左に読む看板は掲げているものの、緑と黄色の縞模様の庇はとうに褪せてすすけていて、最初は空き家なのかとコウは思った。しかし見ていると、ちらりほらりながら人の出入りもあるし、木枠に曇り硝子が嵌められた引き戸の向こうからは、かすかながら、ぱちぱちと何かが鳴る音が

        • 雷聲ふさぎの

          「おお、また雨がざあざあはしってきて」 「雷も引き連れてきて、まあずいぶんとハデに暴れてくれるぜ」  南の港に向けてひらけた商店街へと、コウが食料の買い出しに向かうその途上で、唐突に湧いていた黒雲からどう、と雨が降りつけてきた。間一髪、コウは空き店の軒先に駆け込んでいたが──夏の日除けにいくらか庇を長く取っている軒先では、ふたり連れの老爺が、くらぐらとさかる雲がひろがりゆく空を見上げている。 「今年はよくよく海から雷が来るねえ、千ちゃん」 「なぁに金ちゃん、ここで雷ゴロゴロ雨

        文披31題参加作へのスキをありがとうございます! 時に静かで時にドタバタ、夏模様をお楽しみいただけましたら幸いです! ……とはいえ、更新が遅いところはごめんなさい……

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        • Novelber
          30本

        記事

          遅くなりましたが、文披31題参加小説へのスキをありがとうございます! マイペース更新にも程がありますが、ひととき、お楽しみいただけましたなら幸いです。

          遅くなりましたが、文披31題参加小説へのスキをありがとうございます! マイペース更新にも程がありますが、ひととき、お楽しみいただけましたなら幸いです。

          こごりふみ

          「……さすがにシオミツのど真ん中にテント張れるほど、肝がすわってるワケでなし」  南から左に曲がり、シオミツへと足を踏み入れるその三軒分手前で見つけた、高台に向かって細長い空き地に、コウはネイビーブルーのテントをはためかせた。シオミツ、と呼ばれる街をつらぬく一本路の片側のみ、高台を背に建つ家屋の倒壊も怖いが、それ以上に街の痕に今なお息づいているものを前にしてしまっては、気どころか腰も引けるのが人情というもの。  磨り硝子にレトロ硝子と、さまざまに貼り混ぜられている蘭燈に、いつ

          こごりふみ

          「いくつもの、息を埋めて」に、思っていた以上にたくさんのスキ、をありがとうございます! 趣味も手癖も全開で書いた物語なので、照れつつもありがたく受け止めてますす!

          「いくつもの、息を埋めて」に、思っていた以上にたくさんのスキ、をありがとうございます! 趣味も手癖も全開で書いた物語なので、照れつつもありがたく受け止めてますす!

          今年の文披31題参加作にスキ、をありがとうございます! インスピレーション一発勝負で書いておりますが、気になる作品がありましたなら嬉しいです!

          今年の文披31題参加作にスキ、をありがとうございます! インスピレーション一発勝負で書いておりますが、気になる作品がありましたなら嬉しいです!

          いくつもの、息を埋めて

          「ここが、シオミツ……」  さまざまな破片や石ころに埋められそうになっている路を前に、コウは息を飲んだ。  港の端から高台へと続く坂道の半ばで見えてきた路を左に曲がった先には、背の高い樹がずらりと並んでいる。常緑の、重たい緑の葉先がぎちぎちと触れ合うその下に、二階建ての建物が押し黙るように点在していた。重く閉ざされた雨戸やシャッターに傷をつけながら、かつては色がついていた、と分かる瓦の欠片が、いくつも路に落ちている。しかしそれは、街全体で色を揃えたような感じではなく、それぞれ

          いくつもの、息を埋めて

          今年の文披31題参加作へのスキをありがとうございます! 例年以上に筆まかせの物語たちですが、ひととき、お楽しみいただけましたなら幸いです。

          今年の文披31題参加作へのスキをありがとうございます! 例年以上に筆まかせの物語たちですが、ひととき、お楽しみいただけましたなら幸いです。

          遠いとおい、蒼ひとつ

          「まるで標本、みたいなお店だな」  西の港から南へと、河岸替えに歩き出した途上でコウが見つけた、一軒の空き家。深いオリーブ色と白の市松模様のタイルにガラスケースと出窓、その奥のショーウィンドウも、居並ぶ厚手のガラス製の壺も、すべて透明なまま残されている。それでいて、何かしらの大売り出しをやったような幟や貼り紙の跡も見られない。日々の商いを淡々と続け、すべての品々を売り切ったところで、あしたまたすべて補充しよう──と、これもまたいつものように思い立ったところで、ふわりと刻を止め

          遠いとおい、蒼ひとつ

          さかなたち

           ──ここのところ梅雨の晴れ間が続いたから、すっかり油断したのは認めるしかない。 「はあーっ、やられたぁ……」  午後の眠気ざましにと、西の港に散歩に赴いたコウは、そこでいちばん古いと言われている桟橋から、先に続いているらしい古い路を見つけた。そして、好奇心の赴くままにひょこっと探検気分で歩いていった──までは良かった、が。  海から吹きつけた一陣の風は、潮泊にはめずらしい雷雲を連れてきた。そして、あっという間に一帯を覆った黒雲は、地上に向けて容赦なくするどい雨滴を叩きつけて

          さかなたち

          あの夏の太鼓橋

          「あの太鼓橋、船で通すためにあのかたちにしたのかな……?」  テントを張った空き地から、すこし東へと離れたところに在る川沿いを、コウはのんびりと散歩していた。年代ものの石から成る護岸の跡と、ずいぶんと黒ずんだ木組みの太鼓橋からは、潮泊の歴史が存外に長いことがなんとはなしに感じられる。海へと向かい、ゆるやかに流れているあわい翡翠色の水からは、底の深さを容易には測れなかった。 「カーブのてっぺんはけっこうな高さだし、度胸試しであそこから川に飛び込むヤツ、絶対いそう」  潮泊に辿り

          あの夏の太鼓橋

          スキ、にフォローと、ありがとうございます! のんびりまったり更新ですが、どうぞよろしくお願いします!

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          TIDE

          「コウちゃん、その蘭燈の硝子は『TIDE』のだよね?」  まだ熱を帯びた風が吹きすぎてゆく空き地に張られた、ネイビーブルーのテント。その陰でバタフライチェアに座りながら、さて今から昼寝をしようかどうか、瞼に決めさせようとしていたコウは、かけられた声に跳ね起きた。  くりっとした黒い目をまたたかせ、コウは声の主へと向き直ると──にこっ、と笑う。 「ああ、木滝さん」  年の頃は七十……いや、もう八十さえ過ぎているとおぼしき、すっかり白髪頭の老爺は、白ポロシャツにベージュのチノパン

          いずれ海より

           ──……なんでこんなとこにテント?  夕時にはいり、すずしい風が海から吹いてくる。そのただなかで、風に揺れているテントの影を見つけた正太は首をかしげた。  今日は宿題を忘れたのに加え、梅雨の隙間の晴れを逃すなとばかりに、昼休みのチャイムが鳴っても上級生や同級生たちとドッジボールに夢中になっていた正太は、とうとう担任の堪忍袋の緒を引きちぎってしまった。そのせいで正太は、建付けの良くはない小学校の窓枠を夕暮れが紅く染める時分まで、居残り勉強をさせられていた。  七月に入った初日

          いずれ海より