ニューロダイバーシティ -発達特性のある人たちが輝く世界-
ダイバーシティ
障害者の雇用というと、人権とか平等、共生など福祉的な観点で捉えがちですが、欧米では少しニュアンスが異なるようです。高齢者や女性、ジェンダー、外国人などあらゆる多様な人材を受容し、個々の個性を伸ばしてそれぞれが活躍するダイバーシティ(多様性)の考え方は近年、日本でも広まっていますが、欧米ではD&I(Diversity and Inclusion)と表されるように、インクルージョン(包括性)とセットが当たり前のように見受けられます。
インクルージョン
インクルージョンは多様な個性を取り入れて、組織やチームを活性化したりイノベーションを創出したり、生産性を向上させるという意味を含みます。ですから、欧米では、より積極的に、戦略的にD&Iが進められてきたようです。平等や公平性はエクイティ(Equity)とされD&Iとは区別されます。多様性、公平性、包括性をセットにしたDEIという表現もあります。
日本では、前述の福祉的な観点から「障害者の法定雇用率が引き上げられるから障害者を雇用しよう」とか、「人手不足を補うために高齢者や女性、外国人を雇用しよう」という風潮が強いように感じます。しかし、多様な個性を受け入れ、組織に取り入れて活用することでより生産性を向上させる、という本来のD&Iの観点もまた必要なことだと考えさせられます。こうして見てみると、D&Iは攻めの経営戦略、攻めの人材マネジメントだと言えます。
ニューロダイバーシティ
このように欧米では、多様性を受け入れ、活用することで、新たな発展を遂げていますが、特に、ニューロダイバーシティ(脳の多様性)は重要なテーマとなっています。ニューロダイバーシティとは、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)など、脳や神経の構造や機能の違いに基づく個人の特性を組織に取り入れて成長を促す考え方です。米マイクソフト社がニューロダイバーシティ導入の先駆けと言われています。
日本の障害者雇用の現状
ここで、日本の障害者雇用の現状を見ておきます。厚生労働省の令和5年の障害者雇用状況の集計結果によりますと、民間企業における障害者雇用数は約64万2,178人で、前年比4.6%増加しました。実雇用率は2.33%で、前年比0.08ポイント上昇しています。法定雇用率達成企業の割合は50.1%に上昇しました。
雇用者のうち、身体障害者は360,157.5人(対前年比0.7%増)、知的障害者は151,722.5人(同3.6%増)、精神障害者は130,298.0人(同18.7%増)と、いずれも前年より増加し、特に自閉スペクトラム症(ASD)やADHDなどいわゆる発達障害者を含む精神障害者に大きな伸びが見られました。
2024年4月に法定雇用率が引き上げられますが、これが、障害者の雇用が多くの企業で進められている要因と思われます。
ニューロダイバーシティの事例
オムロン:特性を活かした採用戦略
デジタルハーツホールディングス:ニューロダイバーシティの先駆者
グリー:革新的かつ包括的な人材マネジメント
ニューロダイバーシティの経済効果
アメリカの調査会社ガートナーは、2027年までに「フォーチュン500」の企業の25%がニューロダイバージェントな人材を積極的に採用し、業績を向上させると予測しています。
2021年3月、野村総合研究所は発達障害者が日本で未活躍であることの損失額は、2兆3000億円と推計する調査結果を発表しました。ASD、ADHD、LDはまだ診断されていない潜在的な人たちもいると想定されていることから、この損失はまだ増えると考えられます。
日本において、ASDやADHDの人々は約140万人に上ります。また、2022年に文部科学省が発表した調査では、通常学級において「学習面または行動面で著しい困難を示す」児童が8.8%いると報告されています。個々の能力を社会に生かすことは、経済的な損失を減らすだけでなく、新しい価値を生み出す可能性を秘めています。
ニューロダイバーシティが強固な組織をつくる
2024年1月19日の日経電子版には、ニューロダイバーシティの記事が掲載されており、取材に応じた臨床心理士の村中直人氏は次のように指摘しています。
個人差があることを前提に、多様な社員をうまく組み合わせることは、生産性やイノベーションが望めるだけでなく、より強固な組織を形成することにもつながると言えそうです。
当事者の視点
このように、ASDやADHDの人たちが社会で活躍できる可能性が広がるニューロダイバーシティは、ぜひとも進めていきたい取り組みです。放課後等デイサービスや就労移行支援、就労継続支援にも取り入れて、発達障害をもつ方々の就労支援に役立てることができそうです。
ここで忘れてならないのが当事者の視点です。企業は、ニューロダイバーシティを活用するために、個々の社員の特性に合わせた働き方を提供する必要があります。例えば、特定の環境でのみ集中できる人には、その環境を整えること、または固定的なルールに縛られず、個々の特性を活かした業務配分を行うことが重要です。
さらに、当事者にとっては、仕事の環境や将来のキャリア形成も大切ですが、自分の体のケアについても強い関心があります。2011年のBagatellの研究によれば、本人たちのニーズの上位は自分の体のことが中心です。
受け入れる側の会社や社会は、このような体のケアについても十分に配慮する環境を整える必要があります。
まとめ
ニューロダイバーシティは、単なる障害者雇用の枠を超え、個人の特性と能力を最大限に活かすことで、企業や社会全体のイノベーションを促進する鍵となると言えそうです。
企業が多様な脳を持つ人々の力を認識し、活用することは、私たちが関わるASDやADHD、LDといった子どもたちが将来、部分的にも自立したり、選択して生きていく、一つの取り組みとなるでしょう。
当事者本人の状況や感情を大切にしながら、当社でも放課後等デイサービスや就労継続支援B型事業所などを通じて、発達特性のある人たちが輝く取り組みを積極的に進めて参りたいと思います。
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