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『三都メリー物語』⑤
日が暮れてしまうと11月でもやけに冷える。電車の中にいても扉からの隙間風で、そう感じる。座席に座っていると足下だけがやけに暖かくて電車の小さな揺れが眠気を誘う。
藤岡准教授は、東向日という駅で降りた。四条河原町の駅のホームで藤岡准教授は、なぜ私を抱きしめたのだろうか?
奥さんに離婚しましょうと言われて寂しかったのだろうか? 抱きしめたかったのは誰でも良かったのだろうか?
それとも、私だから
『三都メリー物語』⑥
大学の図書館の窓から見える空は、12月とあってどんよりしている。川田レイは、3時限めが終わってから大学が明日から冬休みに入るので学生は少ない図書館でレポートを提出するためにまとめていた。
暖房の効いた天井の空調機から暖かい空気が、レイに眠気を誘う。レイの手からボールぺンが離れて机に転がって椅子から何処かへと落ちていった。
レイの斜め後ろの席の学生の足下にあることに、その学生が気付いて、ボールペン
『三都メリー物語』⑨
立春後の寒気で、寒があけてもまだ残る寒さのことを余寒(よかん)というらしい。
レイは、氷点下で白く凍った道路を仕事に向かう駅へと歩いていると、そのうち東の空から眩しい太陽の日が差し掛かってきた。レイは、自分の吐く息が一段と白くなるのがわかった。
入社してレイは、3年目からもうすぐ4年目に入る。そんなある日の午後の3時の休憩後に、レイのいる部所に上司の島田さんと共にフロアに入って来る女性がいた。
『三都メリー物語』⑩
西の空に夕日が沈みかけている。辺り一面が
藍色に染まるそんな光景をブルーモーメントというらしい。天気がよく雲のほとんどない、空気の澄んだ日にだけ現れると言われている。
レイは仕事を終えて駅まで歩いていると、その光景を目にした。電車に乗り、帰宅ラッシュの人並みに押され車内の奥へと進む。
昨日は、何のメールもなかった。そんなものよ。名前も書かずにいたのだから。レイはそう思う。
電車は進み出すと、
『三都メリー物語』⑪
しゃ光カーテンの隙間から微かに太陽の光りが差し込んでいるのに目が覚めた。起き上がると少し肌寒い。慌ててレイはエアコンの暖房をいれた。
同じベッドで寝息を立てている夫の藤岡准教授を起こさず、静かに部屋を出た。
洗濯機に汚れた洗濯物を入れ、洗剤も入れてスイッチを押す。
温かいコーヒーを入れて飲んだ。
そういえば、レイの上司である34歳の男性の島田さんと、この会社を知り尽くしているようなレイの
『三都メリー物語』⑫
その夜、商店街のくじ引きで当たった花火セットを持ってレイと藤岡准教授は、自宅マンションの近くにある川沿いを歩いた。
夏の夜は、日昼と違って太陽のギラギラした刺激がなく、ぬるくて気だるいとレイは思う。
街灯やマンションの家々の明かりから遠ざかったところで花火に藤岡准教授は、火をつけた。
しゃー、という音と共に火花を落としながら、一気に明るくなる。
二人は、童心に返ったように次の花火に火を