Haru /文化人類学系ブロガー

パリ在住20年のHaruが、文化人類学系ブロガーとして、フランスの最新情報、文化、社会…

Haru /文化人類学系ブロガー

パリ在住20年のHaruが、文化人類学系ブロガーとして、フランスの最新情報、文化、社会問題、そしてフランス文学・映画をエッセイで綴ります。 インスタグラムにて、日本・海外文学と映画の紹介と感想を投稿 →haruparis.aimelire

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最近の記事

多和田葉子の『旅をする裸の眼 』を読んで

内容紹介: ヴェトナムの女子高生の「わたし」は、共産主義政権が終わる少し前の東ベルリンに講演をするために訪れたが、知り合った青年に西ドイツ・ボーフムに連れ去られてしまう。サイゴンに戻ろうと乗り込んだ列車でパリに着いてしまい、不法滞在者で住所もなく、10年以上もパリを彷徨する。スクリーンで見る女優カトリーヌ・ドヌーヴの映画が「わたし」の心のよりどころとなる。 感想  多和田葉子さんの小説を読むのは初めて。 何の予備知識もなく、ただ内容に惹かれて本書を手にとった。 最初の感想

    • アゴタ・クリストフの『文盲』を読んで

      アゴタ・クリストフの『悪童日記』三部作を読んだことがありますか? 読んだ人は間違いなく衝撃を受けたはず。 本作で1986年にフランス文壇デビューを果たし、40ヵ国以上に翻訳された世界的に注目され、日本でも堀茂樹さんが翻訳をされて1991年に出版され反響を呼んだ。 初めて読んだ時のショックを今でも覚えている。こんな残酷な子供たちを書くなんて。著者は男性の名前のようだが女性で、しかもハンガリー人がフランス語で書いているではないか! 日本語で読んだ後にフランス語で読んでみると

      • 金原ひとみの『パリの砂漠、東京の蜃気楼』を読んで

        パリと東京 金原ひとみの作品を読むのは初めて。独特な世界観を持つ彼女の作品を一度読んでみたいと思っていた。 私がまず選んだのは、パリで暮らした6年間と東京に戻ってからの2年間を綴ったこのエッセイ。金原さんは、全て事実通りというわけではなく私小説のような作品だという。彼女が書くパリ生活とはどんなものなのか、なんとなく興味があった。 またタイトルにも惹かれた。なぜパリが砂漠で東京が蜃気楼なのか? パリを砂漠に例えた作家は彼女だけではないが、パリに20年住む私はここに慣れきっ

        • パティ・スミスの文学と追憶の旅路 ー 『M Train』 を読んで

          ヴァカンスシーズン真っ只中にもかかわらず、私は普段と変わらず職場に行き、夏休みを利用してパリに買い物に来る客を相手に仕事をしている。 コロナ禍のせいでずいぶん閉鎖的になってしまった世の中ではあるけど、私までもが旅行や外出を恐れたり、コロナがもたらす未来の変化に不安を抱く必要はない。そう思うと、「もっと自分の心を解放して自由に生きよう!」と、パンク調で(パンクはほとんど聴かないけど)歌い叫びたくなった。 そんな時、本棚に並べられているパティ・スミスの本が目についた。かつてパ

        多和田葉子の『旅をする裸の眼 』を読んで

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        • フランス文化
          0本

        記事

          〈新しい韓国の文学1〉 ハン・ガン著  『菜食主義者』 / 『La Végétarienne』

          森の中で強い風と雨に打たれながらも何もできずぼっと立ちすくんでいる。そんな余韻の残る読後感。『菜食主義者』は、今までに読んだことのない小説だ。 著者 : ハン・ガン (韓江) 出版社 : クオン 受賞歴 : 『蒙古斑』李箱文学賞(2005年)、マンブッカー国際賞(2016年) 内容紹介 本作は、主人公ヨンへを観察する3人の視点を通して語られる連作小説集。 『菜食主義者』は、ごく平凡な女だと思って結婚した妻・ヨンへが、ある日を境に肉を拒否して日に日

          〈新しい韓国の文学1〉 ハン・ガン著  『菜食主義者』 / 『La Végétarienne』

          「フランスと私 ー遠藤周作と須賀敦子はフランスで何を経験したのか」

          フランス留学の体験をモチーフにした遠藤周作の『留学』と須賀敦子の『ヴェネッツィアの宿』は、彼らのように実際フランスに留学生として来て、すでに20年もパリに住み着いた私にとって特別な書物となった。まるで私の気持ちを汲み取って書いているかのように思えたからだ。 もう一度これらの本を手にとって、私は2人の偉大な著者が、フランスで何を見て何を経験したのかを、2人のフランス留学での共通点と相違点に焦点をあてながらまとめてみようと思う。 2人の共通点と相違点1. バックグラウンド

          「フランスと私 ー遠藤周作と須賀敦子はフランスで何を経験したのか」

          Saint Valentin❤️ バレンタインデーだから読みたいフランス大物カップルの恋文

          バレンタインデーに相応しい、フランスの大物2人のラブストーリーが詰まった、『異邦人』や『ペスト』で有名なノーベル賞作家のアルベール・カミュと女優マリア・カザレスとの『Correspondence (1944-1959)』往復書簡集を紹介。 スペイン出身で、20世紀を代表する悲劇女優マリア・カザレスについては、マルセル・カルネ監督の映画『天井桟敷の人々』(1945年)のナタリー役がもっとも有名かも知れない。 10年以上も交換された 865通のラブレターに、電報なども含めて1

          Saint Valentin❤️ バレンタインデーだから読みたいフランス大物カップルの恋文

          勇気ある2人の告白本 による 未成年者に対する性的虐待がフランス社会に衝撃を与える

          2020年に、著名作家ガブリエル・マツネフ氏(現在83歳)のペドフィリア(小児性愛)の被害を訴えたヴァネッサ・スプリンゴラ(47歳)の『Le Consentement((性的な)同意)』が出版され、文学界やフランス社会に衝撃を与えたばかりだ。当時、著者が14歳でマツネフ氏が50歳。2年近くかけて性的関係を結んでいた。 新年を迎えてすぐに、有名な政治学者のオリビエ・デュアメル氏(70歳)の近親相姦を告白する、義理の娘カミーユ・クシュネル氏(45歳)の『La Familia G

          勇気ある2人の告白本 による 未成年者に対する性的虐待がフランス社会に衝撃を与える

          文学という名の性的虐待 : 言葉を武器に反撃するロリータ

          2020年1月に出版されたヴァネッサ・スプリンゴラの『同意』は、文学界に大きな動揺をもたらした。 著者ヴァネッサ・スプリンゴラ(48歳)が、著名な作家のG.(ガブリエル・マツネフ(83歳))に出会ったのは13歳の時だった。リベラルな母親に育てられ、時々会う父親からは愛情を感じられず、孤独な幼少期をおくっていた。そんなヴァネッサは文学だけが心のよりどころだった。 ある日、小さな出版社で働く母親に連れられて夕食会に参加する。その場に居合わせた流行作家のG.の熱い視線を受けたヴ

          文学という名の性的虐待 : 言葉を武器に反撃するロリータ

          Culture/文化 : フランスの各文学賞が書店再開と同時に発表

          通常は11月上旬に発表される各文学賞が、ロックダウンによってフランスの書店が閉鎖されたため、解除を待っての発表となりました。 これには、書店が営業停止となっている間に発表をしてしまうと、ネット通販大手の売り上げを伸ばすことになり、個人営業の書店の売り上げに繋がらないことから、書店営業再開まで発表を待つという計らいがあったのです。 この記事では、各受賞者や受賞作品をお知らせして、作家や作品内容についてのレビューは、別の記事にまとめることにします。 尚、まだ正式に翻訳までに至

          Culture/文化 : フランスの各文学賞が書店再開と同時に発表

          フランス初出版、三島由紀夫『命売ります』

          意外にもフランスでは、三島由紀夫の作品は全て英訳から仏訳がされていた。『仮面の告白』が2019年に日→仏に新訳され、後を追って2020年に『命売ります』(1968年)が、仏語で初めて訳され出版された。本作を私は日仏の順で読んでみた。 今回はフランス語翻訳に重点を置いてレビューするとしよう。 三島由紀夫は、……(中断[省略]符)をよく使う。(写真2) フランス語には3つ以上の句読点…は存在しない。 だが、ガリマール出版社はあえて6つの……を用いる事にした。 "……は、

          フランス初出版、三島由紀夫『命売ります』

          フランス映画の巨匠ジャン・ルノワールの インド映画 : 河 (The River/ Le Fleuve)

          父親が印象派画家のオーギュスト・ルノワールである、フランス映画の巨匠ジャン・ルノワールの初のカラー映画『河』は、ルノワールの絵画を見ているような色彩鮮やかで柔らかい雰囲気と、インドのスパイス色が散りばめられたエキゾティックな陶酔の映像美を背景に、3人の少女の儚い恋心が織り交ぜられた傑作。1951年ヴェネツィア国際映画祭国際賞を受賞。 制作年 : 1951年 制作国 : アメリカ 原作 : ルーマ・ゴッデン キャスト : ノラ・スウィンバーン、エスモンド・ナイト他 あらすじ

          フランス映画の巨匠ジャン・ルノワールの インド映画 : 河 (The River/ Le Fleuve)

          Société/社会 「パリでアジア人への差別行為が頻発」

          アジア人に対する暴力の訴えにより、検察の調査が開始されました。 新型コロナウィルスの責任は中国にあると非難し、再ロックダウンの前後にアジア系の人々に対する憎悪の言葉や、中国人を襲うよう呼びかけるメッセージがSNS上で発信されました。(フランスの新聞Le Monde 01/11/2020から抜粋と翻訳) メッセージの内容 「もう漫画はやめて、これからは犬を食べるつり目の黄色アジア人を狩ろう、絶対に許さない。」 「フランスの全ての黒人とアラブ人は、道ですれ違う全ての中国人を襲

          Société/社会 「パリでアジア人への差別行為が頻発」

          韓国人女性がフランス語で書いた小説  グカ・ハンの『砂漠が街に入り込んだ日』

          韓国からフランスに学生で来て、6年あまりで仏語で書きあげたのには脱帽。(私は20年もいるのに…😢) グカ・ハンは、私も4年通ったパリ第8大学の修士課程で、文芸創作を学んでいる時に執筆したそうだ。 * 本作は、孤独や子供の頃の記憶が主なテーマの8作の短編からなり、語り手8人には名前がなく、フランス語の男性系か女性系を見分ける動詞の活用によって男女を区別できる。どちらなのか混同させる文章もたまにあるが、あまり気にならなくて済んだ。また、もしかすると8人は同一人物なのかな、と思わせ

          韓国人女性がフランス語で書いた小説  グカ・ハンの『砂漠が街に入り込んだ日』

          Mode/ モード

          Mode : avec le Covid-19 les maisons de luxe souffrent et se réinventent (モード : コロナにより高級ブランドは苦しみ、そして革新する) フランスの高級ブランドは、90%以上が輸出業に頼るため、売上高の大部分はアジア市場をはじめ、パンデミックの影響を受けた、または現在影響を受けている地理的地域から来ています。また、これらの地域は売り上げ全体の50%以上となります。なお、戦略的な市場でもある米国は、現在

          Culture / 文化

          Confinement : François Busnel lance une pétition contre la fermeture des librairies (外出制限 : フランソワ・ビュネルが書店の再開を要求するオンライン請願を開始) フランスはコロナ第二波の影響から、10月30日から外出禁止に踏み切りました。生活必需品店ではないと見なされている書店は、ロックダウンのために再びシャッターを閉めることを余儀なくされた一方、Amazonのようなオンラインで本を売る