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フランス初出版、三島由紀夫『命売ります』


意外にもフランスでは、三島由紀夫の作品は全て英訳から仏訳がされていた。『仮面の告白』が2019年に日→仏に新訳され、後を追って2020年に『命売ります』(1968年)が、仏語で初めて訳され出版された。本作を私は日仏の順で読んでみた。

今回はフランス語翻訳に重点を置いてレビューするとしよう。

三島由紀夫は、……(中断[省略]符)をよく使う。(写真2)

フランス語には3つ以上の句読点…は存在しない。

だが、ガリマール出版社はあえて6つの……を用いる事にした。

"……は、作家の文体探究による基本的な側面であり、それは作品に独特のリズムと性質を与える"と説明。(写真3)

また、カタカナ表記の単語は無理にフランス語に訳さず、英語で訳されている場合がある。

従って、仏語でも原書と同じリズムで読み、訳に違和感を全く感じなかった。さすが、大ベテランの翻訳家ドミニク・パルメさんが訳しただけある。

そこで、ドミニクさんが三島由紀夫の翻訳を手がけたきっかけに触れてみる。

"『仮面の告白』の仏訳と原書双方を読んだとき、「これこそ自分が訳すべき作品、翻訳家人生最大の出会い」だと確信したという。削除・追加された部分や誤りがある英訳からの仏訳には、作家の文体とエスプリ、つまり三島の「声」が聞こえないと感じた。その声をフランス語で「歌わせたい」とパルメさんは願い、第1章を訳した。しかし、2003年にガリマールに新訳を提案した後、諸々の不明な事情により、出版が決まるまでなんと13年も待たされた。

分析力に優れ、理詰めの構成家だった三島は他の日本の作家と異なり、「文章の構造がフランス語に近く、曖昧な語彙を使わないので、仏訳の方が読みやすいかも」とパルメさんは言う。" (Ovni 日本人向け・パリの新聞870号より抜粋)

フランス読者の感想はどんなものかと、インスタやBabelioのコメントを読んでみた。

ほとんどの読者が、"日本を代表する文豪"や"切腹自殺"の事に触れている。初めての三島由紀夫作品読書の方も多く、思ったより読みやすかったが深さを感じるとの感想が多い。

私が気に入った感想は以下の通り。

• 村上春樹がウェルベックに出会った感じ
• 暗いテーマだがユーモアに満ち、どこかシニカルでメランコリック
• 本当の生きる意味と価値を教えてくれる


実は私も読書中『羊をめぐる冒険』を思い出した。羽仁男が鼠のぬいぐるみ相手に話す場面や、全体的なリズムと奇妙な登場人物らに、村上春樹を読んでいるような錯覚に陥った。シニカルな部分は、確かにウェルベックのスパイスが加えられたみたいだ。(笑)

仕事や生活に疲れ自殺を試しみたが失敗した羽仁男は、命を売るにつれ孤独と不安になっていく。何故なら、自分が他人に必要とされている、愛されている実感が生へと執着させるからだ。

大衆向けであるがため読みやすく、物語の展開が面白いだけでなく、三島由紀夫の奥深い哲学が込められている。作家の才能に又もや唸るばかり。

自決する2年前に、『命売ります』という意味ありげな題名で執筆された作家の、孤独、組織、生死に対する哲学みたいなのを感じた文章を抜粋。

「人が見たら、孤独な人間が、孤独から救われたいあまりの、つまらん遊びと見えるだろう。だが、孤独を敵に廻したら大変だぞ。俺は絶対に味方につけているんだから」p51

「世界が意味があるもに変れば、死んでも悔いないという気持ちと、世界が無意味だから、死んでもかまわないという気持ちとは、どこで折れ合うのだろうか。羽仁男にとっては、どっちみち死ぬことしか残っていなかった。」p76

「シャンデリアのかがやく大会議場の天井の裏側にも、こんな鼠の宿の天井の裏側にも、同じ壮大な星空があるのだ。悲惨や孤独は、幸福や成功と、この星空の下では全然同じものだった。一つひっくりかえせば、どこからも同じ星空がのぞくに決まっているのだ。彼の人生の無意味は、だからその星空へまっすぐにつながっていた。」p216

「(…)僕はあんた方のような不潔な組織になんか入りたくない。僕には道徳なんかないから、あんた方が何をしようと咎めない。人を殺そうと、金や麻薬や銃器の密売をやろうと、そんなことは僕の知ったことじゃない。ただあんた方が、人間を見れば何らかの組織に属していると考える、その迷信を打破してやりたいんだ。そうでない人間も沢山いる。そりゃもちろんあんた方もみとめるだろう。しかし、何の組織にも属さないで、しかも命を惜しまない男もいるということを知らなくちゃいかん。それはごく少数だろう。少数でも必ずいるんだ。」p250


« Vie à vendre » de Yukio Mishima est inédit depuis la parution au Japon en 1968. C’est un grand écrivain japonais reconnu notamment par « La Pavillon d’or ».

Ce livre est considéré comme une littérature populaire puisqu’il a été publié dans la revue « Playboy hebdo japonais ». D’un coup sans savoir la raison, ce roman a eu un grand succès en 2015 - 2016 au Japon. En 2018 le roman a été adapté pour un feuilleton télévisé.

Résumé :
Hanio est un rédacteur de publicité de 27 ans fatigué de vivre. Après une tentative de suicide ratée, quitte son emploi et annonce sa propre vie à vendre dans un journal de Tokyo. La vie de Hanio est bouleversée lorsqu'il accepte au fur et à mesure les demandes qui répondent à son offre.

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