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勇気ある2人の告白本 による 未成年者に対する性的虐待がフランス社会に衝撃を与える

2020年に、著名作家ガブリエル・マツネフ氏(現在83歳)のペドフィリア(小児性愛)の被害を訴えたヴァネッサ・スプリンゴラ(47歳)の『Le Consentement((性的な)同意)』が出版され、文学界やフランス社会に衝撃を与えたばかりだ。当時、著者が14歳でマツネフ氏が50歳。2年近くかけて性的関係を結んでいた。

新年を迎えてすぐに、有名な政治学者のオリビエ・デュアメル氏(70歳)の近親相姦を告白する、義理の娘カミーユ・クシュネル氏(45歳)の『La Familia Grande (大家族)』が出版さた。この性的暴行に関する告発が、またもやフランスの社会を動揺させ、現在デュアメル氏に対する刑事的な取り調べが行われている。

『La Familia Grande (大家族)』

当時13歳だった双子の弟への性的暴行は数年間続いた。弟は著者の姉にだけに打ち明けていたが、口止めをしていた。当時、二人の母親は両親の自殺により鬱状態に陥りアルコールに依存する生活をおくっていた。再婚した夫のデュアメル氏はその間に、義理の息子に性教育だと称して性的虐待をしていた。事が終わるたびに隣の部屋で寝ている双子の妹カミーユの部屋に訪れ、口止めする合図をしていた。妹は大好きだったやさしい義理の父親の言うことを聞き入れた。
本書は初版7万部が予定されていたが、発売4日後に22万部以上の増刷が決まった。

この本がフランス人の関心を寄せる理由にまず、双子の家族が著名人でエリートだということ。実の父親ベルナール・クシュネールは、NGO「国境なき医師団」の創設者の一人であり、ミッテラン政権下で保健大臣、サルコジ政権下で外交大臣を務めた。教授の母親は80年代にデュアメル氏と再婚している。エリート家族の中で育った著者自身も、大学教員や弁護士を務めている。母親の妹で著者の叔母は、ゴダールの映画にも出演する女優であった。関心を寄せる2つ目の理由に、有名人家庭、ブルジョワ階級の家庭の崩壊が描かれていること。これらが読者を惹きつける要素なのだろう。

本書の核は、家庭内での性的虐待を誰にも打ち明けられなかった双子の「沈黙」にある。その「沈黙」のせいで被害者の弟はトラウマとなり精神的な治療を受けたり、自分の家庭を持っても内に篭ってしまうようになってしまう。カミーユ自身も弟を救えなかった罪悪感から精神衰弱に陥り入院をするまでとなる。カミーユは、ヒーロー的存在の実の父親や大好きな母親、自分にはやさしかった義理の父親を庇う意味でも「沈黙」するしかなかった。

もう1つの沈黙は、事実を知りながらも隠し続けた周りの大人たちの「沈黙」だ。実の両親も子供達に口止めを強いていた。加害者のデュアメル氏をよく知る人たちの中にも見て見ぬ振りをする者もいた。著者は、弟以外にも性的暴行を受けた被害者がいると見ている。デュアメル氏に直接語りかける文章がある。「あなたは私たちの育ての親で実親ではないけれども、あなたが弟にしたことは近親相姦なのよ。弟はあなたを信頼して、あなたの「性教育をしてあげるから」というバカげた言葉を信じて性的同意をしたかも知れない… 大人が子供の信頼と性的同意を濫用するのは暴力なのよ。わかるかしら?」

事件から20年経って、二人は事実を知らされた長男と弟の妻に支えられながら母親に告白する。母親は「どうしてもっと早く言わなかったの?その時に言ってくれてたら別れてたわ。でも、もう手遅れ。私には別れる自由がないわ」、「挿入がなかったならばレイプにはならないわ」、「真の被害者は私よ」と言いむしろ夫を庇う。この時から何よりも自分の「自由」を優先させる母親とも更に距離を置くようになる。

2017年に母親が肺がんで亡くなった。これを機にだれも聞きいれてくれなかった事実を、弟の同意を得て本にまとめることにする。
著者は本の最後に今はいない母親に手紙を書く形で語りかけている。「マモン、あなたはどこにいたの? 私たちが不安に苛まされている間に何をしてたの? 私がこんなにも好きだったあなたは、事実を知ってから何をしてくれたの?」
私は冒頭からこの最終章まで、著者の救いを求める叫びがずっと聞こえるようだった。

本書が出版されて、フランスでは10人に1人が親から性的虐待を受けたことがあることが明らかになった。マクロン大統領はツイッターで「勇気ある妹の告白により、こうしてネット上で被害者が声を上げている。私たちはあなた方の味方です。過去や全ての性的暴行を罰しなければならない」など、「沈黙」を破り告発することを促している。このように、フランスでは家族内における性的な犯罪が今後はもっと可視化されていくと思われる。

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