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生牡蠣のような感受性で |日記(5/24-5/26)

5月24日(金)
緊張で5時前に目が覚める。動悸がうるさい。いつもの時間にベッドから起き上がり、支度をする。昨晩から夫は「大丈夫」と繰り返し言ってくれている。彼を見送ったあと『私より先に丁寧に暮らすな』を聴きながら朝ご飯。20代のうちに自分の取説を知っておくことが大事らしい。家を出るまで少し時間が余ったので、BRUTUSで茨木のり子の詩をもう一度読む。昨晩読んで涙が止まらなくなったのだ。大人になってもどぎまぎしたっていいし、頼りない生牡蠣のような感受性を持ったままでいい。この脆い心をどうにかするというより、取説を作っていけたら。そんなことを考えながら、仕事に向かう。行き道の急勾配の坂にキレそうになりながら職場に着くと、先輩に「今日は本社に行かなければならなくなった」と告げられた。さらに受け取った雇用契約書の名前の漢字が間違えていたが、色々めんどくさくなりそうだったのでそのまま受け取る。見送る際、「事務所で一人になってしまうので、音楽かけてもいいですよ」と言われた。ゆるい。とはいえ、経理の仕事でたくさん修正が入っていたので、結局黙々と仕事をこなした。本社で私の仕事のチェックを担当してくれている方はとても優しく、何度電話しても快く教えてくれた。来月、再び新幹線に乗って直接教えに来てくれるということがわかり、安堵する。一人きりの事務所はとても静かで、外から小鳥のさえずりが聞こえる。行き道の通勤路があまりにも登山だから、出勤直後はつい辞めてやるって思ってしまうけど、自然に囲まれているのはありがたい。時間になったので鍵を閉めて帰る。バスの待ち時間にコンビニで牛乳を買っていると、出た瞬間にバスが行ってしまった。こういう日もある。次のバスに乗車して帰宅。ちょっと疲れていたので、ソファでダラダラスマホ見てから夜ご飯作り。カルディの素を使ってタコライスを作る。炒めて乗せるだけなので簡単。帰宅した夫とご飯を食べる。アボカドとチーズを乗せたら、美味しさが倍増した。なんだか眠たく何をする気も起きなかったので、ベッドでスマホを眺めてから就寝。やっぱりアプリを色々消して1日1時間の使用を決めていた先週のやり方のほうがいいかもと思う。

野菜もりもり

5月25日(土)
休日。体が重く、喉に風邪の引き始めみたいな違和感がある。疲れが溜まっているか、自律神経がうまく切り替わっていないかのどちらかだろう。熱はなかったので、夫と兼ねてから楽しみにしていた「本は港」へ向かう。神奈川県の出版社や独立系書店が集まるイベントだ。いつもだったら早起きして掃除をするところだけど、夫の言葉に甘えて明日にまわすことにする。身体の声を優先できたのは大きな進歩。電車ではニシダのラジオを聴く。なぜか朝起きれなくて働けない主婦というリスナーが出ていて、共感と元気をもらう。横浜に着いた後はイベント前に腹ごしらえするため、夫が調べてくれたラーメン屋さんに行く。なんと無料でおにぎり付きということだったので、一番シンプルなラーメンを注文。それでも食べきれなかった分は夫にあげた。店内にはSUSURUのサインがあった。お腹が満たされた後は、いざイベントへ。夫が私の様子を見て休憩することを提案してくれたので、ベンチで少し休んでから入る。小規模のスペースながら、たくさんの人。雰囲気としてはデザインフェスタとかに似ている。気になっていた本の前で立ち止まると、出版社の方が説明してくれた。静かだけど熱のある話ぶりから本の魅力が伝わる。今回の目的は、自分がどのように本や文章と関わっていきたいかを考えることだったので、本屋さんの店主が寄稿している冊子や、図書館員の仕事について書かれた冊子を手に取る。すると、「それ書いたの私です」と声をかけられ、幸運にも著者の方と少しお話しすることができた。その方は以前図書館に勤めていた時のリアルな話を一冊にまとめたという。どのようにして本を出すに至ったのか伺うと、週末などに出版社の本屋で店番をしているうちに機会が巡ってきたそう。とても勉強になるお話。自分も本や文章を書くことが好きだが、それをどのように仕事にしていくのか、はたまた仕事外にやっていくのか悩んでいる話を伝えると「そのような思いを抱いている方に手に取ってもらえて、良かったです。」と言ってもらえた。夫も気になった漫画や本を購入していたので、私も本屋さんと図書館員さんの冊子に加え、きくちゆみこさんの『だめをだいだいじょぶにしていく日々だよ』を購入。私もだめをだいじょぶにしてなんとか生きている節がある。さらに二人で本を物色していると、出版社の方に「大学生ですか?」と聞かれた。夫が咄嗟に「いえ、社会人です」と否定していたが、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしていて面白かった。夫がお茶することを提案してくれたので、イベントを後にして近くのベローチェへ。最寄りのベローチェとは違い、二階建てでそれほど混んでなくて最高だった。楽しい時間を過ごしたからか、体調も気にならなくなっていた。夫とイベントで感じたことについて語り合った後、まるで付き合いたての頃のように二人で週末の行きたいところリストを更新した。夫は繰り返し先ほど大学生に見られたことについて話しており、よっぽど嬉しかった様子。我々は28歳と26歳なので、少なくとも5歳は若く見られたことになる。なるほど、確かに嬉しい。その後はAesopでハンドソープを購入。友人が誕生日にプレゼントしてくれてから、すっかりお気に入り。田舎にAesopはないので、こうして都会に出た機会に買っている。帰りの車内では、植本さんと滝口さんの往復書簡『さびしさについて』を読む。植本さんの嘘のない文章を読む度、彼女と同じ傷がある気がする。最寄り駅に着き、スーパーに寄って帰宅。今夜は夫が鯵の南蛮漬けを作ってくれることに。助手としてお手伝いしつつ、のんびり過ごす。夫の手料理はいつも優しい味がする。魚に加え、野菜たっぷりの食卓となり、身体が回復していく。食後は二人で新たに観る番組を開拓しようということで、『ラブトランジット』を観ることにした。やっぱり恋愛リアリティ番組は人と観るに限る。お風呂に入るは面倒だったけど、頑張ってシャワーを浴びてから就寝。

本日の戦利品


5月26日(日)
夜中、大きな地震で目が覚める。夫の名前を呼ぶと駆けつけて抱きついてくれた。もし突然死ぬことになっても、ポンペイの抱き合う二人の遺体のような形でありたい。というか夫はこの時間まで起きてるのかと驚く(いつも私が先に寝てしまうので)。その後は無事に朝まで眠ることができた。起きて『私より先に丁寧に暮らすな』を聞きながら、ゆっくり掃除に取り掛かる。「30代になってから、人の活躍をあくまでも"参照"として捉えられるようになった」という鵜飼さんの話が興味深い。夫がクイックルワイパーもかけてくれることになったので見守る。四角い部屋を丸く掃いているように感じ、つい「すみっこの方も汚れが溜まるんだよね〜」と言ってしまった。お節介ババア。図書館で本を返却した後、お昼はハンバーガーな気分だったのでバーガーキンングをテイクアウト。大好きなアボカドワッパーJr.セットにした。帰宅して、『ラブトランジット』を観ながら食べる。好きな作品を観ながらテイクアウトしたものを食べるのも、休日感があって好きだ。食後はソファでひっくり返りながら、BRUTUSと昨日買った図書館員さんの冊子を読了。ちょうど図書館スタッフの求人が出ていて、応募しようかななんて考えていたが、デメリットも踏まえて冷静に考える必要があるなと思う。ゆっくりした後は夫とベローチェへ移動し、noteで日記を書いた。電話相手に怒鳴っているお婆さんがいて、人間観察をする。400万返せとのこと。街中で怒っている人は、大体時間かお金について話していることが多い。スーパーで買い物した後、帰宅。今日は夫が肉じゃがを作ってくれることに。待っている間、日が沈むにつれて憂鬱な気持ちになり、職業選択について急に不安になる。彼の作ってくれた美味しい肉じゃがをつつきながらそのことを伝えると、私の感情を一つずつ紐解いてくれた。夫に今新しく始めた仕事について「間違ってない」と言われた時、ポロポロと涙が溢れる。生きていく中で何かを選択するたびにどんどんこんがらがっているような気がして、とりわけ社会人になってからは自分が取り返しのつかない選択ばかりしているような気がしていた。体調を崩しやすいのに何か好きなことをしたい欲求が強く、そのギャップで苦しかった。たった一言、大切な人に偽りのない冷静な視点で肯定してもらえることで、こんなにも安心するとは。彼のことを心から尊敬している。

夫が作ってくれた夜ご飯

〈金曜日に心を打たれた詩〉

大人になるというのはすれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと…
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです

「汲むーY・Yにー」茨木のり子

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