見出し画像

ウクライナ、戦禍のトランスジェンダーについて

ウクライナは18歳~60歳の男性は出国できないけど、トランスジェンダー(性同一性障害)の人も戸籍上の性別は男性なので、戦わないといけなくて困ってるみたい

https://twitter.com/_charisma_doll/status/1500721674958041088
2022年3月11日閲覧

このツイートに対して寄せられている引用やリプライで反応について思うところがあったので書いておきたい。
※引用やリプ欄はナイーブな方や当事者の方はあんまり見ないほうがいいです。
引用やリプライの、特に「身体の性別は男性なのだから国に残って戦うのが当たり前だろう。自分だけ逃げようなんてずるいし、戦時下においてLGBTの権利なんて贅沢なことを言うな」という旨の主張について、本当か? と僕は思う。

トランスジェンダーの身体上の性別は本当に戸籍と同一なのか?

これについては件のキーウのTG女性が「どう」なのかは分からないので保留して、一般論を書いておきます。

前提として、トランスジェンダーは医療用語ではありません。
週末異性装趣味の人から何らかの医学療法を受けている人、外科的治療を行った人、すべてが当てはまります。

トランスジェンダーを名乗る人の中には病院でホルモン治療を受ける人がいます。ホルモン治療というのは注射などで自分が望む性のホルモン投与を行い、身体的な特徴を少しずつ自分が望む性に寄せていくという治療です。
このとき注意したいのが、変化が起きるのは見た目だけではないということです。
生まれた時に屈強な男性であったとしても、ホルモン療法で脂肪がつき、筋肉がつきづらくなり、骨密度が下がり、女性的な体型になっていくということは同時にその人の生まれ持った男性的な体型や特徴は失われていきます。
※当然ですが個人差はあります。

そして、外科的治療を受けて卵巣ないし精巣を摘出してしまうと自分の体内で性ホルモンを作り出せなくなるので、このホルモン療法を半永続的に行わなければなりません。これが途絶えてしまうと、更年期障害と類似の症状が現れたり、心身のバランスを崩してしまうことがあります。

さて、そういう状態の人は果たして「戸籍通りの性別」なのでしょうか。
あるいは女子供と男性、と呼び分けた時に想定される女性像や男性像に果たして彼らは当てはまっているのでしょうか。
「トランスジェンダー」の中にはひげが生えて声変わりしているおじさんみたいな「女性」も、おっぱいがあって豊かな髪をした「男性」も存在します。
ここまで解像度が上がれば「トランスジェンダーってことは身体の性別は戸籍上の性別のはずだ」という考え方は割とナンセンスであることが分かります。どちらかといえば「戸籍の上では便宜上そうなっている」という表現が相応しいわけだ。

戦禍において『LGBTの権利』は贅沢品なのか?

こちらが本丸のテーマです。

「LGBTの権利とか平等とか、そういうのは平和な時にやってくれ。戦時下でそんなことで悩んでいるのは贅沢だ」というけれど。
ここで発端となったツイートに戻って「そもそもウクライナにおいてLGBTってどんな環境で暮らしてるんやろか」とちょっと調べてみました。
するとツイートに貼ってあったお写真と同一人物と思わしき方の記事が出てきました。

キエフの家に閉じ込められたウクライナ人女性は、トランスジェンダーであり、現在武装しているトランスフォビアのウクライナ人がロシア人の前に彼女を連れて行くのではないかと心配しているため、「戦争内の戦争」と戦っていると言います。
(中略)
Ziは、この国はLGBTQの人々を受け入れていないと言い、ボランティアの兵士として後ろに残っている男性の多くが銃を持っていることを痛感しています。 それで、ねじれた方法で、彼女は、爆弾とミサイルが彼女の周りで爆発するとき、彼女の家に閉じ込められたままでいることはより良い選択肢のように感じると思います。
国境にたどり着いたとしても、「パスポートに男性の性別があると(女性として)海外に出国できず…通行できない」ため、出国が阻止されるとジ氏は言う。
キエフに閉じ込められたトランスジェンダーの女性、ロシアとトランスフォビアのウクライナ人を恐れる
(2022年3月11日閲覧)※自動翻訳

キエフに閉じ込められたトランスジェンダーの女性、ロシアとトランスフォビアのウクライナ人を恐れる(2022年3月11日閲覧)※自動翻訳
https://www.ommercato.com/ja/trad/transgender-woman-trapped-in-kyiv-fears-russia-and-transphobic-ukrainians_146421

またいくつかの記事で確認できましたが、2010年代後半に入ってもウクライナではLGBTの権利にまつわるデモについて、物理的な危害を加えられているようです。この手の話題で遅れていると評されがちな日本と比べても、ウクライナのセクシャルマイノリティたちは置かれた状況がなかなかにシビアであろうことが分かる。(閲覧した資料は最後尾にリンクを貼ります)

つまり「平和な時」においても彼女は差別と暴力の懸念にさらされており、戦禍においてそれが悪化することを恐れているのであって、彼女が望む「身の安全」は何ら贅沢品ではないのである。

これはツイッター上で「トランスジェンダーの女性が戸籍が男性であることによりウクライナ国内で戦わなければならないから困ってるみたい」という話だけが拡散したことによる誤解が発生していると言えよう。
「わたし、自分では自分のことを女だと思ってるし女として周りの人にも認めてほしいし女として生活したいのに男として戦わなきゃいけないなんて困っちゃうわ!」なんてレベルの話ではない。
戦わなければならない、逃げることができないというだけでなく、逃げたところで差別と暴力に曝されるのではないか、という懸念があるのだ。そしてそれは明確にヘイトクライムという問題であり、日本国内においても属性は違えど、この不安に曝されている人たちはいる。他人事ではないのだ。

もしも「それを贅沢だと言っているんだ、戦争してるんだぞ、差別くらい我慢しろ」という人がいれば、その人と僕は残念なことに相容れないということだ。僕はヘイトクライムを擁護する側には絶対に立たない。

これは個人の感想ですよね(そうです)

それはそれとして「男は残って戦えなんて性差別もいいところ」なのはその通りだと思います。生まれ持った選べない属性で権力に命令される状況はできる限り存在しないほうがいい。
しかしもともと「安全に暮らすこと」に懸念のあった人が残って戦う義理もねーなと逃げ出すことがあっても、それも止められないのではないかと思う。

そもそも何を決める立場でもない無関係な他人のくせに「戦時下じゃなければ『認めてやってもいい』」なんて話をしている、それは差別そのものですよ。

※参考(すべて最終閲覧は3月10日18時)
https://www.amnesty.or.jp/get-involved/action/ua_201812.html
https://www.ommercato.com/ja/trad/transgender-woman-trapped-in-kyiv-fears-russia-and-transphobic-ukrainians_146421
https://www.amnesty.or.jp/news/2016/0621_6121.html
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a190017.htm
https://nipponese.news/tag/zifaamelu/

この記事が参加している募集

#多様性を考える

28,031件

♥ハートマークをタップしていただくと書き手の励みになります(note未登録でもタップできます) ★面白かったなと思ったら是非フォローして他の記事も読んでみてね ★サポート機能からおひねりを投げ飛ばすこともできます(いただいたサポートは僕の仕事中のおやつになります)