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書評、作品考察

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小説や映画の整理メモや感想、自分なりの考察など
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第一五八回芥川賞受賞作品『百年泥』についての一考察

第一五八回芥川賞受賞作品『百年泥』についての一考察

総評
 マジック・リアリズムの手法を取り入れつつ解説的なエピソードを交えながらインドの極彩色的混沌を日本人に分かりやすく描き出している。イメージ的に、と言ってもいいかもしれない。シニカルな自虐的ユーモアを含んだ語りには言葉選びや表現にセンスと勢いがあり落語的な印象を受けた。確固たる文体があり、言葉による表現を模索してきた作者の努力の成果を感じる。百年に一度という大洪水によって溢れた泥の中から出たア

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角田光代『対岸の彼女』

角田光代『対岸の彼女』

角田光代『対岸の彼女』
小夜子視点▽
葵視点○

一章 ▽公園の人間関係にうんざりし、友達が出来ずに一人で遊んでいる娘も自分を見ているようで見るに堪えなくて働くことにする。葵と出会い、掃除業務をすることが決まる。

二章 ○いじめが原因で転向した葵が女子ばかりの新しい学校に初登校し、ナナコに出会う。家までついてきたナナコに感涙する。友情の始まり。
三章 ▽初研修。指導係の中里典子に出会う。愚痴と悪

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『Laundry』

『Laundry』

あらすじ

 テルの仕事は祖母のコインランドリーで下着泥棒が出ないように監視すること。テルは幼い頃マンホールに落ちて頭部に傷を負い、脳にも知的障害が残った。コインランドリーには日々色々な人が来る。息子の嫁に服を洗ってもらえない爺さんや負け続けのボクサー、写真が趣味のおばさんなど。爺さんは一人で嫁の愚痴を言い続けているし、おばさんは写真をコインランドリーに飾るし、ボクサーは試合で救急車に運ばれた情け

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『本屋さんのダイアナ』読了メモ

『本屋さんのダイアナ』読了メモ

『本屋さんのダイアナ』 柚木 麻子

〇作品の大まかな特徴

 ダイアナと彩子の三人称主観視点を交互に繰り返し物語が進む。

 入れ子構造のダブルプロット。作品内に登場する小説『秘密の森のダイアナ』の登場人物の行動が現実のダイアナと彩子の行動に影響していく。(話中話に現実が呼応していく形)

 メインストーリーはダイアナと彩子の友情と成長物語。サブストーリーはダイアナの父親探しとダイアナと彩

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『青空のかけら』読了メモ。



『青空のかけら』S・Eデュラント

○あらすじ

 身寄りのない姉弟ミラとザックはいろんな人の家をたらい回しにさていたが、児童養護施設スキリー・ハウスで暮らすことになる。ミラは決まりごとをたくさん作り、冷たい態度をとる院長先生のミセス・クランクスが嫌いだった。五月、ミラは部屋の床板の下から昔この部屋に住んでいた少女、グレンダ・ヒヤシンスの手紙を見つける。ミラはグレンダに返事を書き、親友ができた

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