見出し画像

ICTベストプラクティスのためのAI活用〔後編〕

ゲスト:ジャパンマネジメントシステムズ株式会社 代表取締役 前 一樹氏

前編では、ジャパンマネジメントシステムズ株式会社 代表取締役 前 一樹氏に、企業の付加価値を生み出す重要性について詳しく伺いました。後編では、社内の仕組みづくりについて具体策をお聞きします。


知識の属人化をなくし、社内循環させる仕組みづくりを

 先ほど、人や設備が企業の付加価値を生み出すエンジンだという話をしました。物理的には設備の中のシステムも含まれますし、人や設備に備わる「知識」が生み出しているという考え方もあります。

少し学問的な話になりますが。1人が持つ知識をメンバーと共有する共同化(Socialization)、人が体得した暗黙知をマニュアルやコンセプトなど言葉で表現された形式知に変換する表出化(Externalization)、形式知を組み合わせて体系的な組織の知に変換する連結化(Combination)、体系化されたプラットフォームをベースに個人がうまい振る舞いを習得する内面化(Internalization)、これらを発展的に繰り返すことによって組織が知識を創造するモデルを「SECI(セキ)モデル」と呼びます。

身に付いたノウハウなどは明確に言葉になっているとは限らず、その人がいなくなれば知識自体が失われます。
会社として損失を防ぐためには、マニュアル化するなど、言葉なり図なりで表出化されていなければなりません。

――属人化を無くすのですね。

 そうです。きちんと表現された形で残したものを、さらに組み合わせて会社の仕組みとして定着させるとか、場合によっては松栄さんの話にあったように、社内で行動を徹底してカルチャー化できれば、組織の知として定着できます。

システムとは、「こうすればうまくいく、というものを形として表現している最たるもの」です。導入すれば、システムがある環境を前提に上手に仕事を進める人が出てくる。すると隣の人がその人から学べる。そうやってぐるぐる回っていくと、会社としての「生み出す力」が増えます。この循環が強くなれば、それだけ高付加価値のものが、効率良く生産できることになります。

属人化された知識を暗黙知、マニュアルなどとして明文化された組織の知識を形式知と言って、「うまく回しなさい」ということSECIモデルでは言われています。キーエンスではそこを徹底されているのかと感じますが。

――かなり徹底されています。極論、私が抜けても売り上げは変わりません。ただ、その源泉となるものは複合的だと思います。
仕組み化されていることがまずひとつ。そして人事制度にも落とし込まれています。

よく「売れれば良い」という考えで、成果が出れば良いじゃないかという意見も耳にしますが、キーエンスの場合は、「どのように成果が出たのか」というプロセスの方がどちらかといえば重視されています。評価制度になっていて、「良いプロセスを経て、良い成果を上げた人がより高く評価される制度設計」が実現している。これもベストプラクティスですね。
新入社員に対しても用いることができるので、動き方やプロセス、どのように活動したら良い成果が出るのかという研究が大切だと思います。

 どう行動すべきかを個人に委ねるのではなく、教育システムとしても伝わるように整えられているのですね。

――ロープレひとつ取っても、成果を上げてきた人たちがどのような動き方をしてきたのかにフォーカスを当てています。属人性の部分は排除できていると思いますね。

 暗黙知と形式知のスパイラルをうまく回して、個人の特性を会社の仕組みにきちんと落とし込んでいるのですね。
そして仕組みの中で、新たに入ってきた人のスキルも上げていく。それがうまくできているところが、収益の高い秘訣なのでしょうね。

――読んでくださっている方も、参考になるところはぜひ取り入れていただければと思います。

生産効率を上げるために「断捨離」の視点を持つ

 システムは定型的、もしくは継続的に行うようなものを、品質良く進めることに非常に向いています。システムなので、誰が使っても一定以上のクオリティで作業ができるという意味で、業務の底上げには最適です。その点では、システム化の推進はやはり必要です。

反面、新しいものを発想して生み出す部分は、人でないとできないものがやはりありますから、そこは今後も変わらず人が担っていくところです。しかし人に属したままだと、知識が失われる可能性があります。両方を大事にして、スパイラルでやって行きましょうということです。

――全体の業務を棚卸しして、どこをシステム化すれば効率がアップするのかを考える視点は重要ですか?

 失敗プロジェクトにならないためにも、「付加価値を上げるためにシステムを導入するのだ」という意識を持つことが大切です。その前に、社内向けの資料作成や会議など、内向きの仕事で捨てられるものはとにかく捨てる、断捨離の視点を第一に持ちましょう。
そして最後に、外向きの仕事を効率良く増やしていくこと。今時のシステムは、内向きを減らすためにも、外にアピールするためにも使えますから活用して行きましょう。

――CIOサービスは、経営の中でどこをテコ入れしたら最も価値が上がるのか、業務全体を一度棚卸するような面があるのですね。

 CIOは経営者の目線で、経営課題に対するシステム活用を考えるポジションですから。
もしも導入したいシステムが決まっていれば、一般的なベンダーに具体的なシステム名を告げて依頼する方が早いです。しかし、その手前の業務の整理ができていなければ、ものが入れ替わっただけになるかもしれません。
そうならないためにCIOとして入り、どう精査するのかの壁打ち相手になる。経営者だけでなく、そこで働いている方全員も、「今のやり方が自動化できるといいな」で終わるのではなく、「その仕事自体がそもそも必要なのか」という見直しが必要なのです。

――M&Aにも通ずる話が非常に多かったです。これまでやってきた安心感で続けてきたやり方が、本当に価値があるものなのかどうか、そこを見直すためにCIOサービスが必要になってくるのですね。

第2部:生成AIを活用したICTプラクティス

――第2部では、話題の生成AI、ChatGPTをどのように現場に活用するべきかについてお願いいたします。

 こちらでは、バランススコアカード(BSC)を用いたコンサルティング手法を紹介しましょう。バランススコアカードは、企業のが取り組むべき戦略を、財務・顧客・業務プロセス・学習と成長から多面的に評価するものです。

 一番下の学習・成長の位置に「システムの導入」を置きます。そして一番上の財務の位置に入る「付加価値・生産性UP」に向かって、どう繋がっていくのかを図式化して行きます。

右側の赤色の枠で示した「内向きの削減」では、業務プロセスのカテゴリで削減または効率化できる社内向けの業務について記入し、左側の緑色の枠で示した「外向きの充実化」で、外への働きかけアップに繋がることを入れて行きます。

図例では一般的な言葉で表現していますので、ぜひ、自社の業務内容に合わせて書き直してみてください。システムをどのように使えて、どう効果が上がるのかが見通せると思います。

――最初の、会社の棚卸にあたる部分ですね。

 そうです。一度こういう図式化したもので見通すと、把握しやすくなります。もう少し具体的に見ていきましょう。

一番下のシステム導入から矢印で上に伸びている線が、システムAIを含めて使える部分です。ではその線について、どういったことが有り得るのか、思いつくままに書き下したのがこちらです。
もちろん他にもいろいろあると思います。

 これは、システムを入れる入れないに限らず、社内のルール作りや業務のやり方そのものを見直すためにも活用できます。
もちろん、システム導入の検討もしていただきたいのですが、それ以前にやるべき事を見直すという目線でも見ていきたい内容になります。

AIの能力を踏まえた活用を

――AIが得意としている領域とそうでない領域は、先ほどのシステムの話と同じように捉えて良いのでしょうか。

 AIはあくまでシステムのひとつですから、向いているところと向いていないところがあります。
例でいくと、赤い文字の部分が、今話題に上っている生成AIが役に立ちそうな部分です。LLMとは、大規模言語モデルのことで、最も有名な例がChatGPTですね。

グリーンの文字は、それ以外のAIが役に立ちそうな部分。
そして、それ以外の一般的なITの活用範囲に入るものを黒い文字にしています。
こういった形で具体的に「何に、何が適しているのか」を把握することが、ICTプラクティスのベースとなります。上の方に書いてあるのは、内向きの仕事を減らすことに役立つものです。

ありがちな話ですが、「話題になっているからAIを使え」とか、「ChatGPTで何かできないのか」という方向から入るのは、考える順番として逆です。そういう問いでスタートすると、手段が目的化してしまいます。
くどいようですが、付加価値をどう生むかという観点からスタートして、最後に方法としてシステムなりAIを考えるべきなのです。

――考えるべき順序が見える化されますね。

 そうです。一番上にある業績表示などは、日頃からAIを活用しておけば、経営者はいつでも自分のタイミングで確認できるため、「今すぐ資料を作って」「はい」というやり取り自体が削減できるようになります。

結論の出ない会議も、極力やらない方が良いとはいえ、ゼロにする必要はありません。必要資料や議事録のまとめにChatGPTのようなツールを活用して、作業時間の大幅な短縮に繋げれば良いのです。要約は得意ですから、文字起こし的な労力のかかるところに活用できます。
まだ丸投げできる段階ではないので、あくまで下書きとして活用して、最終的には自分でチェックして直す必要はありますが。

ChatGPTは翻訳も得意ですから、人の入れ替わりや海外から来る働き手が増える多様性の時代に、コミュニケーションツールとして使う方向も有効です。日本語のマニュアルを多言語用に訳すとか、同時通訳的なものとして使うとか、いろいろな人が働く環境づくりに役立てることができます。

――外国人労働者を受け入れている企業にとって、大いに助かりますね。

 人の入れ替わりに対して、マニュアル化して対応したい時に適していますね。eラーニングコンテンツやSNSの発信記事なども、ChatGPTであれば下書きをバッと作れます。マーケティング分野では、インターネットからの情報収集などに活用すると時間の短縮に繋がるでしょう。

――キャッチコピーなども得意ですね。

 ええ。カスタマーサポートのチャットbotなども、かなり実用化されてきました。よくある質問のような定番化された内容はAIの得意分野です。人が対応する手前の簡単な前さばきを任せると、人を増やすことなく、サービスの質を落とさず効率的に対応できます。

ディープラーニングで画像や音声の認識能力はかなり進みました。そういう部分を利用して、ロボットの制御を含めた、「認識して自動化する」分野は今後もっと使えるようになってくると思います。
いろいろなものを最適化する面も取り組みが進んでいますから、今回の内容を参考に自社の業務に引き付けて、活用できる部分を考えていただきたいと思います

まとめ

――最後に、まとめをお願いします。

 AIを活用して内向きの仕事を減らす目的は、付加価値を生み出すことです。そのために一度業務の見直しをして、生産性の低い仕事を断捨離すること。そのうえで、それまで内向きに使っていたマンパワーを外向きに使いましょう。

AIは過去の統計的なデータを元にした計算や処理が得意ですから、標準的な業務は、AI技術を活用してどんどん自動化して行くと良いと思います。
逆に、全く新しい事を任せるには向いていないツールですから、そこは人が担っていかなければなりません。というより、むしろ人にしかできない分野も多く残ります。
これからは、人の手がかかるところを高付加価値サービスとして行い、コモディティなサービスはA Iが担うといった形で二極化が進んで行くだろうと考えています。

――AIを導入する際には、そもそも目的が何かを見直す、導入したシステムが付加価値をきちんと産んでいるのかを今一度見直す必要があるという点、非常に考えさせられました。
AI技術の活用を検討したい、または見直したいと考えておられる中堅・中小企業の経営者さま、CIOサービスへのお尋ねがありましたら、ぜひ前社長にお問い合わせください。
事業承継やM&Aを活用した成長戦略の分野に関するご相談は、私、松栄にいただければ幸いです。
前社長、ありがとうございました。

 ありがとうございました。

(※文中敬称略)

前 一樹 氏  ジャパンマネジメントシステムズ株式会社 代表取締役
1995年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了・博士(工学)取得。ベルギー・ルーベンカトリック大学研究員、北陸先端科学技術大学院大学助手、ITベンチャー企業取締役、CTOなどを経て、2015年11月より現職。一般社団法人人工知能ビジネス創出協会理事、元上場企業監査役なども務める。情報処理安全確保支援士(登録情報セキュリティスペシャリスト)(登録番号第002063号)、ITストラテジスト。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?