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今週の読書録

今週は先週に続いて千早茜さんの書籍を中心に4冊読了。
いずれも食が関係する作品です。

透明な夜の香り

直木賞受賞作家の千早茜さんの作品。
人外ともいえる天才的な嗅覚を有する調香師の元で働くことになった女性が主人公の小説は、確かに静謐な夜の空気が似合う。

嗅覚は本能に最も直結する感覚なのかもしれない。
香りとの出会いで人生が変わる。

緻密な絵を形にするように、どのような香りも作り出せる人がいたら…
それは人の記憶や感覚も操作できる手段となる。
昔読んだ『香水』の主人公は、作り出した香りで破滅したことを思い出しました。

この作品は、香りと料理描写が鮮やかで、イチゴとミントのジャムを作る場面ではほうろうの鍋で煮詰められた香りが漂ってくるように感じるほどでした。

私にとって夜の香りは沈丁花。
春先の宵の口、ほんわり浮かぶ月を見上げながら歩いていると花より先に香りで存在感を示す沈丁花。
ほろ酔いのような気分がふわふわする春を告げる香りです。

同じ三大香木のクチナシや金木犀に比べて、いかにも沈丁花というフレグランスにはなかなか出会えないのは、香りの成分の組み合わせが複雑だからという説を読んだ記憶があります。
このような一筋縄ではいかない香りでも、この本の登場人物であれば瞬く間に再現できることでしょう。
しかし、超人の域に達する才能の持ち主は、凡人と感覚の共有はできないという。
今まで何物にも執着しなかった人物が出会ってしまった特別な存在。
戸惑いながらも徐々に変わっていく登場人物の描写に引き込まれる一冊でした。

わるい食べもの

しつこく わるい食べもの

千早茜さんのエッセイは、賛否両論だったようです。
個人的には、さらりと読める好みのテイストです。

『透明な夜の香り』や『さんかく』で登場する食の表現の原点を覗き見ることができるような作品。
特に二冊目の『しつこく わるい食べもの』の「悪党飯」では、食という欲望の果てのなさに共感を覚えました。

欲望を求めた先には、きっと艶やかな地獄がある。その危険さと甘やかさを悪い奴らは味わっている。

P14

食は分かりやすく率直な欲求。
ヒーローはプロテインなんかを摂取して健康に気を使ってそうだが、悪者からはストレートに欲に向き合う姿勢が好ましいという趣旨には、大きくうなづきながら読み進めていました。
時には正しいかどうかよりも、心の赴くままに突き進む瞬間も素敵。

食への強いこだわりを共感できる人がいればきっとさらに楽しい人生になりそう。
実はまだ手にしていない3冊目も刊行されているようなので、続編にも近々手を伸ばしそうな気がします。

コンビニ兄弟

町田そのこさんの作品は九州を舞台にしたものが印象的。
本屋大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』も九州が舞台でした。

「コンビニ兄弟」シリーズの舞台は福岡の門司港。
林芙美子さんの生誕地で、アインシュタインも訪れた港町。
近代建築好きとしては一度は赴いてみたい地域です。

北九州の地方都市のコンビニの名物は美味しいメニューと異色の店長。
門司港を博多に次ぐ発展した地域に押し上げられそうと評される人間ホイホイの無自覚フェロモン散布機。
実際にいたら迷惑極まりない、働く職種間違っていませんか?!と疑問視されながらも、コンビニと地域住民を愛する店長と周囲の人物のコミカルな日常。

作中のコンビニフードの味変も試してみたくなる気軽に読める作品です。



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