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エッセイたち

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センス・オブ・ワンダー

センス・オブ・ワンダー

驚きは、日常を輝かせる、可能性をもつ。退屈な日常を、凝り固まった常識を、ささやかに破壊していく。そんな驚きに包まれる体験、と、それに付随した感性。センス・オブ・ワンダー。

驚きは、疑問からはじまる。疑うことで、そこに自分なりの意味を見出すが、しかしながら、いや、だからこそ、そこに別の意味が姿を表した瞬間、驚きが芽吹きはじめる。

その驚きに水をやれば、そこに知的好奇心が宿る。日常を異化する知恵が

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人生のさがしもの

人生のさがしもの

なにもしないで、ただボーッといられる時間が恋しい。とりとめのない空想を膨らませて、実現可能性の判断を留保して、自分が存在していることに、ただ意識だけを注ぎ込みたい。時間という枷を、外して生きたい。

と、思ってしまうのも、自分の心の中に、余裕を見出せないからだ。救いようのない、漠然とした不安に触れて、焦って、人生を生き急いでしまうからだ。時間が欲しいと思っていること自体、時間に左右されている。

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質素という贅沢

質素という贅沢

小さな家を買って、住みたい。できれば一括で。必要最小限のモノだけ揃えて。自給自足に近い暮らしで。ノンストレスで。畑なんか耕して。季節を意識して。食に彩りを加えて。質素という贅沢をして。

そんな妄想を膨らませて思うのは、今の暮らしがいかに、ストレスに満ち溢れているのだろう、という見解について。そして消費することこそが、生活の質を高めるという、資本主義と惰性が生んだ、幻想ついて。

とはいえ、家は欲

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人生を鈍行する

人生を鈍行する

ファストな世界で、スローに生きるのは難しい。世間からの厳しい視線が、身内からの窮屈な期待が、休まずに全力で走ることを強制する。寄り道なんかせず、一直線に進め、と。

でもそんな快速の人生では、見逃してしまう、大切な何かがある。日常に埋もれてしまった感性が、人生からはみだしたい欲求が、僕の耳元で囁く。鈍行で進まなきゃ、辿ることのできない思考が、触れることのない感覚が、僕の目の前に広がる。

だから鈍

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違和感という錠剤

違和感という錠剤

脳死しながら生きていると、自分に合ってるものだけ身につけ、自分が好んでるものだけ食べて、なんとなく生き延びてしまう。それは決して悪いことじゃないが、死というゴールに向かって、積極的惰性で突き進んでいるようなものだ、むなしい。

だから違和感という錠剤を、一日一錠は摂取する。体は痒くなるし、居心地は悪くなるが、自分がターンオーバーしている、そんな感覚だけが残る。だがオーバードーズしないよう、細心の注

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風の歌を聴け

風の歌を聴け

文章を書くことは楽しい作業である。生きることの困難さに比べ、それに意味をつけるのは、あまりにも簡単だからだ。そう思ってしまうのも、生きることに意味はないという真実から、目を背けたいだけなのかもしれない。

生きるために書いているのか。書くために生きているのか。鶏と卵の問題。物書きに横たわる命題。でもそんなものはどうだっていい。そこに意味を見出すのは、もうやめにしよう。ただ思ったことを、素直に書き連

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介護士になった理由

介護士になった理由

仕事を二色に分けるなら、ブルーとホワイトに別れる。肉体労働と頭脳労働。リアルワークとリモートワーク。体力と思考力。本当はこんな綺麗に、そして容易に、境界線なんて引けない。でも人間の傲慢さが世界を分断し、ホワイトを賞賛しているようにも思える。

リモートできない仕事がしたい。そこにいなければ担えない、誰にも代替できない、大切な仕事がしたい。だから介護士になった。人をケアしたかった。そして自分も救われ

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壊した鏡が写す世界

壊した鏡が写す世界

世界は自分を写す鏡だ。優しい人と出会ったとき、自分にもその優しさが宿っている。怒っている人を見たら、自分が過去に怒った体験を思い起こしているし、不器用な人を見たら、自分にも不器用な部分があることを知っている。その人らしさに触れたとき、自分らしさにも抵触している。

だから小説を読む。自分が知らない感情を、匂いを、モヤモヤを、見つけに出かける。絶対に理解できない感情も、この世には存在している。それで

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えぐみのようなもの

えぐみのようなもの

昔は本が嫌いだった。毎日のように学校にやってくる、15分間の朝読書は、ただ時間を目で追っているだけで、睡魔との闘いだった。でもいつからか、本の虫。インクと紙が織り重なる存在を、無視できなくなっていた。

呼吸のように本を読む。いまや時間を忘れて、いや呼吸することすら忘れて、大量の本を読み漁る。瞼が重くなるまで、読み耽る。詩集も、エッセイも、純文学も。呼吸のように、自分と溶けあっていく。

でも溶か

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他人を気にするほど、人生は長くない

他人を気にするほど、人生は長くない

人生は有限である。誰もが知っているけど、誰もが忘れがちなこと。だからSNSで時間をつぶし、行きたくもない飲み会に参加してしまう。他人を気にするあまり、自分を蔑ろにしてしまう。「世間」から嫌われないために。

そんなことを気にするほど、人生は長くない。他人の道を舗装するほど、人生は長くない。誰かのために頑張ることが、悪いと言ってるわけじゃない。自分の道を鋪装してく中で、誰かの道も歩きやすくなってた、

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らいか、ろーりんぐ、すとーん

らいか、ろーりんぐ、すとーん

社会のルールも、常識も、言葉も知らない、尖った岩のような存在。それが赤ん坊だ。でも社会と摩擦することで、世界と対話することで、丸みを帯びた石となる。らいか、ろーりんぐ、すとーん。うれしくも、はかない。

摩擦は両義的だ。擦り減ったスニーカーも、磨かれた革靴も。汚れちまった大人も、純粋無垢な赤ん坊も。社会との摩擦の中で生まれる。その影響は逃れえない。摩擦はないものとしない。

だから程よく削られたい

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人生は壮大な暇つぶし

人生は壮大な暇つぶし

人生は約100年間の、壮大な暇つぶしだ。今日までの約23年間、暇を潰し続けてきて、ふと思った。そして終わりは予告もなく、突然のようにやって来る。しかし暇つぶしであるがゆえ、始まりも終わりもないように思える。

どうせ死ぬのなら、人生を真っ赤なバラで飾りたい。モノトーンではなく、煌びやかな色彩で。背伸びして、胸張って、可能性の海に飛び込んで。何度もずっ転んで、擦りむいて、その傷を、痛みを、思い出を、

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