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壊した鏡が写す世界

世界は自分を写す鏡だ。優しい人と出会ったとき、自分にもその優しさが宿っている。怒っている人を見たら、自分が過去に怒った体験を思い起こしているし、不器用な人を見たら、自分にも不器用な部分があることを知っている。その人らしさに触れたとき、自分らしさにも抵触している。

だから小説を読む。自分が知らない感情を、匂いを、モヤモヤを、見つけに出かける。絶対に理解できない感情も、この世には存在している。それでも諦めずに、自分らしさを探す。彷徨う、後悔する、何をしているのかさえ、忘れてしまう。でもなぜだろう、それが心地よい。

どこを探しても正解はなかった。学校の廊下にも、田舎の通学路にも、実家の押し入れにも。そんなものは見当たらなかった。見つからなかった。自分らしさもそうだ。そんなものはないんだって、言い切ってしまったほうが、楽だった。でもその断言にこそ、自分らしさが宿ると信じて。

今日もまた、まだ見ぬ感情を、探していく。壊してしまった鏡は、明日また、買いに行く。

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