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【詩】記憶

手を広げて
漆黒を彷徨う

ここがどこなのか
どこから来たのか
これからどこに行くのか

目を開けても
目を閉じても
何も変わりはしない


人差し指に触れる
冷たい感触

ゆっくりと確かめながら
握る丸い物体

ドアノブだとわかると
回してドアを開ける


光の点滅の中で見える
その先

私は寝ている
何もかも終わったように
寝ている


周りにいる家族たち
孫がおじいちゃんと
声をかけるが
私は返答しない

点滅の中で
おじいさんは
いい人生を送りましたと
妻の声が響く


私がいるのは
妻の記憶


私が妻と手をつなぐ
家族とテーブルを囲む
孫を抱っこして
田園の小道を歩く
ゆっくりとした
穏やかな空気


私は突然胸を抑えながら
倒れこむ
妻は私の名を呼び
救急に電話をする



一周忌に集まる親戚
面白い人でした
人情の厚い人でした
笑いながら
私を忍ぶ


妻の中の私は
とても明るく
笑いに溢れていた



私は安心してドアを閉める



漆黒は消え
光輝き
花びらが舞っていた


私は妻の記憶に
ありがとうと言った



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