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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~元摂食障害当事者からのメッセージ~59


普段寡黙な父が、珍しく饒舌だった。母が下戸だから、いつも寂しそうに一人晩酌をする父の姿が、蘇った。今日は、私とお酒が飲めることが相当嬉しいみたいだった。私は、吐くまで飲まないように気を付けながら、父に付き合うことにした。

由希の豪快な食べ方も落ち着いてきて、父とのお酒に加わってきた。

「お父さんも、お酒飲み出すとあんまり食べないけど、お姉ちゃんもホント食べないよね・・・お母さんの料理、食べないともったいないよ。お姉ちゃんだって、東京で一人暮らしで夜も仕事で遅いんだから、普段はコンビニ弁当とかでしょ?こういう時に栄養摂らないと、身体に良くないんじゃない?」

「そうだな・・・紗希、母さんの料理は、野菜もたっぷりで身体にいいものばかりだから、もう少し食べたらどうだ。まあ、そうは言っても父さんも余り食べると酒が不味くなるから、人のこと言えないがな・・・」

「そうね・・・私は私のペースで食べてるから大丈夫よ。ありがとね、気にしてくれて」

本当は食べたくて仕方がなかったけど、さすがに実家で過食嘔吐は出来ないし、おかしくない程度に適当につまむしかなかった。ただ、父が食べないのが本当に救いだった。

「私なんてさぁ、そのために今日朝から何も食べてないから、もうお腹ぺっこぺこ。3食分食べちゃうかも」
「美味しいものは、0カロリー!気にしない、気にしない。そのために、朝から何も食べてないんだから」

3人で飲んでても、さっきの由希の言葉が頭の中を駆け巡っていた。

朝から何も食べないで夕飯で目一杯食べよう、とか、美味しいものは0カロリー、とか・・・摂食障害の私にとっては、信じられない言葉だった。

でも、でも・・・どこかで羨ましく思っている自分もいた。冷静に見ても、由希が太っているとは思えない。それでも、夕飯に3食分も一気に食べようとしたり、美味しいものはカロリーとか気にしないでひたすら食べたり、そんなことが出来てしまうことが、信じられなかった。いや、もしかしたら、それが(普通)の感覚なのかもしれない。美味しいものや、食べたいものは、カロリーなんか気にしないで、気の済むまで、お腹いっぱいになるまで食べる。それが本来の、私がどこかに置き忘れてしまった、普通の感覚なのかもしれない・・・

「お姉ちゃんさぁ~彼氏とか、いないの?お姉ちゃんのそいうい話、聞いたことないけどさ、冷静に見てみるとお姉ちゃん、意外とかわいいんだから、結構もてたりするんじゃないの?」

食べることと、痩せることと、そんなことで24時間が過ぎてく私に、そんな余裕はなかった。

「う~ん、仕事が忙しくて、今はまだそれどころじゃない感じ?・・・まあ、由希と違って、お声はちょくちょく掛かるんだけどね!」

「へ~ぇ、そうなんだ。それは楽しみだね!お父さん」

「ははは・・・そうだな、結婚式は飲み放題だしな。楽しみに待ってるよ」


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