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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~元摂食障害当事者からのメッセージ~60


「お姉ちゃんさぁ~彼氏とか、いないの?お姉ちゃんのそいうい話、聞いたことないけどさ、冷静に見てみるとお姉ちゃん、意外とかわいいんだから、結構もてたりするんじゃないの?」

食べることと、痩せることと、そんなことで24時間が過ぎてく私に、そんな余裕はなかった。

「う~ん、仕事が忙しくて、今はまだそれどころじゃない感じ?・・・まあ、由希と違って、お声はちょくちょく掛かるんだけどね!」

「へ~ぇ、そうなんだ。それは楽しみだね!お父さん」

「ははは・・・そうだな、結婚式は飲み放題だしな。楽しみに待ってるよ」

「お父さん、いくら何でも結婚式は気が早すぎ!まだ、彼氏もいないんだから」

「そうだよね~いくらかわいいからって、ろくに食べないでお酒ばっか飲んでたら、可愛げないし、引かれるかも」

「そういう由希は、どうなのよ。由希から男の話って、そういえば聞いたことない・・・」

「えぇ~私はまだ特定の人とつきあう、っていうか、仲間でワイワイ遊んでる方が楽しいんだよね」

「そんなもんなのかなぁ・・・そういえば、由希ってアウトドアとかスポーツとか、好きだったっけ」

「そうそう~キャンプとか、フットサルとかしてると、みんなで仲いい、って感じだからさぁ、つきあうって感じじゃないんだよね~」

(キャンプとか、フットサルとか)・・・20代は、普通そんなことをして、休日を過ごすんだよね。私みたいに、家でさんざん悩んで、結局買い物して、過食して、吐くなんて、そんな生活してないんだよね。そうだよね、それが(普通)だよね・・・

「そういえば、家族4人で飯食うのも、久しぶりだな。何だかんだ言って、由希は盆も正月も帰ってこなかったからな。お、母さんもちょっとこっち来ないか」

お母さんが、ケーキとクッキーを持って輪に加わった。お母さんは、お酒は飲まない代わりに、甘い物に目がなかった。

「あたしは、お酒じゃなくて、コレなのよね・・・うふふ」

「これって、駅前のケーキ屋さん?私、あそこのスイーツ大好きなんだよね・・・」

あれだけさんざん食べていた由希が、真っ先に食べ始めた。

私も、気が付いたらケーキを口にしていた。食べたくて仕方がないのに、お酒ばっかり飲んでいたから、ほとんど無意識に手が伸びていた。

「お姉ちゃんも、さすがに甘い物は別腹だね~ここのケーキ屋さんは、何食べてもハズレがないもんね!」

あっという間にワンカット平らげてしまった・・・でも、でも、何かとても、とっても美味しいケーキだった。ケーキって、本当はこんなに甘くて、なめらかで、美味しいんだよね・・・

平日は、仕事に追われて、夕飯なんてコンビニ弁当で適当に済ませて。休日は、朝早くから出かけて、キャンプやスポーツに夢中になって。たまに実家に帰って来たら、普段はなかなか食べれない(おふくろの味)をお腹いっぱい食べて。それでもスイーツは(甘い物は別腹)とか言って平らげて・・・それが普通、それが当たり前なのかもしれない。私、私は、いったい何に拘ってるんだろう。何に縛られてるんだろう。何が許せないんだろう。何を守りたいんだろう。痩せること、痩せ続けることって、そんなに大切?命を懸けてまで追い求めること?・・・由希やお母さんを見てると、自分が何をやっているのか、何を求めているのか、何になりたいのか、だんだんわからなくなってきていた。

「お母さん、クッキーって、一人何個食べていいの~」

由希は、どんだけ食べてもまだまだ食べる気でいるようだった。


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