酒造りの麹と、糀屋の糀の違いとは。その1
発酵食品工房 ハッピー太郎醸造所 ハッピー太郎です。
私は、日本酒の酒蔵で12年勤めましたが、1年生のペエペエの時からずっと麹を担当して来ました。70%精米の普通酒の麹から、35%の大吟醸酒、または玄米の酒のための玄米麹まで、また、総ハゼから突きハゼまであらゆる麹を作り、お酒を醸してきました。
なんだか冴えない顔ですねw
お口直しに猫を。
さて、気を取り直しまして。
その後、糀屋として独立するわけですが、味噌用、甘酒用、白米、分搗き、玄米、コシヒカリからササニシキ、など、色々なお米を味噌用や甘酒用の糀にして来ました。
酒蔵・糀屋の両方で、仕事・産業(小さいながらも)として務めてきた麹師は、日本全国に(ということは世界にも)あまりいないのではと思います。
ここではすでに「こうじ・糀・麹」とは何かご存知の方に、日本酒で使用されている「こうじ」と、お味噌や甘酒で使用されている「こうじ」はどこが違うのか、を解説しようと思います。
こうじのことを色々と基礎から理解したい人は、ネットの情報であれば、こちらのマガジンがオススメです。村井さんは、愛知県の種こうじメーカー「糀屋三左衛門」29代目当主です。様々な角度からフェアな情報を届けておられる方で、信頼できます。
こちらを読めばこうじの基礎的なことからちょっとしたマニアな話までほぼわかります。
って済ませてしますと、この記事の意味が無くなりますから、笑 私ならではのお話を書きましょう。
便宜上、日本酒を造るために酒蔵で作るこうじを「麹」、お味噌や甘酒で使用されている糀店が作るこうじを「糀」と表記します。これは絶対的な表記の仕方ではないので、お気をつけ下さい。
酒蔵「麹」は、食べない。
調べてもらえればわかることですが、「酒蔵の麹と、糀店の糀は、作り方が違う。温度経過が違う。」と言われることが多いですし、それは正しいのですが、私として説明できることがあるとすれば、まず大前提として、
それは、
酒蔵「麹」は食べなくても良いものだが、糀店「糀」は丸ごと食用である。
これが、両者の作り方が大きく違ってきた最大の要因だと思います。
ピンと来ないかもしれませんね。少し説明が必要です。
日本酒造りの基本材料は、水・米・米麹 です(微生物は除く)。
日本酒の仕込みで、水・米・米麹がドロドロになっている状態を「もろみ」と言いますが、それを濾したものを「清酒」と呼び、残ったものを「酒粕」と言います。
清酒のカテゴリーに一応入る濁り酒(荒く濾して出来た清酒)は覗いて、ほとんどの清酒は、透明な液体(澄み酒)ですね。
澄み酒は、米・米麹由来の成分や、微生物が作り出した様々なエキス、アルコール、芳香などが、透明な液体として渾然一体となっている状態のもの、です。
つまり、大半の清酒がほぼ透明で、「麹」の跡形もありません。もろみで溶けずに残った麹は酒粕になっています。
日本酒(清酒)では、麹を食べることが本来の目的ではなく、麹のもつ機能こそが大事と言えると思います。
それを少し言い換えると、目的の酒造りが全うされるのであれば、どんな麹でも良い、ということになります。
蛇足ですが、さらに文系的に言い換えますと、
日本酒の麹は、酒造り発酵舞台での演者の一人で、舞台が無事全うされるのであれば、その演者が極端に個性派曲者であっても、新人でもベテランでもいいわけです。舞台の流れをぶち壊しては迷惑なのですけれどもね。
そして、日本酒造りの業界では搾ったお酒の品評会はありますが、残った酒粕(溶け残った麹を含む)の品評会は存在しないように思います。
だから、誤解を恐れずに言えば、酒造りにおいては、酒粕及び麹が不味くてもお酒が美味しかったら問題ない、と言えます。
ふーん、、、、(画像はイメージです)
糀店「糀」は丸ごと食べる。
糀店で作られる「糀」は、お味噌や甘酒、塩糀などに使われます。
一般的に糀店「糀」はそのまま食べられることがほとんどです。
粒味噌を軽く濾したり、塩麹を食材から拭い去ったり、甘酒のエキス分を抽出したりすることはあっても、前提として「そのまま食べられる」ものとして、糀店「糀」は作られます。
なので、糀店「糀」は二つの役割があり、
美味しい発酵食品を醸すことに主として貢献するもの であると同時に
発酵後の糀そのものを食べても美味しいと感じるもの
である必要があります。
さらに文系的に補足しますと、
酒造りではアルコールを作る酵母という微生物が麹よりも主役的な役割を果たしますが、糀店「糀」で作る「甘酒」では糀こそが主役で、その発酵舞台では糀だけで演じられます。味噌や塩麹は糀単独ではないですが、替えの効かない主役です。
そう考えると、糀店「糀」は発酵舞台の座長であって、その舞台を取り仕切る役割。座長は舞台の企画から最後の打ち上げまでしっかりと目配せ気配りして成し遂げなくてはならず、それなりの包容力のある実力者でなくてはならない。そんな風に言えなくもないのではないでしょうか。
いかがだったでしょうか。
長々と書きましたが、要するに
酒蔵「麹」は食べなくても良いものだが、糀店「糀」は丸ごと食用である。
これに尽きます。
次の記事では、じゃあ、それを具体的にどういうビジョンで「麹」「糀」作りをしているのか、私の哲学をお話しします。
待っててね〜♪
画像はイメージです♪
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