雛河麦

歌人集団かばんの会に所属しています。ゆるゆると短歌を詠んだり読んだりしています。

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最近の記事

かばん2024.5月号評

5月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 ◆特別作品より 異世界の魑魅魍魎がゴミ箱に繋がっていて見張られている  本田葵 『いちごつみふたたび』というタイトル、折句で「いちごつみ」となってるんですね。この縛りで12首も詠めるなんてすごいです。その中から一首引きました。「ゴミ箱」が異世界と繋がっているという発想になぜか納得してしまいます。魑魅魍魎というところも。結句でドキッとさせられました。 額装はミントグリーン肖像の十二歳には憂いの夏が  藤本

    • かばん2024.4月号評

      4月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 ◆特別作品から エーゲ海きらめくばかり青く澄み母が沈んで父が沈んで  松本遊 小泉八雲の生涯をテーマにした『片目の男』の3首目。海はいのちのスープという表現がありますが、死を取り込んでもまったく穢れることなくそこにある。エーゲ海を実際に見たことはないけれど、きっとキラキラしてるんだろうと思わせます。その海は島国である日本を囲んでいて、今も父母に守られているかのようです。(これを書いている時、今秋からの連続テ

      • かばん2024.3月号評

        3月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 ◆特別作品から 小魚も熊もイルカも殺し合う 地球、地球、きれいな瞳  水庭まみ 上句のドキュメンタリーのような映像からぐーっと引いて地球が瞳となるカメラワークに引き込まれました。「地球」のリフレインには、残酷さを内包してもなお美しい地球への賛美と、人もまた残酷さを持ち合わせているという哀しみを歌わずにはいられない、という作者の思いが強く押し寄せてきました。 せつなくて無駄が多くてだらしないときにときど

        • かばん2024.2月号評

          2月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 ◆特別作品から 旅人に疑問の余地なく朝が来ることを伝える必要がある  壬生キヨム 旅人というのは、宇宙人。地球人なら朝が来ることに疑問の余地はないわけだし。とすると、どうやって伝えたらいいのかな。太陽や自転のことを話したいけど、最後には「とにかく、いつまでも真っ暗じゃないから安心して!」と言ってしまうと思います。地球のルールを知らない宇宙人はきっと不安だと思うから。 さびしげな鳥のようだね机から机へ渡る白

        かばん2024.5月号評

          かばん2024.1月号評

          1月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 1月号は全員2首の提出で、より個性が際立っていると感じました。 倖せを呼ぶごと明(あか)る朝の日の「放射冷却」窓(まど)霜(しも)の輝(て)り  浅香由美子 「放射冷却」の「放射」という文字に引っ張られ、朝日新聞の社旗のような朝日が思い浮かびました。いつもの朝日とは比べ物にならない強さが元旦の朝日にはあるようです。朝日を吸収して輝く霜を結句とすることで、万物に光が宿っているような神々しさが表現されていると思いま

          かばん2024.1月号評

          かばん2023.12月号評

          12月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 12月は特別号で全員8首。深みのある作品が多かったなぁという印象です。 われらみな『ドリアン・グレイの肖像』を屋根裏部屋に隠しつつ老ゆ  遠野瑞香 『ドリアン・グレイの肖像』を知らなかったのですが、ネットで検索するとあらすじが読めました。東洋的にいうと閻魔帳みたいな感じ。悪行は善行で帳消しにはならず、すべて記載されている。「われらみな」は使うのが難しい言葉ですが、納得です。 蠟梅が咲きたるという人の声油色

          かばん2023.12月号評

          かばん2023.11月号評

          11月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。歌会では1首について様々な読みを聞くことができ、読みを深めていくことができますが、他の方の読みに流されることもしばしば。それが歌会の醍醐味でもありますが、個々の読みをしっかりさせるにはやっぱりこうやって書くのがいいように思います。で、他の方の評を読む。そういう場があればいいのにな。本誌以外に「かばん○○月号評」をまとめて読めるような・・・。(いや、別にかばん評に限らなくてもいいんですが) ◆特別作品から 白妙

          かばん2023.11月号評

          かばん2023.10月号評

          10月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 今回は前号評の係として、私の評が12月号に掲載されています。同じ文章をここにも載せておきます。ちなみに10月は後期入会月で、新規入会の方の歌は1首ずつ取り上げました。特別作品は2首ずつです。 ◆特別作品から 僕はただ僕であるからこのまんま僕を続けてればいいんだね はにかんで君が小さく笑うとき胸の奥なる鈴鳴り止まず  山内昌人 『陽だまり志願』より。自己との対話から生まれた7首目。うん、とうなずきたいもうひと

          かばん2023.10月号評

          かばん2023.9月号評

          9月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 かばんの前号評は2月後、11月号に掲載されるので、発行されたら執筆された方々の評と比べてみようと思います。(という予定でしたが。12月号の前号評担当になったため書くのが前後し、そうこうしているうちに11月号が到着してしまいました。) ◆特別作品から もう少し睡ろうかしら雨の朝はねる水音ゆらぐ鏡面   悠山 「睡」が歌のトーンを淡く調整していて、いいなぁと思いました。音から視覚化への誘導がスムーズで、読み手

          かばん2023.9月号評

          かばん2023.8月号評

          8月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 かばんの前号評は2月後、10月号に掲載されるので、発行されたら執筆された方々の評と比べてみようと思います。 ◆特別作品から おやつ待ちおすわりをするまだ何も言ってないのにお手もしている   あまねそう(Type F) この歌のひとつ前に犬が出てきて、犬のことを言っているようで人間のことを言っているようなところがいいな、と思いました。配置の妙というか。当たり前のようにおやつタイムになると席に着く人が我が家に

          かばん2023.8月号評

          かばん2023年7月号評

          7月号掲載の歌からいくつかの歌について評(感想)を書きました。 かばんの前号評は2月後、9月号に掲載されるので、発行されたら執筆された方々の評と比べてみようと思います。 ◆特別作品から いつまでも本音の言葉吐いてきた眠る前には後悔をせず   雨宮司 「いつまでも」という未来を示唆する言葉のあとに「吐いてきた」という過去形が来る。この違和感によって、今を中心とした過去と未来がぐっと膨らむように感じました。 目が覚めてまた目が覚めて目が覚めて背中の畳は川底に似て   

          かばん2023年7月号評

          かばん2023年6月号評

          全員の歌について1首を取り上げて評(感想)を書きました。 かばんの前号評は2月後、8月号に掲載されるので、発行されたら執筆された方々の評と比べてみようと思います。 街明かりかきわけめくるめくめぐる中央線は明日への旅路   かぱぴー 「かきわけめくるめくめぐる」という音のつながりが素敵。明かりに翻弄されながらも突破していく感じがいいです。 あんなふうになりたくないわ あんなふうになるのがこわいと祖母繰り返す   小鳥遊さえ 「祖母」の不安を受けて私も不安になってしまいま

          かばん2023年6月号評

          はじめる

          毎月発行される『かばん』の評をゆるゆると書いていこうと思います。自分で書いておくと、2か月先に掲載される前号評の読みごたえが変わってくると思うので、できれば1年くらいは続けるつもりです。