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お手紙 ( 誕生日プレゼント )

「このお盆休み、俺の家に遊びに来ない ? 」
兄からラインが来たのは僕の誕生日が近づいた10日前くらいだった。

すぐに日時を決めて承諾すると、
「ありがとう、あいちゃんも喜ぶわ」
と短いメッセージが返ってきた。

あいちゃんとは姪っ子の名前でつまり兄の娘である。幸い、僕に懐いてくれていて(今のところ)、いつも「ねぇねぇ、虎ちゃん、遊ぼうよ」と足にまとわりついてくる。

そんなあいちゃんが可愛くて、会えるとなるとこっちまでテンションが上がってしまう。
兄の家に行きたい理由の半分以上は彼女に会えることといっても過言ではないくらいに。

当日、少し寝不足の目をこすりながら顔を洗い、ご飯を食べ、少しお腹を空かして家を出る。
「さぁ、今日は目一杯、姪っ子と遊んでくるぞ」
まるでデートの待ち合わせの場所に行くような慎重な足取りで、でもいつもより足は軽かった。

「いらっしゃい ! 」
兄と奥さんとあいちゃんが満面の笑顔で迎えてくれた。「お邪魔しまーす」。
あぁ、何だか懐かしい匂い。兄の家には年に2回くらいしか来ないのに。

兄の家はいつも綺麗でいい匂いがする。
それだけで兄たちの家族の仲の良さみたいなものを感じられる。あいちゃんも前回、会った時より随分と背が伸びたもんだ。子どもの成長は早い。

一通りみんなで奥さんの作ってくれた昼ご飯を食べ、一息ついているところで、あいちゃんが肩を叩いてきた。

「ねぇねぇ、虎ちゃん、最近2段ベッドを買ったんだ。こっちに見に来て」
2段ベッドいいなぁ、僕も子供の頃、憧れてた。
ママ(奥さん)もついてくる。

あいちゃんは2段目に座ってキャッキャキャッキャしている。その後、大声で、「ママー、虎ちゃんのプレゼントはいつ渡すの ? 」
ママが慌ててあいちゃんの口に蓋をする(笑)

なるほど、そういうことだったのか ! 
ここでようやく兄がこの時期に誘ってくれた意味が分かった。なかなか粋なことをしてくれるものだ。
でもそれ、今、言っちゃたら台無しやん、あいちゃんよ(笑)

僕もあわてて「このベッドいいですね~」なんてほとんど内容0の会話をママと交わす(苦笑)。
反面、こういうところはまだまだ子どもだなぁ、と微笑ましい気持ちになってしまう。

実はここ数年、僕は自分の誕生日の実感が年々薄くなっている。世の中、全体がお盆休みで羽根を伸ばす中、自分もその空気に流されて、誕生日当日の身内のメールで気づくことも多いほどだ。

だからこの時も兄の誘いと誕生日祝いとの関連性にはまるっきり頭になかったのである。
プレゼント ? え、誰へ  ?
最初はそんな感じだったのである。

リビングへみんなで帰り、その後もあいちゃんがしきりに、「ママ、プレゼントは ? 」と聞くので、ついに兄もママも観念した。

ママが、「もう少し後に渡すつもりだったんですが(笑)、お誕生日おめでとうございます」と言ってプレゼントを渡してくれた。

何やら細い箱のような入れ物とあいちゃんの手紙らしきもの。中身を開けるとお洒落なガラスペンであった。

「これ、あいちゃんが選んでくれたん ? 」
「うん、そうそう」。大人顔負けのプレゼントセンス。「ありがとう、あいちゃん、ほんまにうれしいわ ! 」と言うと、子どもっぽい花が咲くような笑顔を見せてくれた。

次に手紙を開けてみる。
そこにはあいちゃん直筆のメッセージと飛行機の絵。どんなに綺麗な言葉よりも正直で素直な表現に優るものはない。

手紙にはたくさんの消しゴムのかすと何度も書き直してくれた痕跡。思わずじ~んときてしまった。

こんなにうれしい手紙をもらったのは久しぶりのことだった。僕も照れてあいちゃんのぷるぷるのほっぺたを何度もつつく。





手書きの手紙っていいね。
字体や絵などから思いがストレートに伝わってくる。そして渡す時(ポストに入れる時)、受け取る時のドキドキ感が何よりもいい。

その後、あいちゃんと思いっきり遊んで帰宅するともう夜の9時だった。今日はありがとう、兄、奥さん、そしてあいちゃん。

あいちゃんにもらった手紙と絵を見返す。
これは一生ものだな。あいちゃんの誕生日はクリスマスの時期。
今度はこのガラスペンであいちゃんへ手紙を書いてあげよう。もちろんその前でもいい。

僕は自分の中で密かに「宝箱」と呼んでいる入れ物に手紙を丁寧に丁寧にそっと入れた。



      

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