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エッセイ

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#詩

映画「コジョーの埋葬」を観て

映画「コジョーの埋葬」を観て

視線を感じるというのは、まだ科学的に証明されていない現象だ。五感とは別の何かで人の視線を感じる。そうして振り向く。そういう瞬間が日常にある。あの視線を一体私たちはどうやって感じているのだろう。

「コジョーの埋葬」という映画を見た。そこには正にそんな視線が飛び交っていた。温度や風と同じように、目に見えないところに確かなリアリティを感ずることがある。この映画の中に描かれる視線は何度も、目に見えている

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生々しい娯楽に触れにくくなってきた

実は書籍を販売しているのですが、三月中は送料無料にすることにしました。
生々しい娯楽に触れにくくなってきた今、生々しい力を持っていると思ったからです。
よかったら。

行く予定だったライブは軒並みキャンセル。眉村ちあきもカネコアヤノも三四郎も。でもみんなそれに真摯に対応していて、それを伝える言葉と、伝えた後の行動にとても好感を覚えました。やっぱり推せる。三四郎のオールナイトニッポンでイベントが決ま

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自分の美しさ

最果タヒの詩集「夜空は最高密度の青色だ」のあとがきにはこんな一節がある。

世界が美しく見えるのは、あなたが美しいからだ。

最果タヒの詩にはそこまで感銘を受けたことはないのだが、この一節だけが妙に胸に残った。とてもかっこいい言葉だ。

その言葉の前にはこう書いてある。

ふと見た景色や鳥のさえずりや、好きな歌、それらにふっと顔がほころぶ日があったなら、それはきっとあなたの中の何かが響いて、すべて

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ラグビーワールドカップ

こないだ友だちの家でラグビーを見た。ぼくはスポーツが嫌いだから、あまり楽しくはない。口をついて言葉が出ていたのだろう。

「いつもポジティブな発言が多いのに、スポーツになるとネガティブなこと急に言い出すよね。」

と言われた。たしかに、と思った。別にいいのだけれど。

でも別にいい、という言葉を使うときは別にいいと思っていないということだ。それは昔友人に言われた。「ま、いいんだけど」って言ってると

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宙飛ぶテキスト

テキストが宙に浮いている。

紙に印刷された言葉が、装丁を伴って本になると、本そのものが一つの筋として、言葉を先導したりする。行間や字体や空白の取り方、紙の質感、重さ、表紙の手触り。それらすべてが文章を後押しするようにそこにある。それに比べてネットにある文章というのは野ざらしだ。大きさは定まらず、空白にはランダムに広告が瞬いたりする。1ページ目の後に2ページ目が来たり、74ページ目の後に75ページ

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台風の後の夜を散歩する

ラジオを聴きながら寝っころがっていると、カーテン越しに月明かりが見える。窓を開けるといつの間にか空は晴れていて、台風はもういなくなっていた。

手近にあったリトルトゥースのシャツ(もちろんラスタカラー)を着ると、外に出てみる。

雨風に清められ澄み切った空気に脳がさわさわとする。湿度を含んだ町から上を見上げると月がかすんで見えて、水中から太陽を見るみたいにゆれている。

人も車もなく、町は静かで、

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志賀理江子「ヒューマン・スプリング」

東京都写真美術館に志賀理江子の展示を見に行った。

同じく志賀理江子の展示「螺旋海岸」を見に行ったことを思い出す。夜行バスで仙台まで。とりあえず時間ができたから、当日に慌ててバスのチケットを取って、仙台に向かった。日付を意識していなかったが、その日はクリスマスで、仙台の並木を彩るイルミネーションが異様に綺麗だった。町は冷え込んでいて、時折、コンビニに入って暖をとる。それからまた綺麗な白い光を見なが

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