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エッセイ

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2019年10月の記事一覧

自分の美しさ

最果タヒの詩集「夜空は最高密度の青色だ」のあとがきにはこんな一節がある。

世界が美しく見えるのは、あなたが美しいからだ。

最果タヒの詩にはそこまで感銘を受けたことはないのだが、この一節だけが妙に胸に残った。とてもかっこいい言葉だ。

その言葉の前にはこう書いてある。

ふと見た景色や鳥のさえずりや、好きな歌、それらにふっと顔がほころぶ日があったなら、それはきっとあなたの中の何かが響いて、すべて

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ラグビーワールドカップ

こないだ友だちの家でラグビーを見た。ぼくはスポーツが嫌いだから、あまり楽しくはない。口をついて言葉が出ていたのだろう。

「いつもポジティブな発言が多いのに、スポーツになるとネガティブなこと急に言い出すよね。」

と言われた。たしかに、と思った。別にいいのだけれど。

でも別にいい、という言葉を使うときは別にいいと思っていないということだ。それは昔友人に言われた。「ま、いいんだけど」って言ってると

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宙飛ぶテキスト

テキストが宙に浮いている。

紙に印刷された言葉が、装丁を伴って本になると、本そのものが一つの筋として、言葉を先導したりする。行間や字体や空白の取り方、紙の質感、重さ、表紙の手触り。それらすべてが文章を後押しするようにそこにある。それに比べてネットにある文章というのは野ざらしだ。大きさは定まらず、空白にはランダムに広告が瞬いたりする。1ページ目の後に2ページ目が来たり、74ページ目の後に75ページ

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台風の後の夜を散歩する

ラジオを聴きながら寝っころがっていると、カーテン越しに月明かりが見える。窓を開けるといつの間にか空は晴れていて、台風はもういなくなっていた。

手近にあったリトルトゥースのシャツ(もちろんラスタカラー)を着ると、外に出てみる。

雨風に清められ澄み切った空気に脳がさわさわとする。湿度を含んだ町から上を見上げると月がかすんで見えて、水中から太陽を見るみたいにゆれている。

人も車もなく、町は静かで、

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仁川国際空港で生活しているルレンドさん夫妻に会った

ウラジオストクに行ってきた。その話の前に、先にしておくべき話がある。

ウラジオストクには韓国経由で行くといくらか安く行ける。韓国でのトランジット。仁川国際空港。そこには難民申請中のルレンドさん一家が住んでいる。韓国に入国できず、帰国すると身の危険がある。パスポートも取り上げられ、彼らはそこに住まざるを得なくなっているのだ。

映画「ターミナル」を思い出す。「クラコウジア」と言う声が耳によみがえる

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