【現代詩】箱根路を駆けるあなたへ

あなたは夢の世界にいる
ずっといたかった夢の中

夢にたどり着くためにあなたは
どれほど命を燃やしたことか
たどり着くと一瞬で終わる
はかない夢のなかにいるあなた

柔らかい陽が射す戸塚の朝
麗しい鋼の両足が動き出す

この瞬間のためだけに
全てを捧げたまばゆい青春の日々
雪化粧に輝く富士の山は
あなたを励ます勇ましさのしるしね

鼓動の刻みを揺らす藤沢の坂
凛々しい眼差しがかすかに曇る

後ろの人が気になるのね
重荷を背負って駆けているのね
あなたのために走ってほしい
茅ヶ崎の美浜が迎えてくれるから

初春の海の輝きは素敵ね
ぽっかりと浮かぶかわいい江ノ島

無機質にコツコツ刻む足音が
背中を押す声援に聞こえると
あの日話してくれたあなた
声援のなかにわたしはいるの？

潮風の香りは届いているかしら
前だけを見つめて進むあなた

好きな言葉だと教えてくれた
「一心不乱」が今のあなたのすべて
私の姿が見えなくなるくらい
栄光へ続く道をひたすら駆けてきたの

夢にたどり着くためにあなたは
どれほど命を燃やしたことか
たどり着くと一瞬で終わる
はかない夢のなかにいるあなた