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建築家と一緒に家をつくった8年後  我が子が子ども部屋づくりで得た“リアルな感動”

ライフステージが変わったとき、多くの人は住まいも変化させます。家族が増えれば大きな家に引っ越しをしたり、子どもが巣立った後はまた違う形の暮らしを望んだり。設計から施工までの全てを施主と行う建築家集団「HandiHouse project」と家づくりをした、あるオーナーさん家族は、今度は成長した子どもたちに自分の部屋を自分でつくる体験をさせたいと「子ども部屋づくり」を依頼されました。建築家と一緒に家をつくったことで、その後の住まいや人生はどのように変化したのか。HandiHouse projectとの“2度目の住まいづくり”のお話を交えながらお届けします。

稲葉さんご一家
2015年、HanidiHouse projectと自宅のリノベーションを行う。最初の妄想段階から解体、施工、完成後の打ち上げまで、全ての工程に家族全員で参加した。当時、息子のジエイくんは3歳。娘のキコちゃんはまだ生まれる前だった。今回は子どもたち2人が中心となって、子ども部屋づくりに挑戦。

加藤渓一(写真中央)
HanidiHouse projectの創業メンバー。意匠設計がバックグラウンドのため、つくることだけではなく、デザインやアイディアを大切にしている。自分の頭の中にあるイメージを自分の手で作るのが快感。株式会社スタジオピース一級建築士事務所 代表。

勝又なつほ
プロジェクトオーナー(施主)と描いたデザインを自らの手でカタチにできることに魅力を感じ、2023年HandiHouse projectに参画。東日本大震災がきっかけとなり、まちづくりに興味を持ち、建築と地域コミュニティの関わり方に関心がある。地域の人を巻き込むようなプロジェクトをしてみたい!
株式会社スタジオピース一級建築士事務所に所属し活動中。

HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)※以下ハンディ
設計から施工まで、すべて自分たちで行う建築家集団。「どんな家にしようか」という最初の妄想からつくる過程まで、“施主参加型の家づくり”を提案。施主をプロジェクトオーナーと呼び、オーナーさん中心で家づくりを進めることを大切にしている。合言葉は「妄想から打ち上げまで」

ーー8年ぶりのハンディとの家づくりでしたが、いかがでしたか?

亜希子さん:8年前に家をリノベーションしたときから、いずれは子ども部屋を頼もうかと思っていたので。加藤さんが遊びに来てくれる度にそんな話はしていました。

智之さん:頼むならもう一度ハンディにお願いしようと思っていました。8年前に家づくりを通してたくさん話をして濃厚な時間を過ごしたので、全てを言葉にしなくてもどうしたいのかわかってくれるかなと思ったので。

加藤:今年はもうやっちゃいましょうって、早めに決めて進めていましたよね。

智之さん:スケジュール空けておいてくださいって。

加藤:ありがたいです。

自分の家を自分でつくる 学生時代からの夢だった

8年前、毎週土曜は家族全員で“現場の日”と決めて、解体から完成まで全ての工程に参加した。解体をする亜希子さんを見守る、智之さんと息子のジエイくん(当時3歳)
家族3人で塗装。

加藤:ジエイは、この家をつくったときのことを覚えてる?

ジエイくん:壁のペンキを塗ったことは覚えてるよ。

ーー8年前というと、まだDIYとかセルフビルドという名称自体も珍しい時代だったかと思いますが、どうしてハンディに家づくりを頼んだのでしょうか?

智之さん:僕がずっと建物をつくってみたいなと思っていて。

ーーそうなんですね!何かきっかけとかあったんですか?

智之さん:実は大学受験のとき、建築学科を第一志望にして勉強をしていて。合格したのですが、家庭の事情で違う大学に行くことになって。そのときからですね。建築関係の仕事がしたくてずっと悶々としていました。それで、家を買おうってなったときに、今こそやりたかったことを実現できるときじゃないかと思って、自分も一緒につくれる建築会社を探したんです。そうしたらハンディを見つけて。

ーーネットとかで見つけたんですか?

智之さん:確かそうだったかと思います。

亜希子さん:あの頃、そういう会社ってなかなかなかったからね。
加藤:当時は、リノベーションがようやく認知されてきた頃でしたね。DIYにはまだ至ってない頃。今みたいに、YouTubeでつくり方を紹介とかもないですし。ハンディのホームページも、素人ながらに自分たちでつくったものだったと思います。

智之さん:新築とかも色々見たんですよ。でも、建売の物件はワクワクしなくて。ワクワクするような新築を建てようとすると高価になってくるし。そうしたら、妻がこの物件を見つけてきたんです。

名匠・内井昭蔵氏設計のヴィンテージマンション。加藤は内井氏の設計を活かしてワンルームで三角のキッチンを中心としたつくりにした。
奥には寝室が。ワンルームでも、半個室のような空間が点在。新しい建物の場合は、なかなかこうした間取りにはできないと加藤は話す。

ーーハンディもまだ設立4年目とかだったかと思います。不安や心配はなかったですか?(笑)

智之さん:妻は心配してましたよ(笑) 大丈夫?って。

加藤:僕たちも若かったし…。

亜希子さん:大丈夫?とは言いましたが、私自身も、家の細かいところは自分で決めたくて。例えばタイルとか、壁の色とか。全てを建築家にお願いするのは嫌だなと思っていたので、加藤さんにお会いしてすぐに決めました。

模型を使っての打ち合わせも、家族みんなで参加。妄想段階からオーナーさんが中心となって進めることをハンディは大切にしている。
家族3人でフローリングを貼る様子。

加藤:解体から最後の仕上げで養生を剥がすところまで一緒にやりましたね。さらにはオープンハウスまで一緒にいてくれて。そんなにがっつり一緒に家づくりをしたオーナーさんは初めてでした。

亜希子さん:夫婦2人ともつくりたいから、毎週土曜だけしか参加できなかったけど、朝から晩まで現場にいましたね。夫婦どちらが息子の面倒をみるかで喧嘩までしちゃって(笑) 

加藤:ジエイも壁塗ったり、ビス打ったり、ここまで参加できる3歳児はいないと思います。現場でお昼寝もよくしてましたね。かわいかったなぁ。

ジエイくんも加藤と一緒にインパクトを使って作業に参加。
ジエイくんの誕生日は現場でお祝いした。もちろん加藤と荒木(ハンディメンバー)も参加。
お風呂場でお昼寝。

ーー智之さんにとっては、念願の建築作業。

智之さん:そうですよ。出来上がったら、僕の中でその欲求は消えました。すごく満足したので。

亜希子さん:転職しなくてよかったね(笑) 自分たちでつくった家っていうのは、床の隙間さえも楽しいですよね。自分たちで貼ったフローリングの間にご飯粒がはさまったりとかしても、「これ貼ったの私だな。やり直せばよかったかも。」って当時のことを思い出したり。そんな思い出もこの家への愛情に繋がっている感じで。

ーー完璧じゃないけど愛情がいっぱいの家。いいですね。

亜希子さん:そうなんですよね。どのようにつくられているのかもわかっているので、自分で直すこともできますしね。そういった意味でも一緒に参加しながら家づくりしてよかったなと思っています。

壁はいらない “4人家族1ルームの暮らし”からの変化

ーー当時、どんな家を希望されていたんですか?ジエイくんは3歳、娘のキコちゃんはまだ生まれていなかったですよね。

智之さん:部屋はいらない、壁もいらないってお願いしました。

亜希子さん:何なら、トイレも壁もいらないかもって言ってたよね。真ん中に風呂を置いてもいいとか言ってました。

加藤:僕が印象的だったのは、みんなで作って食べるのが好きだから、キッチンは大事にしたいっていう希望ですね。最初から案がかっちり固まっていなかったので、やりがいのある仕事でした。

細長いテーブルは智之さんの手づくり。キッチンの余ったタイルを使用した。
壁に作り付けの棚をつくる希望は智之さんから。

ーー壁がいらない、お風呂が真ん中っていうのも斬新ですね。

亜希子さん:私たちは旅行が好きで、ヨーロッパに行ったときに、アパートを借りて宿泊したんですよね。いくつか泊まってみたのですが、壁がほとんどない家が多くて。スイスのホテルの部屋は、バスタブの隣りにベッドが置いてあったりも。間取りにとらわれない生活っていいなと思ったのはこのときからですね。

ヨーロッパ旅行で泊まったアパート。部屋を区切らない暮らしのヒントは海外旅行での経験から。

智之さん:以前住んでいたマンションでは、いくつか部屋に分かれていて、寝室は寝るときにしか行かないじゃないですか。荷物を置くだけの部屋もあったし。すごくもったいないなと。できれば使わない部屋を減らしたいなと思ったんですよね。

キッチンを囲んで、お友達との食事を楽しむ時間も増えたという。
満開の桜はキッチンからも良く見える。“特等席”でする料理は格別だと話す亜希子さん。

ーー自分たちで家をつくってからの暮らしはいかがでしたか?

智之さん:この家の中、どの場所にいても落ち着きますよね。

加藤:それはよかった…。
智之さん: やっぱり自分が思い描いた家に住むことができていますからね。何かちょっとでも不満があったら、家に帰りたくないなと思うことがあるかもしれないけど、それはないです。

ゲームではなくリアルな感動 子どもがプロと一緒に子ども部屋をつくる醍醐味

亜希子さん:お気に入りの家ではありますが、ライフステージが変わると、壁がないことが不便に思うことも出てきて。子どもが一人増えましたし、息子も大きくなりましたし。コロナで家族全員が家にいる時期とか結構大変でした。でも、夫がこの家大好きすぎて引っ越せないし…。

ーー子どもが大きくなったタイミングって、住まいも色々と考えますよね。今回の子ども部屋もまた斬新ですね。

加藤:お子さん2人が寝たり隠れられる場所がほしいというオーダーでした。壁が欲しいけれど、あまり仕切りすぎたくないという希望の中で、どこを落としどころにするのか。今回、勝又を中心に子どもたち主体でつくり上げていきました。

新卒1年目で加藤の事務所に所属して活動する勝又なつほ。設計から施工まですべてを担当するのは今回のプロジェクトが初めて。加藤と対等に意見交換をする姿に、稲葉さんは頼もしさを感じたと話す。
左手後方に見えるのが、箱型の子ども部屋。8年前と同じ木材を使用して部屋の雰囲気になじむようにした。子どもたちが巣立った後には解体もできるという。
片面はジエイくんの部屋。階段を登った先にはベッドがある。頑丈なつくりで大人でも登ることができる。
双方から見えない空間かつ、天井まで壁を広げないことで圧迫感をなくした。

亜希子さん:息子はずっと言ってましたからね。自分の部屋がほしいって。

ーーどうして自分の部屋がほしかったの?

ジエイくん:うるさい人がいるから。

亜希子さん:誰よ…。

ーー (笑)

亜希子さん:私たちも“見えない”って大事だなって思いました。やっぱり見えると色々と言いたくなっちゃうので。

ーーわかります…。

亜希子さん:子どもが大きくなって、それぞれの生活時間が変わってきて。塾から帰宅してもう少し勉強したい息子と、20時には眠くて寝ちゃう娘、テレビを見たい人もいたり。娘のスペースは、リビングの電気をつけてもちょうど光が入らないようになっているので、自分のペースに合わせて生活ができるようになって、すごくよかったです。

8年前と同じ店に一緒に行ってペンキの色を選んだ。当初塗装は考えていなかったが、色を塗りたいとジエイくんが提案してくれたおかげで、デザインの幅が広がったと勝又は話す。
ハンディのオフィス兼工房「Handi Labo」にて仮組み立て。
8年ぶりに一緒に家づくりをする加藤とジエイくん。
ジエイくんは、ビス打ちも、塗装もほぼ一人でやり切り、すごい集中力だったと加藤は話す。

ーーキコちゃんも自分でつくりたがっていたのですか?

智之さん:8年前の写真を見て、私いないって言ってたよね。

亜希子さん:そうそう。今回やらせてあげられてよかったです。8年前、ハンディはいくら一緒に家をつくらせてくれるとはいえ、まさか3歳の子どもに丸ノコまで持たせてくれるとは思っていなくて。親としても子どもに本格的なものづくりを経験させてあげられたのは嬉しかったので、娘にもぜひにと思っていました。

加藤と丸ノコを握る3歳のジエイくん。

亜希子さん:当時、モンテッソーリの幼稚園に通っていて、園ではノコギリや包丁も大人が使い方の手本を見せて、その後やらせてみることが教育方針の一つでした。子どもを子ども扱いしないで、危ないものだからと取り上げずに経験させてくれていて。ハンディも私たちと同じように息子にも使い方を教えてくれて、最高の経験だなと思ったんです。

智之さん:ゲームじゃなくて、リアルな体験で。しかも出来上がった後に自分で過ごす場所になるっていうのがすごくいいよね。

加藤:生活と直結するのがいいんですよね、家づくりを自分でやるのって。

亜希子さん:そうそう、工作キットとかでもなく、ゼロからつくる感じが。今回も思いましたが、やっぱりものをつくっているときの顔っていい顔ですよね。こういう顔するんだなって。私たち、普段チョロチョロ動いている場面しか見ないので(笑)
子どもは、危ないものは危ないって全部わかってるんです。だから無茶なことはしないんですよね。

智之さん:丸ノコ持ってる時の緊張感が伝わってきたよね。

ーー今回お二人は、あまり口を出さずに子どもたちに任せていたと伺いました。

亜希子さん:私たちの部屋じゃないので。

智之さん:言ってもきかないしね。大人もそうだと思いますが、色を選んだり、その過程が楽しいじゃないですか。ハチャメチャになったとしても、自己責任ということで任せました。親が決めたほうが楽ですけどね。でも決めちゃったら、親の範囲までしか伸びないと思うんですよね。自分で決めた道を進んでみてうまくいかないことも経験することで、自分たち親よりも成長していってほしいなと思って。

亜希子さん:そうだね。しかも加藤さん、子どもたちに自分で考えさせるのがうまくて。
どんな部屋にしたいのかちゃんとレポート書いて送ってよって息子に言ってくれて。じゃあやってみようかなって、夜な夜な考えていましたよ。

智之さん:A3の紙に付箋でやりたいことを貼っていくところから始まって。半分以上不可能なことが書いてありましたが。扉がついた一つの部屋があって、ソファーがあって、みたいな(笑)

亜希子さん:それは自分で家を建てるときに考えてくれって(笑)

加藤:そのときが楽しみですね。

初めての家づくりを楽しむキコちゃん。完成の状態を想像しながら材料を自分で並べる姿に、稲葉さんは成長を感じたと話す。
キコちゃんの寝室。完成後も自分好みの空間にするため、IKEAへ買い物に出かけたりと楽しんでいるそう。キコちゃんの部屋づくりは続いている。

工夫を惜しまない暮らしで手に入れる リーズナブルな生き方

智之さん:家族の形態や今現在求めているものに対して、加えたり無くしたり。家づくりって、そうやって変化させていくのがリーズナブルな生き方のような気がしていて。家建てましたで終わりじゃなくて。

ーー 一緒につくらないと変化させるといった発想にはならないかもしれませんね。

亜希子さん:完成品を購入していたらならないかもしれないですね。壁の中がどうなっているのかわかりませんし。

智之さん:しかも、壁がない家にしておいてよかった。そうでないと、今回のような空間はつくれませんし。

加藤:ほんとそうですね。ちょっとした工夫や知恵で手に入れられる自分らしい暮らし。世の中の家を見ると、壁によって空間が仕切られている効率的な家が大多数ですが、稲葉さんは多少不便があってもひとつの空間での楽しみ方を日々考えている感じがしていて。
必要なときにつくったり、壊したり。すごく面白い生き方ですよね。

ハンディメンバーと完成後の打ち上げ。以来、毎年稲葉さんと加藤たちメンバーはこの家に集まり、食事をしたり近況報告をしたり一緒の時間を楽しむ仲に。

加藤:僕もその家づくりの仲間に加えてもらって、本当に楽しくて。建築ってどうしても大きなお金が動く中で、駆け引きとかも出てくると思うんですけど、そういうの抜きにして本音を言いながらどっぷりコミュニケーション取りながらつくれて。多少アラが出てもみんなで楽しむことで、アラも思い出になって暮らしも楽しくなっていく感じがいいですよね。非効率なつくり方だけどお互いに楽しんで満足しながらつくれる方法が“ハンディ”なんだなと改めて思いました。
2度目の家づくり “おかわりハンディ”をありがとうございました!

取材・文 石垣藍子

※稲葉さんの家「青葉台のビンテージマンション」に関して詳しくはこちら
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