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スクラップブック

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何度でも読み返したいnoteの記録
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#エッセイ

就職できなかった

 22歳の無職は笑えないなどと、芯から思ってもないことをうそぶいているあいだに、おれは23歳になり、24歳になり、とうとう今年の春には25歳を迎えようとしている。25歳の無職、それも何か具体的な目標のある無職ではなく、ただ就職という選択を先送りにしているだけの後ろ向きで消極的な25歳無職は、本当に誰も笑えない。笑えないと思いつつ、まあ実際にそうなりつつあるんだから、せめて自分くらいは「なっとるやろがい!」と笑ってみるほかない。  2022年の3月に大学を卒業してから、もうす

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国道沿いで、だいじょうぶ100回

子どものころ、大人気のお歌があった。 「奈美ちゃん、奈美ちゃん、どっこですか〜♪」 先生が歌えば、 「ここでっす、ここでっす、ここにいます〜っ♪」 子どもらは大喜びで、返事をする。 母が歌う。 「良太くん、良太くん、どっこですか〜♪」 弟はいつもどこかにいたけど、それは絶対に、ここではなかった。 ジッとしてられない弟だった。 だまってられない弟だった。 保育園でも、小学校でも、歩道でも、公園でも、どこでも無尽蔵に跳ねまわっていた。軌道がまったく読めないので、

四半世紀目の天気予報

わたしの“火事場の馬鹿力”ならぬ“焼け跡の馬鹿力”の活動限界値は、2週間ではないかということを、以前書いたことがある。 どんなに大変な状況でも、2週間だけなら、苦しさや悲しさをそっちのけにして、がんばれる。2週間を過ぎると、ガクッと落ちるのだ。 何気なく見ていた天気予報に目がとまった。 天気予報にも“2週間天気”というのがある。 2週間後の天気は、晴れるらしいぞい。 活動限界値を超えた先で、晴れた冬の空の下で、自分がどんな風にやっていけてるのか想像できない。遠すぎる

「誰かの暮らし」に憧れるのは、もうやめた

「これが幸せな暮らしなんですよ」という "正解" が、これでもかというほど世の中に溢れてる。 良いホテルのような広々とした家での暮らしが描かれるCM、凛とした器が並ぶキッチンを特集した雑誌、YouTubeから流れてくる丁寧な暮らしの動画。 とてもとても影響を受けやすいわたしは、「いつかわたしもこんな暮らしを」と夢見ていたし、それを叶えることはわたしにとっての幸せ……のはずだった。 はずだった、というのは、ここ1年でわたしの頭に「あれ、なんかちょっと違うのかも」という実感

セルフイメージが変わったので、会社を辞めた。

「暇なとき、小説書いててもいいよ。ちゃっちゃと仕事して、時間浮かせてるんだから、残りは玄川さんが自由に使っていい。それは、玄川さんの時間だよ」 ミーティングが一息ついて、雑談をしている最中。今夏から一緒に働き始めたばかりの先輩が、ごくごく自然なトーンで私に告げた。暇なとき、小説を書いていてもいい? 業務時間中に自由な行動を許す先輩が、世界のどこにいるんだろう。しかも、ただの派遣社員に。 ___ 「転職しよう」と決心したのは、今年の春先だ。当時の勤務先は法律関係のIT企業

それでも、編集者をやめなくてよかった

自分にしかできないことって、なんだろう。自分だからできる「仕事」ってなんだろう。そもそも、仕事って生活のためにするものだよな。なんで今の時代って、仕事に対してこんなにも「やりがい」とか「意味」とか求められているんだろう。なんか、窮屈だな。 最近、家の中でリモートワークをしながら、こんなことをずっと考えていた。陽の光が不足していたせいで、暗い考えになっていたのかもしれない。ひきこもるのが当たり前になって、外に出るタイミングといえば、ゴミ出しの日とスーパーへの往復だけ。最近は少

かわいい人にかわいいと言うのは、僕としては結構ありえない

(このエッセイは微妙にではありますが前回のエッセイと繋がっています) ーーーーーー  移動教室の夜は、どうして好きな人の話になるんだろう。  中2のときもそうだった。僕は口を割らなかったが、2つ隣の布団で寝ていた同級生は僕と同じ人を好きだと言った。彼は騒がしくもなければ静かでもない、嫌われてはいないがモテてもいない、つまりは普通の中学生だった。  会話はヒソヒソと続き、就寝時間を軽くすぎた頃、突然彼が「あー!」と、必殺技を出すときのような声量で叫んだ。 「あー! 〇〇、お

ブスとメンヘラは金にならない文章を書け

ブスとメンヘラが高じて作家になった篠原かをりです。辛うじて文筆で生きていけるのではないだろうかと思い始めたくらいの泡沫作家ではありますが、心は一丁前に作家です。この夏に4冊目の本を出版しますが、自分で自信を持って作家と言えるようになったのは、noteで文章を書き始めたからだと思っています。ありがたいことにnoteのフォロワーが8000人を超えました。他のブログやSNSに比べてこじんまりとしたnoteでは、想像もつかなかった数字です。去年の暮れは2000人台だったと記憶していま

才能に悩んだら、ぜんぶ物語のせいにしてしまえばいい (#教養のエチュード賞)

「君って心が安定してるよね」 会社の考課面接にしては、ずいぶん曖昧でゆるい言葉だなと苦笑いしていると 「あ、一応、褒めてるんだよ?」 と申し訳程度のフォローをいただいた。 いろんな企業で、やっぱり社員のメンタルヘルスが課題となっているようです。仕事量はそのまま、責任もそのままに部下を働かせられる時間は激減・・・管理職は大変そうだなぁ。できることなら、なりたくない。 「心が安定」しているのが良いことなのかは分からないが「秘訣は?」と聞かれると、コツはやっぱりひとつしかない

愛が近づいてくるからせまい

大体において、寝る場所がない。 クイーンサイズのベッドとシングルサイズのベッドをくっつけて寝室に置いている。そこに、私、娘、夫と家族三人で寝ている。 夜も更けた0時前。寝室に滑り込む。するとそこには、シングルベッドで寝息を立てる夫と、その横のクイーンベッドで大の字になって寝る娘がいる。 なぜだろう。私の腰に抱きつくぐらいの身長しかない娘が。週替わりでお気に入りのぬいぐるみを選び一緒に寝ている小さな身体が。自由に手足を伸ばすとベッドを占拠して私の寝場所がなくなるのは。

もしも生まれ変わっても、また私に生まれたい。 #はじめて買ったCD

タイトルで曲名がわかった人はきっと同世代。 LGBTQ当事者の僕がはじめて自分で買ったCDの話をしたいと思います。   「はじめて買ったCD」というテーマを見て、僕は自分がはじめて買ったCDをすんなり思い出すことができた。 ポケットビスケッツの「YELLOW YELLOW HAPPY」だ。 ポケットビスケッツは、当時人気だったテレビ番組「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」の番組ユニットです。 ことあるごとに「●●出来なかったら即解散!」という企画という試練を与えら

she loves you

出会いはありふれたものだった。 友人になんとなく誘われた日帰りドライブ旅行のLINEグループの中に、彼女はいた。 誰に撮ってもらったか分からない、寂しげな表情の横顔アイコンに何故か惹かれた。 前日の夜、集合場所や時間のやり取りの時、彼女の選ぶ一つ一つの言葉遣いが好きだと感じた。 まだ会ってもいない、声も聞いていない相手に、僕の心は揺れていた。 旅行当日、友人が運転する車に同乗して、彼女はやって来た。 車のドアを開けた時に合った眼差し、肩より少し長い髪、細く白い指先に塗られ

可愛い女を消費しないように

今更ながらBerryz工房にハマっています。ももち可愛い。 ルッキズムはくそ!といつも言っていますが、正直にいうと私も可愛い女の子は好きです。特に、突き抜けたエネルギーの塊みたいな女の子が好き。それこそももちとか。あと、他のアイドルでいうとBABYMETALが大好き。3人とも好きだけど、特にもあちゃん。顔がくるっくる変わって可愛いんだあ。 やっぱり、私はアイドルにパワーで殴りかかられたい。ぎこちなさを愛でて成長を見守るほどの余裕はないから、一発でどかんと惚れさせてほしい。

文房具屋のおじいさん

2015年の春のこと。 わたしはまだ青木杏樹ではなく、ただ趣味で小説を書いている人でした。毎日毎日、400字詰め原稿用紙を20枚ワンセットを消費しては、文房具屋に買いに行きました。帰宅するとまた明け方まで20枚消費し、日が高くなる頃には買い足しに行く日々が続きました。 小説とは応募するもの、小説とは他人に読んでもらうもの、という考えがわたしにはありませんでした。 わたしの中には小さな世界がごまんとあり、その世界で生きている人たちはたえず呼吸をしていて、畑を耕し、水を飲み

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