畑のおじさん

20年近く通っている「畑のおじさん(勝手に名付けた)」がいる。
畑で野菜を育てて、無人販売をしている。

おいしくて安くて人気なので、すぐに売り切れてしまう。

おじさんが畑仕事している時に声をかけると、その場で取ってくれる。

100g100円なのだが、300gくらい袋に詰めて「100円で良いよ」と言ってくれる。

お金を受け取ってくれないこともある。

善人で、すごく安心できる人だ。

おじさんのおかげで助かったことがたくさんある。

偏食の子どもに

「これ畑のおじさんの所から買ってきたブロッコリーの先っぽの柔らかい所なの。
無農薬だからこんなに虫さん付いてるでしょ？」

「きゃーーー‼️」

「大丈夫だよ。ママが全部キレイに取ってあげるからね」

と大きい虫は取り除いて、お湯でさっと茹でた。

「ほら茹でたらこんな小さい虫も取れたよ」

「おえーー！」

茹でたてをお皿に盛ってマヨネーズかけてあげたら、恐る恐る一口食べた。

「どう？」

「おいしい！これなら食べられる」と笑顔。

苦手な物を一つ克服できた。

ウコッケイの有精卵を一つ100円で買ってきたこともある。

「これね、このまま温めたらヒヨコが産まれるんだよ。食べてみない？」

「えー、生卵嫌いー。」

ホカホカご飯に卵と醤油をかけた。

「おいしい！」

これで生卵も克服できた。

私は子どもが小学校に上がる前から積極的に性教育や逃げる講座を親子で受けていた。

「自分の両手を広げた範囲に、知らない人を入れない」

「直感は大事。何か変と感じたらすぐに逃げる」

と教え込んだ。

集団登校がない地域なので、近所の子と誘い合わせて複数人と登校していた。

ある日「あのね、最近バス停の近くで毎日すれ違うおじさんがおはようって言ってくるんだけど、何だか気持ち悪いんだ」

「両手を広げた範囲に入れちゃダメだよ」

「うん。でもそこはガードレールが狭くなっていて、入っちゃうの」

「どんな風に気持ちが悪いの？」

「うーん。畑のおじさんも毎朝おはようって言ってくれてて、それは気持ち悪くないんだけど、その人に言われるとすごく気持ちが悪いの」

‼️‼️それは確かにおかしい。

すぐに学校に連絡して、私も通勤途中にその場に車を停めて監視していた。

学校からは副校長が数日その場所まで迎えに来てくれた。

その日からその人は姿を現さなくなった。

やはり不審者だったのだ。
不審者じゃなければ、変わらず同じ時間に同じ場所に来ただろう。
危なかった。

子どもの言い分を「勘違いじゃないの？」
「そんな子どもを相手にする人なんているわけないでしょ？」
と潰す親は多い。

私もそのせいで幼い頃から散々被害にあってきた。
面倒なことには関わりたくない。
子どもの話なんて真剣に受け止めたくない。

誰でも子どもを産んだら母性愛、父性愛が湧き出てくるはずなんて神話だ。

自分しか愛せない幼稚な人は、男女問わず一定数(半数近く)いるのだ。

私の行動範囲も変わり、畑のおじさんと会わなくなって数年過ぎた。

おじさんは私の両親位の年齢だ。
元気にしているかな？と少し気がかりだった。

先日、畑を通り過ぎようとした時、懐かしいおじさんの軽トラが停まっていた。
よく見るとおじさんもいる。

嬉しくて「おーーーーい！久しぶりーーー！」と手を振り降りて行った。

おじさんも「すごい久しぶりの人がきたなーー！」と喜んでくれた。

「ブロッコリーが欲しい！」と言うと、その場で畑からゴッソリ取ってくれた。
芽キャベツの茎も「これ柔くておいしいんだよ」とくれた。
「もう少しすると新玉ねぎができるよ。これ味見であげる」
とまだ小ぶりの玉ねぎを抜いて、「葉っぱは卵焼きに入れたり味噌汁に入れるとおいしいよ」とくれた。

お金を渡そうとすると
「俺の顔を見て、来てくれただけで充分。いらない」と受け取ってくれなかった。

私は味にうるさい。
スーパーで買ってきた野菜は、キレイだがおいしくない。

おじさんの野菜は、販売ルートに乗せられないかもしれないが、ものすごくおいしかった。

また会いに来るよ。

いつまでも元気でいてね。