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すべてのクリエイティブは、誰かの強い意志から生まれる。

「こうしたい!」「これがつくりたい!」

ポッと火がついた強い意思や子どものように自由な発想を、大人の社会で実現させるのは、そう簡単ではないですよね。

「儲かるの?」「市場規模は?」「技術的に可能なの?」

そんな当たり前の質問が、自分からも周りからも次々降ってきて、しょんぼりと火が消えてしまっていることがほとんどだと思います。

Hameeの代表である樋口も、自由な発想と実行力から様々なプロダクトを生み出し、会社を東証一部上場にまで導いてきましたが、その過程では、周りからの反対や、うまくいかないときの社員への申し訳なさから、火が消されてしまいそうになることが度々あったし、今もあるようです。社長なのに!

今回、Hameeのインナーブランディングで伴走してもらっているKESIKIという会社の代表で、日本のデザインシンキングを牽引する存在でもある石川俊祐さんと、その石川さんに「ナチュラルボーン・デザインシンカー」とも言わしめた(?)樋口との会話の中から、どうやってチームみんなでクリエイティブな火を消してしまわないようにするか、ということを考えます。

Hameeを知らない人も、デザイン思考ってなに?っていう人も、結構おもしろいので、読んで損はないですよ!

創業当時、渋谷でギャルとハンズを往復してプロダクトを改良していた。

石川:僕は、樋口さんとお話している中で、なんて「デザイナー」っぽい考え方をする人なんだ! とたびたび感動しています。いろんな会社で「デザイン思考」について話したりもするのですが、樋口さんは経営者としてそれをナチュラルに体現していらっしゃる。具体的には誰のことを考えたり、何を想像したりしながら、サービスや事業をつくっているんですか?

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PROFILE:樋口敦士(ひぐち・あつし)Hamee株式会社 代表取締役社長
1977年生まれ、地元高校卒業、大学3年時に創業。その後、モバイルアクセサリーのEコマース、メーカー、卸売から、ECのマネジメントシステム、海外展開へと事業領域を拡張しつつ、2015年4月に東証マザーズへ上場、2016年7月東証一部へと市場変更し、プロダクト×データ×テクノロジー分野での更なる進化を目指している。

樋口:一番想像するのは、プロダクトができあがってたくさんの人が喜んで使ってくれているところです。創業当時、携帯ストラップを売っていたときも、街でみんなが持って歩いているっていう世界を想像していました。今もそれは変わりません。

石川:さらっとおっしゃいましたが、未来の人の姿を具体的に想像している経営者は、実はあまり多くありません。数字をはじき、グラフの世界を中心にビジネスを捉えている人もたくさんいますからね。

樋口:もちろん、最初から未来を想像するのはなかなか難しいです。プロトタイプをつくってみせる、アイデアを話して聴く、何回も作り直す、練り直す。そうしたことを通して、未来の解像度がどんどん上がっていきます。

石川:そうそう。樋口さんが会社創業当時、携帯ストラップをつくって渋谷センター街に持って行って、顔黒ギャルとかに「これどう?」って話しかけて、反応をもらって、そのあと東急ハンズにいって作り直して……みたいなことをやっていたと聞いて、びっくりしました(笑)。それは「デザイン思考」でいう、「プロトタイプ」をつくってユーザーヒアリングをしながら、拡散と収束を繰り返し、プロダクトの完成度を高めていくという手法そのものです。

樋口:「デザイン思考」なんて言葉も全く知らずに、こういうことを昔からやっていましたね。それも「デザイン思考」ですよって、石川さんに言われてはじめて気づきました(笑)。

理屈ではなく、魂を燃やしたい。

石川:プロダクトの先にいる人を喜ばせたい、というところからスタートするのは、「デザイン思考」なんてものがあったってなくたって、大事なこと。でも、ビジネスでは見過ごされてしまうことも多い。それをナチュラルにやってきたのが樋口さんです。
とはいいながらも、じゃあ、「マーケット規模どうなるの?」とかっていう疑問は、どっかから出てくると思います。どのタイミングで考えるんですか?

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PROFILE:石川 俊祐(いしかわ・しゅんすけ) KESIKI inc Partner, Design Innovation
1977年生まれ。英Central Saint Martinsを卒業。Panasonicデザイン社、英PDDなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画。Design Directorとしてイノベーション事業を多数手がける。BCG Digital VenturesにてHeadof Designを務めたのち、2019年、KESIKI設立。多摩美術大学TCL特任准教授、CCC新規事業創出アドバイザー、D&ADやGOOD DESIGN AWARDの審査委員なども務める。Forbes Japan「世界を変えるデザイナー39」選出。著書に『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』


樋口:僕、そういうの苦手なんです。あんまりそういう突っ込みがあると、燃えていた魂が弱ってしまう。起業もストラップも人につくったものを見せたりしても、正直な人はだいたいみんな否定か心配しますね。「市場規模は?」「リサーチで何%?」。そんな話になる。当たり前なんですが。

石川:でも、そんなことを抜きにしても、実際に会社は成長しているからすごい!

世の中って、2つの「普通」があるのかもしれないですね。自分で信じて何かを生み出そうっていう人間の本能的な「普通」もあるし、でも売れるんだろうかっていうロジカルに考える「普通」もある。樋口さんの想像する、あってほしい会社の「普通」は、どういう「普通」ですか?

樋口:「これ売れるんだっけ」っていうのもたしかに「普通」。大事な見方だし、もっともな意見だと思う。

でも、ベースとして、自分たちで新しい価値を生み出していくんだ、イノベーティブなことを生み出していくんだ、進化していくんだ、っていうマインドがあるべきだと思っています。その上で、こう考えたらいいんじゃないか、こうしたらもっと火がつくんじゃないか、と社内でそういう会話ができればいいですよね。理屈も大事だけど、まず魂を燃やすことが大事

石川:なるほど、そこからHameeがいま掲げる「クリエイティブ魂」というミッションワードが生まれたんですね。魂の火が消えてしまいそうになるときに、消さないようにするための「何か」として。 いつこの言葉が生まれたんですか?

樋口:そうなんです。「クリエイティブ魂」という言葉になったのは、4年前ですかね。
もともと、「入魂」という考え方はあったんです。人ってどうしても、仕事を本気でやる時とやらない時があると思うのですが、入魂すると、できるもののクオリティも成果も上がるなという実感値があったんです。

石川:樋口さんは、社内や社会全体に向けて、そのカルチャーを活性化したいという思いがあるんですね。

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できない理由より、できる方法を考える方が断然難しい。

樋口:でも、いまだに新しいことやるときはうまくいくかどうかわかりませんし、当たり前の質問をされると、火が小さくなりかけるときもあります。

まあ、結局それでも諦めないっていうだけなんですよね。最後まで自分が信じているから。成功するなんて確証はないし、証明はできない。でもめげずに、当たり前の質問をしてくれる人も説得して仲間にしてしまって、さらにまた別の質問をしてくる人に対して答えてもらうようにしています(笑)

石川:これまで、どういうときにどんな「当たり前」の質問をされたんですか? たとえば、いまHameeの2大柱のひとつである、「ネクストエンジン」を作り始めたときとかで言うと。

注:ネクストエンジン:楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonなど複数のネットショップ・モールの受注、在庫、ページを一括管理し、発注、顧客管理、メール送信などの運営に必要な機能を揃えたクラウドシステム

樋口:「ネクストエンジン」は、開発途中ものすごく反対にあいました(笑)。
当時、渋谷のギャルとハンズを往復してつくった携帯ストラップからはじまって、モバイルグッズを展開して、その販売数がどんどん伸びていってたんです。でもその裏側では、発送や商品管理のバックオフィスがもうめちゃくちゃで。当初は社員総出でクレーム対応や発送業務に追われていましたからね。みんなのクリエイティブな才能を無駄遣いしてしまっていて、本当に申し訳なかった。

だからどうにかシステム化しようと思って、パッケージソフトを入れたりシステム構築を外注したりしたけど全然うまくいかない。だったら自分たちでつくるしかない、と思って内製化していったんです。自分たちが本当に必要なシステムをつくれば、同じようなことで困っている人たちにも使ってもらえるかもしれない。それならサービス化しよう、ということになりました。

でも、現実はそう簡単にはいかないわけです。今までモノを作って売っていた会社ですから、急にエンジニアも集めなきゃいけないし、当時はクラウドという考え方すらあまり世の中に浸透してなかったから、社内でも「無謀だ」と反対されました。

1年くらいでローンチしようと思っていたのが、2年とか3年とか時間がかかってくると、いよいよ反対の声も大きくなってくる。サービスを出してもユーザーが来てくれるかも分からない中で、ストラップを売って売り上げをつくっていた人たちからすると、「無駄金」と思ってしまうのも当たり前ですよね。そうなってくると、どんどん申し訳なくなって、火が消えそうになりました。そんなことが、今も毎日のようにある。

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石川:以前メーカーにいたので、こういう話、よく分かります。多くの「普通」は、ロジカルに考えることが始まりますからね。僕がデザインしたものを、コスト・マーケット・競合・市場がどうのって、実現できない理由を100くらい並べられるんです(笑)。もっとこういうふうにしたら実現できるんじゃない、っていう助言は100のうち1しかないくらい。

でも、元いたIDEOでは、“ビジネスデザイナー”とか“デザインリサーチャー”とか、すべての社員の肩書きに、「生み出す・価値を創出する」っていう冠が形容詞として入っているんです。そういう「デザイナー」は、実現できる方法を考えるんですよ。自分の意見や意思をもって、現実目線の人たちに投げかける。できない理由を言うのは誰でもできるけど、できる方法を考える方が断然難しい。

すべては「何をやりたいか」という意思から始まる。

樋口:仕事でも何でも、「こうしたい」っていう強い気持ちや思いが燃えていないと、なにも実現できないんです。頭で考えた理屈ではなく、心からの強い想いがないと実現できない。自分もそうだったし、そういう想いを持ってやっている人が、いい仕事をして活躍しているなっていうことに気づいたんです。

人は根源的に、「何かを生み出したい」「なにか良くしたい」という魂を本来もっているはず。ただそこに火がついているかどうか、の違いだと思ったんです。そういう意思がある人こそ、さらにまた他人の「クリエイティブ魂」に火を付けるような、価値のあるものをつくれるんじゃないかと思います。

石川:そういう意味では、「クリエイティブ魂」って「デザイン思考」の中でも大事な「マインド」や「文化」の部分ですよね。自分の「will」(やりたいこと)からはじまるっていう順序は、私もIDEO時代からずっと大事にしています。なにをやりたいか、から始まって、じゃあどうしたら儲かるかを考える。

樋口:まさに。何をやりたいか、という誰かの強い意思がなければ、そもそも何も始まらないから。

石川:メーカーでは、裏技を使わないと物事が動かないんですよ。ひとりで意思を持って、一生懸命いろんな人に根回ししていくしかない。

「このプロジェクトの成功のために自分は何ができるだろうか?」とか「このプロダクトをどうよくできるか」を発言する人が評価されるという価値観や文化を作っていく必要があります。

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樋口:みんながそうなっていったら、ミッションを変えてもいいかもしれないって思います。でも、簡単じゃないなって思っていて、今は、そういう組織をつくっていくことに「クリエイティブ魂」を燃やしています。

石川:なかなか、多くの人が集まる組織に浸透させていくのは、時間がかかりますよね。

樋口:そこまで早く至りたいものです。石川さんたちのKESIKIに見習っていかなきゃ。

石川:いやいや、僕らも日々模索しながらですよ。実際はいろんな人達に叱られながらやっている。でも、そうなったら、話し合って、自分たちなりの意識を変えていってます。今は少人数だからやれているけど、スケールさせていくとなるとまた考えなければならないですよね。

そのときに大切になるのが、まさにカルチャーだと思うんです。「自分たちでこれは大事にするよね」っていう言葉を、共通で持っておくということ。Hameeは上場もしていながらそれが意識できている稀有な存在だと思っています。社員がユニークだし、個性的で意思を持っている。
ぜひ一緒に、切磋琢磨しながら面白い取り組みをやっていきたいですね。

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