「豊かな海は、豊かな森から生まれる」2024.7.24 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その①
2024年7月24日(水)はまぐり堂にて、今年度 第2回目の持ち寄り勉強会を開催しました。今回は、今年の地域の冊子づくりのテーマ「里山」にちなんで、牡鹿半島・桃浦を拠点に林業・森づくりに取り組んでいらっしゃる森優真さん(合同会社もものわ代表)をお招きしてお話を伺いました。
今回の会は、前半は森さんのお話、後半は皆さんの持ち寄り料理をいただきながらのお話の時間としました。講師をお迎えして大いに盛り上がった勉強会の模様を詳しくお届けします。
合同会社もものわ 代表・ 森優真さん のお話
〜「海から森へ」 林業に取り組み始めたきっかけ〜
ー 私は神奈川県の横須賀市出身で、名前は「森」なんですが、もともとは森じゃなくて海のことをやっていました。潜水士の資格も持っていて、海に潜ることが好きなんです。今でもシーズンになると素潜りで魚突きをしています。
そんな海が大好きな私がなぜ森のことに関わるようになったのかというと、震災後に漁師さんの復興支援のお手伝いをする機会があって、牡鹿半島の桃浦の漁師さんが「山が枯れると海が枯れる」という言い伝えを教えてくださったんです。
山の栄養分を吸収して育つ海のカキのためには、やっぱり山をちゃんと手入れしなくてはいけない、ということです。
もともと私も、小笠原や奄美諸島などいろんな場所に潜りに行っていて、素晴らしい海がある場所のそばには、だいたい素晴らしい環境の陸地があるな、ということを潜りながら見ていたりしたので、「山が枯れると海が枯れる」というお話を聞いたときに、自分の中で山と海の関係性が一本つながった感覚がありました。
「それだったら、海で遊び続けるためにはちゃんと山のこともやらないとな」と思うようになって。それで山に入ってみたら、けっこう荒れていて、これは整備しなきゃいけないなと思って林業に関わり始めたのが今から5、6年前です。
林業歴でいうとまだまだ浅いのですが、そんな経緯で森のことをいろいろやっているところです。
「森に関わる人を増やしていきたい」 ~合同会社もものわの取り組み
ー そうした流れで、現在は合同会社もものわを設立し、林業に関わる活動をしています。まずは森に関わりながらどんな取り組みをしているのか、ご紹介したいと思います。
①チェンソーの技術指導
もものわの事業のメインは、チェンソーの指導が中心で、一般の人に向けたチェンソー講習の他に、レスキュー隊にチェンソーを教えたりもしています。
やっぱり目的が「間伐をしてきちんと森を整備していく」ということなので、みんながチェンソーの練習をすればするほど結果的に間伐が進む、というのを目指してやっています。
場所は牡鹿半島の桃浦を中心に活動しており、桃浦で2箇所、月浦で2箇所、蛤浜で2箇所、佐須浜で1箇所、間伐している場所があります。
その他に、県外のレスキュー隊にもチェンソーを教えることが増えてきたので、山形の尾花沢では山を借りており、山形県内の消防の方にはそこへ来てもらって指導しています。最近では、岩手県の県北の地域のレスキュー隊からもチェンソー指導の要望があったので、ちょうど今、奥州市にある山を借りる手続きをしているところです。
②杉材を活かしたものづくり
そんな風にして、みんながチェンソーを使って間伐をしていくと、その過程で木材が出てくるんですよね。
ただし、あまり手入れをしていない山なので、基本的にはひょろひょろだったり、幹が曲がっていたりするような杉が多く、あまり加工に適した木材は出てこないのですが、それでもたまにいい材が出てくることがあります。そんなときは牡鹿半島の小渕にある製材所「ウッドショップ亀山」さんに丸太を持っていき、好きな厚さにスライスしてもらって、板にしています。
オフィスや自宅を新しくするときにテーブルが欲しい、といったご要望もたまにいただくので、そういう時に杉板でテーブルを作ったり、あとは飲食店さんのご要望でパンの陳列台やベンチを作ったりもしています。
そういったものを作るときには、なるべく、ホームセンターでは売っていないような巨大な切り株や枝など「林業の現場にいる自分だからこそ調達できるもの」をうまく組み合わせたりして作ったりしています。
他には、はまぐり堂さんのつながりで東京のオフィスデザイナーの皆さんとつながって、東京の大きめのIT企業さんのオフィスづくりに関わらせてもらう機会があり、そのときは蛤浜の杉材をフローリングに使ったり装飾材に使ったりしました。
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③企業研修や教育研修の受け入れ
最近では、企業が山に対してすごく目を向けるようになってきていて、「山を学びたい」といった需要もあって、一泊二日で、今日の持ち寄り会のような感じで、漁業体験・林業体験をして美味しいものも食べながら学ぶ、というようなスタイルでやっています。
海と山の現状と課題を実際に感じてもらうため、はまぐり堂の亀山さんに海のことを担当していただき、私が山のことを担当して、お互いに協力しながら研修プログラムを作ったりしています。
教育研修としては、まさに今週ですが、去年大きな山火事があったハワイのマウイ島で被災した高校生たちの受け入れをすることになっています。
これはTOMODACHI プログラムという取り組みの一環で、もともと東北の震災のときに被災した高校生たちをハワイへ招くプログラムがあったのですが、今回はその逆バージョンをやろうということで、今年の3月から、スタートしているプログラムです。
マウイ島はすごく自然が豊かなところなので、これからどうやって自然と調和した復興をしていくかというところを東北に学びに来るというプログラムなんですが、3月に第一弾があって、今回は第二弾ということで今、東松島などを回っていまして、金曜日に牡鹿半島に来ます。なので今、絶賛、英語の勉強中です(笑)。
彼らにも、自分のやっている山の環境と復興、海と山との関係などを伝えられたらと思っています。
④森を活かしたコスメづくりワークショップ
それと、今日この会には来れなかったんですが、妻(moritoki部門・森 佳代子さん)が木から香りを抽出して化粧品やルームスプレーを作ったりしていて、石巻の高校の文化祭で出前授業をしたり、一般の方向けにワークショップをしたり、企業研修の一環として体験してもらったりしながら森のことを伝えています。
⑤ティンバースポーツの普及活動
それから、木こりの身体的な動きって、けっこういい筋トレになるんですが、これがアメリカや北欧では「ティンバースポーツ」という競技になっているんです。丸太を斧などの道具で速く切るだけのワイルドなスポーツなんですが、これを日本でも広められないかと考えています。
森の中のひょろひょろの木は、「切り捨て間伐」といって、山の中に放置して、ある程度細かく刻んで土に返りやすい状態にして土に返す、という手法があるんですが、そういう木でも、こういう遊びであれば使えるよね、ということで、来月は高校生と一緒に文化祭でやろうと絶賛準備中です。
⑥「杉を食べる」に挑戦中
あとは、「杉を食べたいな」と思って仙台の飲食店さんにご協力いただいてトライしていまして。これがけっこうおいしいんです。
杉は春先に新芽が出てくるんですけど、その新芽をピクルスにするとすごくおいしいです。あとは、杉の香りを抽出してゼリーに混ぜ込んで、桃と一緒に食べるのも、柑橘系の香りがしてとてもおいしいです。杉の香りとカクテルをチョコレートの中に封じ込めてボンボンにしたり、ケーキと一緒に食べたりするのもおいしかったです。
今、杉のハーブティーも試作しているところでして、それももうすぐできるかな、というところです。
⑦「杉まるまる一本オーナー制」
そのほかに、お客さんに杉まるまる一本のオーナーになってもらって、家を建てるときに、実際にそのための木を切るところから見てもらおう、という取り組みもやっています。
東京のご家族が新しい家を建てるときにこのオーナー制を使ってくださったときのことをご紹介しますと、まず、私が木を切り倒すところをご家族みんなで見てもらって、そのあとチェンソー体験として息子さんに丸太を好きなサイズに切ってもらいました。
それを、家族みんなで協力して軽トラに乗せて、製材所に持っていって好きな厚さにスライスしてもらうんです。
「切った丸太のこの部分はカウンターテーブルにしたいな」とか、そういうイメージをウッドショップ亀山の大将に相談して、「それだったら5cmくらいの厚さにスライスした方がいいね」と大将も考えてくれたりして、そういうコミュニケーションをとりながらやるんですけど、そのコミュニケーション自体が豊かな体験になるんですよ。このオーナー制は、そういう体験も含めてお届けしています。
そして最後は私が出来上がった木材を軽ワゴンで東京まで届けて、現地の大工さんに直接お渡ししました。
本来であれば一般流通の材ではないので、曲がりやすかったりもするので大工さん的には面倒臭い材料なんです。でも、お渡しするときに大工さんに「施主さんがこういう思いでこういう風な過程を経て切った木なんで、お願いします」とこの木材の背景をしっかりお伝えすると、大工さんも「よし、やってやろう」と逆にスイッチが入って、前向きに使ってくださったのが印象的でした。僕も初めての取り組みだったので、とてもいい経験でした。
最終的には、出来上がったお宅に、関わった仲間たちと一緒にお招きいただいて、みんなで完成をお祝いしました。
今回、私たちがチャレンジしている色々な取り組みをご紹介しましたが、こんなふうに森林資源をいろんな形で使っていかないと山がどんどん荒れていってしまうので、とにかく「人間がいかに山に関わるか」というところがとても重要なのです。今はその接点をいろんな形で頑張って作っている、という感じです。
ですので、もっと他にも山の使い方を広げていきたいので、逆に地域の皆さんからもアイディアを教えていただけたらと思っています。
(つづく)
森優真さん・佳代子さんご夫妻の取り組みについては、ぜひこちらの動画もご覧ください!
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