樹海に魅入られる
(青木ケ原樹海に行ってきた記事の続きです)
ものすごく……筋肉痛です。
少々ランニングしたり長く歩いたりしたくらいで翌日ぷるぷるして、「生まれたての仔鹿」だなんて言っていたけどありゃ嘘だ。
朝、目が覚めて、オンライン作業会に使う一番遠い部屋まで向かう自分のへっぴり腰に笑いがとまらない。膝の笑いもとまらない。
これまで経験したことのない部位が痛い。こりゃ愉快だ。
これが比喩でなくほんとうに愉快で、ここのところずっと取り憑かれたように憂鬱だった気分が晴れている。
体は痛いけれど、思ったほどだるくはない。よく動いた翌日にはきまって寝込むタイプなのだけど、痛いわりに元気だ。
それどころか、作業部屋でパソコンを開いてガシガシ作業をしながら、きゅうにあの、深い森のうすい日差しと静けさと澄んだ空気が鼻先をかすめた気がして、なぜ自分はここにいるのだろう、という気持ちが浮かび上がってきた。
自分でもびっくりした。そんな言葉が湧き上がるほど、恋しく思う自分に出会うとは思わなかった。
もともと、まったくアウトドアな人間ではないし、運動もさほどしないし山へも行かない。だから、想定外の余韻に包まれていることに、しかもその余韻が、(おおよそ「余韻」と呼ばれるものに必ず付随してきたような)寂しさや儚さを含むことなく、ただただ力強くすこやかなものであることに驚いている。
なんと、樹海に魅入られてしまったのかもしれない。
但し、昏いほうへ引っ張られるような感覚ではなない。
樹海は想像していたよりもずっとずっと、生命力を感じる場所だった。同行した、既に行き慣れている彼曰く、「夏場の夜などは、生き物の気配がえげつない」そうだ。
その気配は人間にとってはまさに脅威であり、それゆえ、自分自身もまた自然の一部で、力強くもひとしく小さな命であることを感じさせる、そういうエネルギーに満ち満ちている。
それが、樹海特有のものなのか、山に登る人ならどこでも感じるものなのか、その判断すら今の私にはまだ、できない。
心が洗われる、というのはこういうことなのか。あの澄み切った風に吹かれたからなのか、天まで衝くようなおおきな木に触れたからなのか、蜘蛛や蟻やダニや菌糸や微生物がいつのまにか侵入して、私の細胞を書き換えてしまったのか。
ふしぎなふしぎな体感。
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