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エスコンフィールドに行ったらすごすぎて落ち込んだ

北海道のエスコンフィールドに行った。日本ハムファイターズの新しいホーム球場だ。3月のオープン戦、エスコンフィールドでの初戦から2試合、そして開幕3/30の1試合を観戦した。

いや、もう半端じゃなかった。

めちゃくちゃ興奮したし、同時に、かなり落ち込んだ。

これまで自分が「スポーツ」というものを、どれだけ小さな視野で捉えていたのか思い知らされたからだ。

ぼくはスポーツビジネスの会社を経営している。サポートしているクラブは全国120以上。ウェブマーケやクリエイティブ、最近はスポンサーマーケティングに力を入れている。

この会社をはじめたのは「スポーツでちゃんと稼げる世界」を作りたかったから。ぼく自身、試合に出れないバスケ選手として20代を過ごし、痛烈に感じた課題だった。

スポーツでふつうに生きていける世界をつくりたい。選手もスタッフもファンも、スポーツに関わる人みんながハッピーになってほしい。そのためにも、スポーツ業界は変わらないといけない。ずっと言ってきたことだった。

そんな中で、日本ハムファイターズがこのプロジェクトにかけた覚悟を目の当たりにして「スポーツの可能性、めちゃくちゃ広がってるやん!!」と改めて思ったので、今回はその話をさせてほしい!

なにがすごいのか?

エスコンフィールドのなにがすごいって、もはや「球場」ではなかったこと。これまでの球場やアリーナって、メインディッシュはもちろん、そこでやっているスポーツやライブだった。コンテンツ自体が最大の売りものだった。

でも、エスコンの場合、メインディッシュはぜんぜん野球じゃなかった。

野球に興味がなくても、ふつうに休日を楽しむために、ライトに足を運びたくなる。

買い物もできるし、ご飯も食べられるし、子供たちが遊ぶ場所もある。野球は本当に真ん中でやっているってだけで、いろんな人がいろんな形で楽しめる。これからは「エスコンに野球観に行く?」じゃなくて「今日エスコン行ってなにする?」って会話が生まれると思う。「イオン行ってなにする?」と同じ感覚で。

施設の作りとしても、それを狙っているように見えた。

驚いたのは施設内にある「七つ星横丁」という居酒屋ゾーン。これまで、球場のご飯屋さんは、フィールドに沿うような形でコンコース内に作られていた。あくまで「野球を見にきた人用」のものだったからだ。

ところが、エスコンではコンコース沿いから外れて、球場の奥にむけて居酒屋が並んでいる。つまりその横丁に入っていくのは「野球も観つつ、グルメをメインで楽しみたい」人たちってことだ。

野球は試合時間が3〜4時間もある。だから「2時間は居酒屋にいて、1時間は試合を観る」みたいな楽しみ方もできるわけだ。もちろん、居酒屋の横にはビジョンがあるから、それで試合も観られる。

ボーネルンドとコラボしてるから、子ども向けの遊び場もある。YONA YONAエールのクラフトビールも飲める。サウナもある。サウナの上にはホテルもあって、宿泊もできる。会場の外には、耕運機のクボタによるミュージアムが建設中だった。球場と駅をつなぐバスにはEV車が使われていた。

「野球の試合が楽しい」じゃなくて「野球場が楽しい」って思えたのは初めてだった。

席のチケットは約30,000席なんだけど、収容は約35,000人。つまり、5,000人は席を取らずに、入場券のみで入ってこれるということだ。試合を見るための席はなくても、入場して居酒屋のパネルで試合を観る。それで「なんかいい感じなってきたぞ!」ってときは、ちょっと外に出て走っていって、コンコースから試合を見られる。立ち見で飲みながら。

従来の楽しみ方も残しつつ、そんな新しい観戦体験ができる設計になっているんだ。

エスコンのようすは、うちのメンバーが動画にもまとめてくれてたから、もっと詳しく知りたい人はぜひ観てみてほしい👀

10年後、20年後を見据えた戦略

エスコンはいわば「イオン2.0」みたいな存在だと思う。

エスコンができたのは、北海道の「北広島」というところ。札幌から快速エアポートで約20分、人口5万人ぐらいの小さな街だ。エスコンの土地はもともと、なにもない雑木林だった。

もともとエンタメの少ない土地。だからこそ「エスコンフィールドが、この街のイオン(エンタメの中心)になるんだな」という予感がした。

この街の人の役に立ち、愛され、10年後も20年後も、長く地域に根づいていくこと。エスコンは確実にそれを見据えている。

だからこそ「いま熱狂的な野球ファンじゃない人」でも入りやすい設計にしてる。グルメも観光客向けの「北海道名物」ではなく、地元の人向けの「北海道初上陸のお店」がラインナップされているんだ。

もちろん、いきなり全部うまくいってるわけじゃない。

開幕戦以来、エスコンの会場は満員にはなっていない。もともとの札幌ドームに比べれば、北広島はやっぱりアクセス面でいいとは言えない。最初に足を運ぶまでの障壁はあると思う。

でも、たとえばディズニーランドは都心からかなり遠いけど、みんな足を運んでる。1回来れば「また来たい!」とみんなが思えるような場所になることで、この壁は乗り越えられるはず。2027年にはエスコン直結の駅ができ、アクセスも格段によくなる。

地元の人たちに「球場に行く文化」が根づいていくのにも、やはり時間が必要だ。

エスコンフィールドを仕掛けたのは、そのためにファイターズに出戻りした前沢さんという人。野球の未来とエンタメの本質を、誰よりも考えている人だ。この土地を選んだのも、この設計にしたのも、彼の覚悟の表れだとぼくは思う。

彼の描く未来像をみんなが目の当たりにするのは、もう少し後になるのだろう。

スポーツが地元に「雇用」を生む

ただ楽しいだけじゃない。エスコンに行って驚いたのが、お年寄りや障がい者雇用のスタッフさんが、とても多かったことだ。

おじいちゃんおばあちゃんが「お席ご案内します!」っていきいき働いている。コーラやビールのサーバー係として、知的障害のある方がサポートの方と一緒に働いている。

「これ、北広島にめちゃくちゃ雇用を生んでるんだな」と思った。

雇用の条件までは詳しく把握できてないのだけど、運営会社の意志を強く感じる光景だった。一緒に行ったうちのメンバーもすごく感動していた。「この企業の姿勢はやばいっすね」「これをスポーツがやるっていうのは、特に価値が高いっすね」と。

あと、エスコンができたことで、北広島の地価も急上昇している。いま北海道の地価の上昇率は、人気のニセコなどもおさえて北広島が1位だ。

雇用が生まれ、人の流入が増え、地価も上がる。ファイターズの社員さんや、数億円プレイヤーの野球選手も引っ越してきたりすれば、街全体の所得も上がる。行政の収入も潤う。街の価値が上がり、さらに人やお店が集まってくる。

スポーツを起点に、地域をまきこんだ「街おこし」が実現しようとしている。

スポーツが雇用を生む。スポーツが経済圏を生む。スポーツに関わる人がみんな、ちゃんと稼げる。ハッピーにスポーツを続けられる。それはまさに、ぼくの理想とする世界だ。

感動すると同時に、いまの自分の力の足りなさも思い知った視察だった。

スポーツ市場を再定義せよ

でも落ち込んでるわけにはいかない。「じゃあどうすればいいのか!?」って話をしたいと思う。

そもそも、すべてのクラブにファイターズと同じ戦い方ができるわけじゃない。

スタジアム建設には数百億円の費用がかかる。そもそも都心部だと土地が確保できないから、エスコンや周辺のエフビレッジみたいな施設は作れない。

でも、このプロジェクトの根底にある「考え方」は、どのクラブにも取り入れられるものだと思う。

ファイターズのいちばんのすごさは、新球場プロジェクトを「コミュニティづくり」の視点でとらえることで、市場規模を大きく広げたことだ。

ぼくはこれまで、スポーツを「エンタメビジネス」や「コンテンツビジネス」と定義していた。でも、市場を大きくしていくには、スポーツを「コミュニティビジネス」として再定義しなきゃいけない。

ファンに向けた「エンタメ」としての価値。スポンサーに向けた「マーケティングツール」としての価値。そして、自治体や行政に向けた「街づくりや社会貢献」としての価値。

エスコンは、このすべての中心で「ハブ」になることで、スポーツの市場規模を最大化していた。

ぼくらはずっとスポーツマーケティングをやってきた。ウェブマーケやクリエイティブ支援によって、会場を満員にするお手伝いをしてきた。スポンサー獲得のための営業支援もしてきた。

もちろんそれは意義あることだ。でも「スポーツクラブが稼ぐため」の視点にとどまりがちだったのも事実。そうではなく、スポーツがハブになり、ファンと企業と行政を巻き込んで、大きなコミュニティをつくっていくべきなんだ。

そうすればクラブだけじゃなく、みんなで豊かになっていける。

しかもこの考え方は、野球のようなメジャースポーツじゃなくても、いますぐ予算や土地がなくても、すぐに取り入れられるものなんだ。

地域に応援されるだけじゃなく「与える」存在に

スポーツを、コミュニティビジネスとして捉えなおす。

そのためにはまず「発想の転換」が必要だ。

いまもすでに、多くのクラブが「地域に根ざしていこう」という意識は持っている。特にJリーグは、地域に愛される存在になることを、リーグの活動方針としても掲げてる。後にできたBリーグにも、その思想は受け継がれている。

ただ「地域になにかを与えられる存在」になれているクラブは、まだまだ少ないと思う。

もちろん、先進的なクラブもある。たとえば川崎フロンターレは、障がい者雇用にもかなり積極的に取り組んでいたりする。

だけど、多くのクラブはどちらかというと「地域に応援してもらっている」状態。応援されるのは大事なことだけど、それだと「もともとスポーツが好きな人」以外には刺さらない。地域全体に活力を与えることはむずかしい。

目指すべきは「地域に応援される存在」ではなく「地域に与えていく存在」だ。

スポーツには、投資されるだけの価値がある

「応援される」じゃなくて「与える」側になる。

そのために大切なのは、クラブ自身が自分たちの「強み」をきちんと認識して、アピールできるようにすることだ。

ぼくはこの2つが、スポーツの大きな強みだと思ってる。

①公共性が高く、行政と企業と人をつなぐ「ハブ」になれること
②関わる人の「熱量」が圧倒的に高いこと

スポーツを介すると、ふつうは接点がない会社や、行政や教育機関にもすごくアクセスしやすくなる。「クラブと一緒にこういう取り組みしませんか?」と言えば、受け入れられやすさが全然ちがう。

ファンの熱量もすごく高くて「推しチームのスポンサーのことも、一緒に応援しよう!」って空気ができている。

予算がなくてもできる

そうやって「スポーツならではの価値」を売りにできたら、スポンサー営業のスタンスも変わってくるだろう。

「地元のチームだから助けてください」「30万だけでもお願いします…!」というお願いじゃなくて、「ぼくらに1000万円、投資してください! こういう価値をお返しできます!」という交渉ができる。

そのぐらいストロングスタイルでもいいと思うんだ。応援じゃなくて「事業投資」をしてもらうわけだから。

「地域のための施策もやりたいけど、うちは予算がないからできないよ」というクラブもいる。でも、実はそれって「クラブの中のお金」しか見ていないからだ。

目線を広げて、企業や行政をみてみれば、予算はちゃんとある。たとえば、企業のマーケティングやブランディングの予算や、行政の地域振興の予算。

クラブは、そこにアプローチしていけばいい。企業や行政に「投資」してもらって、彼らの予算の中で、一緒に取り組みをやっていけばいいわけだ。

「投資したい」と思われるような提案を

「そんなに都合よくいかないよ」と思うかもしれない。でも、そこは提案のやりかた次第だとぼくは思う。

たとえばスポーツクラブが、シルバー派遣や障がい者雇用のとりくみをする。派遣会社に依頼をすれば、もちろんそのぶんお金はかかる。

でも、その取り組みにスポンサーをつけることができれば、費用はプラマイゼロ、なんならプラスにもなりえる。

働き方や職業の多様性をサポートすることは、企業のブランディング施策としてもすごく魅力的だ。スタッフ用の服や持ち物に企業ロゴを入れれば「こういう活動をサポートしてる会社です」ってアピールできる。「多様性を大切にしています」とただ言うよりも、ずっとわかりやすい表現になる。

企業のいい理念や、いい取り組みって、どうしても世の中には伝わりづらい。

でも「スポーツ」を媒介にすれば、格段に伝わりやすくなる。

ここに大きなニーズがあるわけだ。多様性を大切にしてるとはいえ、会社としておじいちゃん、おばあちゃんをあまりにもたくさん雇うのは難しい。BtoBの企業だと、そもそも一般の人にほとんど存在を知られてなかったりする。

でも「シルバー雇用の取り組みをしているチームのスポンサー」をすれば、会社の姿勢をわかりやすく形にすることができる。

派遣会社にとっても「スポーツクラブ運営の仕事」って、とても魅力的なPR事例になる。だから場合によっては、派遣会社にスポンサーになってもらうこともできるだろう。

実際に、ぼくらがサポートしている「アビスパ福岡」のスポンサーには派遣会社さんがいて、優先的に運営スタッフの発注を受けている。派遣会社側はクラブをフックとして、商圏を広げていくのが目的だ。

そうやって「企業が投資したいと思えるようなスポーツの価値」をうまく提案できれば、協力してくれる会社はたくさんあるはずなんだ。

企業や行政は「一緒に街をつくるパートナー」

これまで「スポーツクラブ」と「企業」と「行政」は、それぞれが受発注の取引相手という関係性だった。

それだと、やっぱりシナジーは生まれない。

エスコンの場合もそうだ。もともとファイターズは、札幌ドームを借りて試合をしていた。札幌ドームは行政の持ち物。だから、グッズや飲食の売上は、ファイターズではなく100%札幌ドームの売上になっていた。

ファイターズが集めたお客さんなのに、その利益がまったく球団に入ってこない。

トイレを増やしたり、観客席を改修したり、芝を管理したりといったことも、球団の意思ではできなかった。

このままではチームのためにも、ファンや選手のためにもならない。ファイターズの運営はそう判断して、今回のスタジアム移転に踏み切ったわけだ。

結果的に、札幌市は大きな収入源かつ、人の流入源を失ったことになる。

やっぱり、スポーツと行政を「単なる受発注の関係」と捉えてしまうと、お互いにとってあまりよくない結果になるんだと思う。

「ハコを貸してる・借りてる関係」じゃなくて「一緒に街をつくるパートナー」になれていたら、きっと別の未来もあったんじゃないだろうか?

みんなで「スポーツの新しい価値」を広めたい

クラブにとって「明日の試合の勝ち負け」はたしかに大切だ。でも、ここまで話してきたように、スポーツの価値は決してそれだけじゃない。

だからこそ明日の試合のことだけじゃなく、10年後、20年後の未来に、地域にとってどんな存在になっていたいか? を考えなきゃいけないと思うんだ。

実際、横浜DeNAベイスターズや阪神タイガースは、試合に負けているときでもしっかりお客さんが入る。それはやっぱり、地域に根づいたチームだから。地元の暮らしや経済に貢献して、愛されているからだ。

ファイターズのことを「お金のあるクラブがやることだよね」「うちとは違うわ」って思ってしまったらもったいない。(ぼくも最初は圧倒されてしょげてたけど。笑)

スポーツには等しく、大きなポテンシャルがある。

すべてのクラブに、自分たちの価値を信じ抜いてほしいと、ぼくは思ってる。

業界や業種の壁を超えて、スポーツを中心にみんながハッピーになれる。そんな経済圏を、コミュニティをつくっていく。

これは決して、ぼくひとりじゃ実現できない。もっとたくさんの、クラブや、企業や、行政や、仲間の力が必要だ。まずはもっとたくさんの人に、スポーツに秘められた価値を伝えたい。スポーツは「与える」存在なのだと知ってほしい。

このnoteを読んでくれたあなたにも、ぜひ力を貸してほしいんだ。


ここまで読んでくれてありがとうございます! 最後にちょっとだけお知らせを。
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