見出し画像

火星に移住する前に・・・「人新世の資本論」その2

「人新世の資本論」の前半を読み終えて、私はこう呟いた。

資本主義をやめる?そんなこと出来っこない。

「いかに賢い消費者になれるか」の一点突破でエコロジーを語ってきた私たちの時代。オーガニック、フェアトレード、自然エネルギー、ちょっと前まで敷居が高いイメージだったものが、いまやトレンド化や定番化しつつある。

さらにもう一歩踏み込んで、一部の国や科学者たちは、技術を徹底的に駆使し、人類の生存のために地球を「管理運用」しようとさまざまな試みを始めている。

原子力発電・自然エネルギー・二酸化炭素を回収して海底に注入する技術など。これらは一見、アリな気もする。原発は、本来「人類を救う」ためのものだったはずだ。環境を汚さないクリーンなエネルギー。しかし残念ながら、使用済み核燃料の処分、という大きな課題を解決できないまま、この技術は過去のものと葬り去られる可能性が高い。

その他の自然エネルギーも、大量に生産される太陽光パネルや発電設備のために資源が採掘され、耐用年数の過ぎた設備の大量廃棄、という問題を抱える。本の中にこんなデータがある。

「2040年までに電気自動車は現在の200万台から2億8000万台まで伸びるという。ところが、それで削減される世界の二酸化炭素排出量は、わずか1%と推計されている」

画像2

つまり、クリーンなエネルギーで走る車を量産する過程で、これまで以上の二酸化炭素を排出するわけで、プラマイゼロに限りなく近い。もちろん、脱炭素化、というのは国際的な合意であり長期目標なので、電気自動車や自然エネルギーへの転換は当然行われる。
ただ、これらはあくまでも、今の生活様式を維持すること、あるいは今まで以上の経済成長を目指すこと、を前提とする。
そもそも、車乗んなくたっていいじゃん」とはならないのである。


さて、世の中には、「資本主義」が止められないことなんて百も承知で、その先の未来に賭ける人たちもたくさんいる。火星移住計画や、気候変動への「適応」を研究するシンクタンクなど。
彼らは、地球で水が飲めなくなる日の前に、宇宙で植物を育て、酸素を生み出して生活圏を作り出す技術を本気で追究している。

画像2

こういうSFチックな話を、鼻で笑う人もいるが私はどちらかというとワクワクする方だった。人類の挑戦というか、フロンティア精神みたいなものが宇宙に飛び出していく姿を想像すると、「なんかいいな」と思えてしまうのだ。
しかし・・・

ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクではない地球上の80億人のほとんどは、汚染されていく地球で火星を眺めながら生きるしかない。

かつての自分たちが、経済成長のために海を汚し、そこに住む生き物たちの生態系を顧みなかったように、今度は地球が「宇宙のゴミ箱」と化して使用済み核燃料や、廃棄されたロケットの集積場にならないとは、誰が言えよう。

現に、今の私たちの快適で豊かな暮らしは、南半球での森林伐採や山火事、レアメタル採掘による水不足・土壌汚染など、あらゆる生態系を踏み台にして成り立っている。


ここまで書くともう、こうやってコンピュータを使うことも、資源の浪費のような気がしてくる。
本当にやるべきことは、机の前で文章を考えることではなく、畑を作って植物を育てることかもしれない。

実際、アメリカの西海岸では、荒廃した都市を畑に替えて、市民が食料を生産調達する「エディブル・シティ」が出現している。

余分に実った作物を、市民同士で分け合う。
これこそが、資本主義に対する草の根の反抗!買う行為が生まれないことには、資本主義は手も足も出ない。

画像3


だれもが生産者になったと想像しよう。

たとえば・・
 ◎IT技術や交通など、インフラを提供するチーム
 ◎食べ物や日用品の生産・販売などの消費財を提供するチーム
 ◎医療や教育などのサービスを提供するチーム

各チームが売り物となる「価値」を持ち、それを必要とする誰かと交換の場を作る。
理想は、自分が必要とする物のほとんどをチーム間で調達し、必要とされる分だけを生産し、適正な価格で売ること。
「消費者」「販売者」が頻繁に入れ替わるなかで、コミュニティ内での経済が循環していく。
そこにはamazonの配達員はやって来ない。


結局、「村」に戻るしかないのだ。

本には、この「村化」を強力に推し進めている都市の例が書かれている。
スペインのバルセロナ
2015年に女性市長アダ・クラウが率いる市民政党バルセロナ・コモンズが政権を取り、次々と改革を起こしていった。
市が非営利の電力会社を設立し、グローバル企業の参入を制限し、市内の総生産の7%をワーカーズ・コープが担い、雇用は5万3000人に及ぶ。

これまで自治体が民間に委託していた公共事業を、ワーカーズ・コープに発注することで、市民のための設備をつくるために、市民にお金が入る、という構造が生まれる。実際、市民になくてはならない水道や住宅のインフラも公営化し、失業と貧困問題を同時に解決した。

画像5


この動きが、一都市にとどまらず、「フィアレス・シティ」(恐れ知らずの都市)の名で世界中に広がる。

資本主義を迎え撃つ行動の背後には、住宅に困ったり、水道料金を払えなくなったりした市民がいる。自ら声を上げ、仲間を募り、政策を考え、実行に移す。誰かが世界を変えてくれるのを待っていたら、彼らはどうなっていただろうか


いま目の前に、ふたつの選択肢があるとしよう。
火星に住むか、肥大した「都市」から「村」に経済を収縮させるか
この結論が、人類を二分することになるかもしれない。

大事なのは、「どちらを選ぶか」ではなく、「どちらかを選ぶ」ことを、明確に自覚することだと思う。

火星への道も、全然ありだ。

あなたが決めるための、判断材料のひとつとして、一読をおすすめしたい。

この記事が参加している募集

#推薦図書

42,681件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?