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解読「羅生門」

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芥川龍之介の「羅生門」を中心に解読しています。
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#善悪の彼岸

「羅生門」を読む⑤ 精読編2-下人の憎悪と〈善/悪〉の相対化

「羅生門」を読む⑤ 精読編2-下人の憎悪と〈善/悪〉の相対化

芥川龍之介の作品を読むとき、絶えず意識されるのはこの作家の物事や人間を見る目である。それは容赦の無く対象を見透かす目である。そういう意味で彼は徹底したリアリストであるということができる。彼のこの目は自分にも向けられ、彼自身を毀損することにもなる。よく言われる「見えすぎる」苦悩というもので、それは決して人を「幸福」にするものではないだろう。

だがそのことが彼の作家として負の要素とはならないことは言

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「羅生門」を読む⑥ 精読編3ー主題/「ある勇気」の覚醒

「羅生門」を読む⑥ 精読編3ー主題/「ある勇気」の覚醒

▢前回までの振り返り

〈「羅生門」の場面展開〉

〈下人の位置と変化〉
場面1において、下人はこのままでは飢え死にする状況にあっても盗人になる「勇気」がもてませんでした。それは、平安末期の濁悪世の中にあっても、下人がまだ既成の道徳枠組みの住人であったことを物語っています。

場面2は梯子の中段の下人の描写から始まります。下人は「一人の男」と表現されていますが、楼内という未知の世界に近づくことによ

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