マガジンのカバー画像

薄楽詩集

40
詩をまとめています。
運営しているクリエイター

#和歌

【詩】五月のノスタルジー

【詩】五月のノスタルジー

五月のノスタルジー

  あやめかる安積の沼に風ふけば
       をちの旅人 袖薫るなり    源俊頼

風が万物を薫らせ
蒼い静脈の這う近所の少女の乳房が膨らみ
出戻りの姉の白い太腿はむき出しで縁側に投げ出され
売春宿のぼくの恋人のお腹の産毛が陽炎のようにゆれる
そんな五月の白昼に不如帰が鳴き出すと
工事現場では必ず神隠しが起こり
少女の腋臭のような沼の匂いが山から下りてきて
夕暮の雨は予想

もっとみる
【詩】後朝(きぬぎぬ)のうた

【詩】後朝(きぬぎぬ)のうた

 後朝のうた

春はあけぼの山ぎわに目覚めた泡立つ光にふたりのときは美しくこわれ
薄もやのたえだえにしずかに身を横たえるせぜのあじろぎ
水おとはさやけくほそくまだ草むらに這うものの
雲はすでに峰をはなれてたなびき 人の袖の
涙もそのようにまたうつろいゆくものか
しのぶもじずりわれならなくに
また巡り逢う日をおもい
ゆっくりと剥がれた
ときの表皮を
抱くのみの
わたくし
なので

#詩 #現代

もっとみる
【詩】哀歌(エレジー)

【詩】哀歌(エレジー)

やっとひとりになれた夜 おれは波止場の見える安ホテルの一室で 
情交の名残りでもあるかのようにシーツに落ちていた あの時の
一本の縮れた女の陰毛を思い出していた

湖水を染める晩秋の夕焼けはとっくに終焉し
もうじき窓には無影灯のように青白い
女の貧相な乳房が姿を見せるだろう

おれが女をはじめて抱いたのは いや 抱かされたのは どうでもいいような研修会のあとの五階建ての薄汚れたこのホテルだった 初

もっとみる