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薄楽詩集

40
詩をまとめています。
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2022年12月の記事一覧

【詩】耳鳴り

【詩】耳鳴り

理髪店の前は雨が降っていたことがない
亡き王女のパバーヌが聞こえてくる二階の窓は
いつも閉じられていて
少年だった僕の耳は
海辺の貝のように
知りもしない
未婚の叔母の過去の波打ち際に取り残されていた

ああそうだ そういえば
忘れていたことが大切であると
叔母はよく言っていた

叔母は時折スフインクスのように
決して解けないなぞなぞを出し
僕はいつもインチキの答えをでっち上げた
叔母はその度に淋

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【詩】アクアリウムブルーの夜明け

【詩】アクアリウムブルーの夜明け

アクアリームブルーの夜明け

ぼくが言葉を引き摺り出し
いや、言葉がぼくを引き摺り出し
現実という荒野が
アクアリウムブルーの夜明けに現れる

記憶の地平線に見えかくれするのは あれは
音速で駆け抜けていく無数の
モンゴル馬の立髪か
それとも君の
髪の匂いか

しかし

昨晩 見たのは
外に出ようと
水槽の側面板にへばりついて
仰向けにひっくり返った
草亀だった

逃げていく夢にまたがり
消えてゆ

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【詩】A Day in the Life(改訂)

【詩】A Day in the Life(改訂)



A Day in the Life

君がいてネコがいてバーモンドカレーを煮込む臭いがして中辛の君がいて何事も君に合わせるぼくがいてふたりと一匹は白いミルク渦のようになって日曜の朝昼兼用の食事をする

君があとかたづけのために片膝を立てれば陰りに白いパンツがほのみえてぼくはなぜかむでぃーかつやまの消息が気なりだす

ささやかなよろこびをわかち合うためにぼくはネコと君も好きなチェットベー

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【詩】夕焼けの壜

【詩】夕焼けの壜

夕焼けの壜

拾ったものは夕焼け
落ちていたのは初めての孤独
誰もいない校庭に
なぜかぼくだけがいた
鳥の影が地面を駆け抜け
投げ捨てられた
薄汚れたガラス壜のように
ぼくは夕焼けの世界にころがっていた

揺れていたものは何

拾ったものはコスモスの記憶
落ちていたのは初めての仮面
通り一遍の覚えたての笑いで
通り一遍の頷き方をし
その場をやり過ごした
風もないのに揺れていた路傍の花は
その後もぼ

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【詩】冬の案山子

【詩】冬の案山子

冬の案山子

茶碗蒸しも刺身も変な味がするようになってさ
ロシア文学の好きだったオレの半身が言う
気分転換に今度の日曜にあの山に登ってみようか
オレはすっかり白くなった頭をかきながら
部屋の窓から見える稜線を指差した

脊振のなだらかな稜線が冬の日に温められている

オレたちは冬の案山子だな

もちろん、長い付き合いのオレにもお前の裾野は見えない
だけど 見えているものはたくさんの見えないものをふ

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【詩】弾道ミサイルの夜に

【詩】弾道ミサイルの夜に

弾道ミサイルの夜に

騒がしい沈黙を
無数の神々ががなりたてている
進化という退化がはじまって
嘘にならない嘘がはびこっている
あてもなく浮遊する言霊が朝から晩まで漂い
眠れない時間の不安指数に歯止めがかからない そして
電力不足のネオンが肋骨のように仄白く発光している午前零時
螺鈿色の月が出ている夜空を鋼鉄の飛翔体が横ぎっていく
という予報が出れば おそらくぼくはぼくにもどり
そばにいる君の耳た

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