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【詩】夕焼けの壜


夕焼けの壜

夕焼けの壜

拾ったものは夕焼け
落ちていたのは初めての孤独
誰もいない校庭に
なぜかぼくだけがいた
鳥の影が地面を駆け抜け
投げ捨てられた
薄汚れたガラス壜のように
ぼくは夕焼けの世界にころがっていた

揺れていたものは何

拾ったものはコスモスの記憶
落ちていたのは初めての仮面
通り一遍の覚えたての笑いで
通り一遍の頷き方をし
その場をやり過ごした
風もないのに揺れていた路傍の花は
その後もぼくの中で咲き続けただろうか

たくさんのものはないのとおんなじだ
一つひとつが要るんだといまならわかる

拾ったものはオリオン座
落ちていたものは信じるという驚きか
左翼のきみの乳房の蒼々としたした静脈は
夜空の冬に流れて
ぼくたちのそれぞれの眼に落ちた
美しい さびしさ だった

その夜明けには
海馬の立髪が水平線に
もうひとつの何かを 愛などと
いうものとはちがう何かを
残していった気が
するのだが

同じものはひとつとしてなく
くりかえすものものもありはしない

もう手遅れかもしれないが
たいせつなことは
ぼくの最初に拾ったものは
夕焼けを一輪挿したガラスの空壜だった
ということだ



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