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もうすぐ北国の春/連載エッセイ vol.127

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.129(2022年・第2号)」掲載(原文ママ)。

現在も所属し、今では一般社団法人となっている業界団体にて、私が初めて技術研修を受講したのは、ちょうど26年前の春のことであった。

当時、教員採用試験と教育実習を控える大学4年次だった私は、首都圏で開催された一般向けの2日間の研修に参加した後、本格的な技術を学ぶため、瀬戸内エリアで開催される1週間ほどの集中技術研修へと赴いた。

中学校の社会科教諭を目指しているくせに、関東以西へ出向いたことのなかった私にとって、独りで西進するその旅程は、心細くも甚だ新鮮なもので、鉄道を何度か乗り換えた後、会場となるリゾートホテルへ向かう路線バスに揺られながら眺める、ゆったりと光を反射する瀬戸内の水面や、生暖かい風にのっぺりたわむ草花などの風景は、北国生まれの北国育ちな私にとって、それは最早、初夏のそれで、自分が故郷から遠く離れた場所に来ていることを十二分に実感させた。

その後、本当に一言では語れない紆余曲折を経て、数年間の教員生活の後、団体での研修に戻ったのも春のこと。
その日の彼の地は、まだ雪の残っていた地元とは別世界な陽光が降りそそぎ、やはり陸奥人からすれば異郷の念を強くするものであった。

つまり、所属団体において、関東以北の在住者として初めて活動を始めた私にとって、研修とは移動を必ず伴うものであり、その研修に辿り着くまで半日や丸一日費やすのは至極当たり前のことであった。

もちろん他のエリアから研修に参加する同胞からは、その『グレートジャーニー』っぷりを称賛されもしたが、陸奥に住まい活動する我々にとって、価値のあることを学ぶためなら、長距離移動が苦にならないといえば噓にはなるが、それは当然のことであり、逆にそれが『スイッチ』のような役割を果たし、自らのモチベーションに繋がっていたのだと思う。

そして……月によっては複数回に及ぶ長距離移動が途絶えて、丸2年となる春が来た。

新型コロナウイルスによる感染症拡大は未だ収束を見通せないものの、なんとなく『近い未来』には、依然と同様ではないにしろ、人々の移動が徐々に許容されていきそうな、そんな雰囲気が感じられる春である。

この新型コロナの影響により、様々な分野で技術革新(イノベーション)が起き、我々に関わる事柄で言えば、あらゆる会議や研修がオンライン化された。

当初、座学ならまだしも、技術研修をオンラインで行うことなど、まったく想定できなかったが、やってみると講義資料やテクニックの際の手元が確認しやすいなどメリットも多く、全国の各会場にいるインストラクターとの連携を図りつつ、今では手際よくセミナーを進行できるまでに至った。

しかしながら、そうは言ってもオンライン上での、一定レベル以上の『プロとしての技術研鑽』と『事業者としての意識向上』に限界はやはり存在し、そんな訳で、状況が許されるならば、徐々に『リアルの研修』=『長距離移動を伴う研修』は再開されていくのであろう。

そうなると、ふと心配になることが。

ある意味、居心地の良い地元に腰を落ち着けること、2年余……果たして以前のようにフットワーク軽く、方々へ出かける心意気が、自分の中に復活するのだろうか……??

そんな私に、格好の『リハビリ』と成り得る好機が到来した。
講義講演の仕事で、沿岸南部の街へ、2ヵ月連続でお邪魔することとなったのである。

もちろん距離としては、以前の移動とは比べ物にならないくらい『短い』ものではあるが、内陸育ちの私にとって、冬の南三陸は未開の土地。『慣らし運転』としては丁度良い……。

1回目は2月。

行先はR市で、目的はホールを会場にした講演会。沿岸地域で活動する仲間からのアドバイスでは、『自動車道でK市を経由するルートだと大回りになるので、Mインターから一般道を走るのがオススメ』ということであったが……見事なタイミングで前日に降雪。

S町の凍結した峠越えは洒落にならなく、会場到着時には、若干の疲労困憊。
気持ちを切り替えて、合計約2時間半の講演を全力で勤め上げ、その後、O市にある移転したばかりの仲間の店舗見学へ向かうも……整備途上の三陸路に、車のナビゲーションシステムが翻弄され、ああでもないこうでもないと言いながら、やっとのことで到着。

そして帰りも人気が少なく、林間を凝視するのも怖いような峠道を走って、内陸へ戻る際に私は固く心に誓った。次回は普通に自動車道を使おう……と。

2回目は3月。

行先はO市で、目的は研修センターを会場にした1日セミナー。
朝早くから講義が始まるため、朝6時前に自宅玄関の扉を開くと……所謂、春のドカ雪、吹雪リターンズ。

M市からジャンクションのあるH市へ向かう高速道路が既にホワイトアウト寸前。
なにも2回連続このタイミングで天気が荒れなくても……とぼやきながらも、沿岸に近づくにつれ、降積雪が減り、空の色が変わり、そして難所として有名な地名を冠したトンネルを抜けるとそこは……北国の早春であった。

青空ゆえにキリリと引き締まった空気を突き抜けて網膜へ飛び込む朝の陽……あぁ、これが『移動』だったなぁ……。

季節を追い越したり追い抜かれたり、その渦に身を揺られながら凝り固まった自分を揺らして明日に向かう。

そうそう、この感覚!!

同時に、この新しい生活様式の中で、私が地元に張り付いていた時期にも、沿岸の仲間達は、この県内移動のくせにグレートジャーニーな日々を乗り越えて活動していたことに、今更ながら気づき、ハッパを掛けられた気分であった。

よし……負けてらんないぞ!!

実生活ではまだまだ見通しが持てなく、状況次第な日が続くが……解き放つべきはまず心意気。
旅立ちはいつだって春だった。

そして……もうすぐ春なのである。


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