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ぬらりひょんを追いかけて/連載エッセイ vol.112

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.114(2019年・第5号)」掲載(原文ママ)。

先日、定例の西日本出張を終え、ほぼ1週間振りに岩手へ戻ると……季節は急激に秋へと移ろっていた。
いつものように駆け足で地元に辿り着いた私は、天気予報を確認する暇もなく、出張前と同じ服装で午後から店舗に出勤。
そしてお客様への対応を全て終えたのが、午後九時近く。
看板を仕舞おうと外に出た瞬間、半袖で露出した腕への突き刺すような冷気で、初めてその気候の変化に気がついた次第であった。

しかし、今年の夏も暑かった。

熱波のスタートこそ昨年より遅かったものの、いつまでもいつまでも、北東北には似つかわしくない寝苦しい夜が、だらだらと続いた。

ぶどう農園を営むお客様曰く、昨年も猛暑だったが、8月下旬には気温が落ち着いたので、昼夜の寒暖差が発生し、ぶどうも美味しく実ったが、今年は夜の気温の下がらない日が続いたので、その出来栄えはイマイチらしい。

この、すっかり定着しつつある『異常気象』にやられているのは、当たり前の事ながら、人間だけではないようだ。

そんな9月中旬まで続いた暑い季節の中、私が個人的に熱い視線を送ったのが、統一地方選挙の大トリを飾る県議会選挙に立候補したある人物であった。

実はワタクシ、その方の長年の大ファンなのである。
どのくらいの『ファン度』を有しているかというと、氏の名前をインターネットで検索すると、数年前からアップしている私のブログ記事が、かなりの上位にヒットするくらいの『ガチファン』なのである。

しかしながら、選挙となれば、組織に所属する人間である限り、個人的な趣味興味のみでは動けないというのも事実。

国政県政において、この仕事絡みでお世話になっている方々も複数いる。
実際の投票行動として、そちらを裏切れる程、私の神経は図太くない。
このまま『一ファン』として、出来る事は『心中エール』しかないのか……。

転機は、選挙戦中盤。

私は、その週末と翌週末にプロ対象のセミナー講師を任命されていたので、週半ばに1日のみ、お客様の予約を入れずに、その講義準備をしようと、『在宅日』を設けていた。

丁度その日……選挙ポスター張りを粗方終了した氏が、近所で街頭演説をするというではないか!! 

自覚はしていないが、私はかなり『目立つ』らしい。
そんな存在感に溢れる輩が、演説に耳を傾け、大きなリアクションを取っていたら……道行く人々も、遠慮なく足を止められるのではないだろうか……ヨシ!! 
私はオサレ番長な私服に身を包み、SNSで告知された『約束の場所』へと急ぎ向かったのだった。

開始予定時刻の少し前から、氏の選挙カー前には、道路を挟んで軽く人だかりが出来ていた。
しかしながら、そこは奥手な東北人。
氏自身による『前説(演説開始時間までの繋ぎな雑談)』を、どこか遠慮がちに眺めている様子。

そこへノシノシと大股で現れたワタクシ、氏のド正面に陣取って、演説開始を無駄に大音量な拍手で歓迎した。
スミマセン……これが今の私に出来る……最大限の応援デス!!!!

氏の話は冒頭、前職にまつわるネタからスタート。
私を含め、聴衆も、まずはこれが聞きたくて集まったのであろう。
随所に笑いが生まれる。

しかし中盤から、徐々に場の雰囲気が変わる。
自分がどれだけ岩手を愛しているのか……前職を通して、どのようにしてその意思を貫き通したのか……そして目指すステージを通して、何を表現していきたいのか……。

氏が語っていたのは、『やり方(方法)』ではなく、『あり方(目的)』であった。
そしてそれらの言葉は、氏自身の熱く穏やかな感情に溢れていた。

万来の拍手で演説を終え、去り際に氏は告げた。

『今日はこの後、市内2箇所で演説予定です。
お近くの方がいらっしゃれば、お声掛けをお願いいたします。
この残暑です。
皆様はくれぐれも「おっかけ」などなさらぬよう…』。

その夜、自室にて私は、日に『3回』も氏に会えた事、そしてたった一人の選挙員である奥様ともども、ちょっとだけ顔見知りになれた事に、ミーハー的な満足感を覚えつつ、再び、氏のSNSをチェックした。

そこには、選挙活動最終日、市内某所で街頭演説する旨が記されていた。
そして私は、その場所と時間を二度見する。

ちょっと……
これって……
その直前まで、同じ場所にてワタクシ……
講演依頼をうけているじゃあないの!! 
これはもう……
『ディスティニー(運命)』!!!!

その翌々日、盛岡の仕事場近くの、丁度私が抜け出せる時間帯に、氏の演説が開催される情報をキャッチ。

予定時間より少し早く場所に向かい、到着を待ち構えていた私を見ると、氏は少し驚きつつ『今日は……お帽子を被っておられないんですねぇ』と、いつもの口調&スマイル。

私は名詞を渡して素性を明かしつつ、翌日の演説前の講演会について説明し、あとは邪魔にならないよう、道路の向こう正面に陣取り、拍手を送った。

そして当日。

講演はいつもの通り……というか、参加者に恵まれて、いつにも増して盛り上がり、予定時間をあっと言う間に経過。

終了後、個別に質問したい方々を、『15分で戻ります!!』と会場に待たせたまま、駐車場へ走ると、そこには既に演説を始めている氏と、日に日に明らかに数を膨らませている聴衆の姿があった。

演説終了後、周囲の熱気に感極まりつつも、次の演説場所へ向かうべく、自ら運転する選挙カーに乗り込もうとした間際、ふと目が合う。

スーツ姿の私を見て氏は微笑み、『こういうお仕事をされている方だったんですねぇ』と一言。

私は『ハイ!!』とだけ返し、それ以上の満面の笑みで見送った。

特殊で楽ではないけど……だからこそ、この仕事をしていてよかったと心から思う私であった……。

そして選挙結果は皆さん知っての通り。

報道の解説では『前職で培った抜群の知名度』が歴史的大勝利の要因と分析。
それは間違いではないのだろう。

でも、その場に足を運んだ方々は、きっとそれだけでないモノを感じているだろう。
ヒトを動かすのは、やはり『感情』なのだ。
しかも『心から』の……。

『Be emotional !!』 

みちのく郷土を姿勢医学の先進地域とする為、私の座右の銘が1つ増えた今年の晩夏早秋であった。


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