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まつりが繋ぐ条件付きの夏と秋/連載エッセイ vol.130

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.132(2022年・第5号)」掲載(原文ママ)。

私は今この原稿を、所属している業界団体の本部がある倉敷市のホテルの一室にて書き始めている。

通常、この街に滞在している際は、技術セミナーの講師を務めていることが多く、それ以外の業務に割く時間など存在しない。
そしてセミナーが終わり次第、その日のうちに寝台特急で帰路に就くのが常である。

しかし今回は大型台風の直撃を受けたため、公共交通機関が午後から軒並み運休。
やむなく延泊し、翌朝の始発を待つまでの間、不意に発生した空白時間を活用して、このようにキーボードを叩いている次第である。

そんな訳で、いよいよ県外出張も様子を伺いつつ再開し始めた。

6月、2年半振りにこの地へ降り立った時には、以前は延々と続き終わりを感じさせない様子だった駅前の再開発が完了しており、そのことがカレンダー以上に時の経過を実感させた。

8月の来訪予定はしかし、新型コロナの「第7波」の影響で急遽中止に。

そして今回の滞在と、行きつ戻りつしながらも、以前の形態を取り戻す……というより、今後の時代にフィットしたスタイルを模索している段階であるといえよう。

そして私が生活の糧を得る街でも、そのような「ライフスタイルの干満ダイナミズム」を感じられる出来事があった。
それは「夏まつり」と「秋まつり」である。

私が紫波町の日詰商店街に店を構えたのが、今から約20年前。

以前は全国どこの商店街のご多分に漏れず、少々「元気」を失いかけ、更に全国から視察団が途切れないほどの成功を収めた、官民プロジェクトによる駅前施設の勢いに押されまくりで、かなり厳しい状況であった。

しかし数年前から、様々な方の尽力があり(この詳細はいつか、このエッセイでもご紹介したいと考えている)、若い世代が物件をリノベーションしつつ新しい店舗を次々にオープンさせ、それを親から商売を引き継いだ世代がリードし、それを更に親世代が見守る……という好循環を発生させることに成功。

近年では地元マスコミにも取り上げられる機会も多く、中小企業庁が主催する「はばたく商店街30選」にも選定された。

コロナ禍以前は出張続きで時間の確保もままならず、あまり商店街に貢献できないことを心苦しく思っていた私も、県外移動の自粛により期せずして発生した余白を活用して、商店街(主にグルメ!!)を紹介する店内掲示物を複数作成。

お客様(の胃袋)にも喜んでいただけるようにもなり、ちょっとは恩返しができ始めているのかなと、楽しくなってきたところである。

そして、そんなノリノリな日詰商店街に、3年振りに「まつり」が帰ってくることになった。

まずは8月頭に開催される「紫波夏まつり」。

コロナ禍前までは、北上川河川敷で打ち上げられる花火と、その袂にある総合体育館の敷地内での出店が中心であったが、復活した今年は、日詰商店街内に「屋台村」を設置するとのこと。

当初、この日程が倉敷滞在と重なっていたため、どうせ不在だからと悠長に構えていたのだが、上記のように急遽出張が取りやめになり、セミナー参加が店舗でのオンラインへと変更。

慌てて主催する町役場に問い合わせても、HPに掲載されている情報以以外はわからず。
踵を返して商店街の重鎮や中堅に尋ねても「詳細は何も聞かされていない」と。
そして……ふわふわした状態のまま、当日を迎えた。

オンラインでのセミナーが終盤に差し掛かる頃、商店街に車両通行規制のアナウンスが鳴り響き、徐々に歩行者の気配が増してきた。

その後、何気に窓の外へ視線を送ると、「おお!!……結構人が出てきてるじゃないの……結構結構!!……おぅ!?……すごい、人、集まってきてない!?……いやいやいや……コレ、集まり過ぎじゃね????」

想像していただきたい……。
人口3万人強の町の……商店街を中心としたわずかな一角に……コロナ禍での抑制の反動とはいえ……来場者1万5千人(主催者発表)!!

ある人は言った……これは「密」というより「圧」である……と。

ある人は告げた……出店に並ぶ人の列に通りが寸断されて引き返した……と。

ある人は嘆いた……ねだり倒され2時間かけて手に入れたチョコバナナを握らす我が子の瞳は既に空虚を捉えていた……と。

まさに……カオス(混沌)な夜であった。

続いて9月頭は、「日詰秋まつり(志賀理和氣神社例大祭)」。

この僅か1ヵ月で季節を駆け抜ける感じが、北国らしくて個人的にはお気に入りである。

こちらは前月の「狂乱の宴」を踏まえてかどうなのか、規模を大幅に縮小して開催。
4つの組からなる荘厳な山車の運行はなく、神輿渡御の行列と約30の出店と歩行者天国のみ。

その日は姿勢科学ディプロマコースのオンライン授業だったので、終了後、スタッフと商店街を闊歩する。

前月とは異なり、「丁度良い」人出の中、馴染みのお店の濃厚ソフトクリームカップを頬張っていると、本来は山車の上で奏でられる太鼓と笛と掛け声が、通りの一角から聞こえてきた。
適度に距離を保ちつつ、聴衆の輪に加わり、演奏に意識を傾ける。

コロナ禍前は毎年、「感謝祭」と称してお客様達を招き、特等席となる店舗前の駐車場にテーブル席を設置して、商店街のお惣菜屋さんから買ったオードブルや差し入れをつまみつつ、この風情を愛でるのが恒例行事となっていた。

今年も何人かのお客様から「参加する気は満々だから、早期の復活を!!」とのご要望を頂戴した。

正直、見通しはまだ持てないが、しかし、近い将来には確実に再開できると信じたい。
夏が秋へとさりげなく移ろうように。

時間は経過して、私は先程、温帯低気圧へと移行した元・台風を搔い潜って、盛岡へと到着した。
新幹線を降りてホームに立った瞬間、予想以上の低温に身を竦めながらも、同時に思わずほくそ笑んでしまった。

そうそう、この寒暖差……この時分の講師出張の帰りって、こんな感じだったよな……。
こうして時は、行きつ戻りつ進んでいくのだ。


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