排気口の怖いってなんだろう?の巻

 ほんの数日前に排気口新作公演『アイワナシーユーアゲイン』が終わったばかりだというのにもう台本作業に取り掛かっている。劇場に来て頂いた方々なら手に取って貰えたと思うが次の公演は4月である。それも本公演とは少しだけ趣向を変えた「春先のホラー新作長編」である。

 年末年始は4月の公演の作業をしていたが『アイワナシーユーアゲイン』の稽古が佳境を迎えると作業をするどころではなかった。ベッド脇に積まれた参考資料の山だけが微動だにせず無言の圧を毎夜毎夜と私にかけてきた。

 今日においてようやく4月公演の台本作業に集中出来る訳なのだが、毎度の様にアイディアが全く浮かばない。現在台本作業鋭意難航中である。

 排気口の新作公演でホラー作品を作った事は無い。しかし排気口ワークショップで毎度書き下ろす台本は3回に1回のペースでホラーに寄った台本を書き下ろす事をしている。そのうちの1つは下記のリンクから飛べる。興味のある方は是非。

  そもそも演劇でホラー或いは怖い作品とは数少ないのではないだろうか?私の不勉強さを自覚しながらパッと思い付くものとして中島らも『子供の一生』ケラリーノ・サンドロヴィッチ『室温: 夜の音楽』ほどだろうか?不穏さや見え隠れする不気味さという点で言えば深津篤史『うちやまつり』(この戯曲は是非とも自分で演出してみたいと長年思っている)松田正隆『海と日傘』(かなり個人的なチョイスだが・・・)『光る海』なども思い浮かぶ。ホラー演劇或いは怖い演劇とは一体なんであろう・・・?

 時に怖さは十人十色である。幽霊が怖い人も、まんじゅうが怖い人も、高いところが怖い人もいる。逆にそのどれもが怖くない人だっている。私の様にまんじゅう以外全部怖い人もいる。怖さは人それぞれだ。

 怖いって不思議で難しい。トホホ・・・。みたいな感じである。私は趣味が読書ぐらいしか無いのでホラー小説も好きで読むのだが本当に怖いと思った作品に出会うのは年に2冊もあればいい方だ。こう言うと私は怖さに強い感じなのだが、私はビビりである。ドアの隙間に怯えるし、突然の音にも怯える。ホラー映画は観ない。つまりは小説という形なら怖くはないが、その他にはビビりなのだ。これは先の怖さは十人十色と同じで、人によっては演劇という形なら怖くないが、小説という形なら怖いなども十分にありえるのだ。ますますもってトホホ・・・。である。

 かように現在袋小路にハマってはヒントを探して色んな本を読んでいる訳だが、最近1つだけ個人的にゾッとした怖い話を教えて貰った。最後に紹介して今回のnoteは終わろう。

 主に舞台で活躍している女性の役者さんの話だ。最初に前置きをしておくと私とその女性の方は2回ほどしか挨拶をしたことが無い。この話はその女性の知人である映画監督から聞いたものだ。※本人には事前にこのnoteに書いていい事を知人の映画監督を通じて了解を得ている。

 その女性(以下Aさん)には数年前から熱心なファンがいた。その熱心なファンも女性である(以下Bさん)。舞台にであると毎回必ず差し入れをプレゼントしたり、Twitterなどでも頻繁に応援のメッセージをくれたりしていたそうだ。コロナ禍になって舞台が公演中止や延期になっても、Bさんは励ましのメッセージを送っていたそうだ。Aさんはそれが大変嬉しく感じていた。

 ようやく舞台の出演が決まった頃、BさんからDMでこのようなメッセージが届いたそうだ。「久しぶりの舞台めっちゃ糞楽しみブリブリです」※原文ママ「Aちゃん、こんかいの公演で何か欲しい物とかありますか?沢山差し入れしちゃいます」Aさんはこの時、特定の物をプレゼントして欲しいとは返さず「観に来てくれるだけで嬉しいです」という意味合いのメッセージを送ったそうだ。

 その時の公演でAさんは、Bさんからアロマオイルを差し入れに貰ったそうだ。アロマオイルとメッセージカード。「Aさんにきっと似合う素敵なアロマです」の文章が書いてあった。Aさんはそのアロマオイルを試しに使ったところ大変気に入ったそうだ。すぐさまお礼のメッセージを送るとBさんから「次の公演でも別のアロマオイルを差し入れします」と返信が来た。

 それからAさんはBさんから様々なアロマオイルを貰ったそうだ。そのどれもがいたくAさんは気に入りその都度、Bさんへお礼のメッセージを送っていた。

 ある日、Aさんの家に彼氏が遊びに来た。その日は彼氏が家に泊まる事になっていてAさんは先にお風呂に入ったそうだ。お風呂から出ると、なにやらリビングの方で大きな音がする。不審に思いAさんがリビングへ駆け寄ると、彼氏がものすごい顔で何かを床に叩き付けていた。驚いたAさんは慌てて彼氏を止めようとするが、ものすごい力で振り払われてしまった。彼氏は床にAさんが貰ったアロマオイルを床に叩きつけていたのだ。「ちょっとなにしてるのよ」Aさんが彼氏に問い質す。「それは私がファンの方から貰った」の声に被せるように彼氏が怒鳴った「お前!!ホントに危ないところだったんだぞ!!」「え?」彼氏は床に叩きつけたアロマオイルを手に取ってAさんの前に差し出した。「これを見ろ!!」その差し出されたアロマオイルをAさんが見ると・・・。

 急に声が聞こえなくなった私は対面に座る映画監督の声を確かめるように「え?それでどうなったんですか?」と聞いてみる。映画監督はコツンと持っていたグラスを机に置いてこう言った。「オチを忘れた」

 この世にはつらつらと怖い話を喋りながらオチを忘れる人間もいるのだ。全くもって恐ろしい。

 そしてもっと恐ろしいのはこうして架空の怖い話を書きながらオチを思い付けない私の脳みそである。果たして4月の台本は書けるのか・・・。

 まだまだ寒い限りです。お身体ご自愛ください。次の排気口公演は4月。今よりは暖かい季節の中で劇場でお会いしましょう。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?