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けふの一句/6月8日


死にたいが口ぐせ金魚に餌落とし


犬猫の飼ひ主よりも水槽の所有者の方が心の闇は深い。触れ合ふことがないからだ。そんな金魚との唯一の触れ合ひが餌やり。もちろんこれも口元まで運んでやるわけでもなく、ぱらぱらと水槽の上から撒くだけだ。それだけの関係であるが、飼ひ主が死ねば、金魚も死ぬ。ぎりぎりの生真面目さが彼女を世の中と繋いでゐる。


☆おまけ☆
磔の髯の裸も暑からむ

磔の髯の裸とはもちろんあの人のこと。ただの宗教批判の句だが、いつの間にか「髯の裸」が「髯裸」になつてゐた。髯を髭にするか鬚にするか悩んでゐる内に、「の」が消えてしまつた。バチが当たつたのかなあ。競馬は当たらないのに。

|本日発売! 6月8日発売

見えない傷(春陽堂書店)
著者:北大路 翼
二〇一七年以降の作品から厳選収録。新宿の片隅から世の中を憂う第三句集。これまでの“アウトロー”とは異なる、加藤楸邨からの”本格派”の系譜。

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|この記事を書いた人

北大路 翼(きたおおじ・つばさ)
1978年5月14日、神奈川県横浜市生まれ。種田山頭火を知り、小学5年生より句作を開始。2011年、作家・石丸元章と出会い、屍派を結成。2012年、芸術公民館を現代美術家・会田誠から引き継ぎ、「砂の城」と改称。句集に『天使の涎』(第7回田中裕明賞受賞)、『時の瘡蓋』、編著に『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」アウトロー俳句』『生き抜くための俳句塾』『半自伝的エッセイ 廃人』『見えない傷』など。新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」家元。「街」同人。砂の城城主。
Twitter:@tenshinoyodare
連絡先:shikabaneha@gmail.com

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