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【会計天国】親友の死後、遺族に泣きつかれて親友の会社を買収したら粉飾決算ど真ん中(?)でした。それなんて罠?【感想】

本書の主人公は、経営コンサルタントの北条。娘のウェディングドレスの試着につきあうために呼び出され、その途中で事故死。現世に復活するため、天使から指定された人生崖っぷちの5人を経営のノウハウを使って幸せにすることに……。

【第3章 粉飾決算という泥沼から抜け出して、再生する】

登場人物
【浜口美智子】
大輔の娘。花丸食品に経理担当者が存在しなかったため、母と一緒に浜口食品の経理をしていた美智子に白羽の矢が立った。
花丸食品に出向したものの、買収元の経営者一族ということでとても肩身がせまい。そして胃も痛い。
友人に誘われ独立起業にちょっと心が傾いている。

【浜口大輔】
浜口食品社長。またの名を「イケイケドンドン社長」。急逝した花丸食品社長とは親友の間柄。社長の死後、派閥争いで空中分解寸前だった花丸食品を5,000万で買収。途方に暮れて泣きついてきた奥さんと娘さんはひとまず心の平穏を得た。
なお、この花丸食品の買収について賛成だったのは社長のみで、そのほかの取締役は全員反対だった。そうです、ワンマン社長の私利私欲決裁です。

【現状】
浜口食品が5,000万で花丸食品を買収してから約1ヶ月、美智子は銀行残高と資金繰り表が300万ほどずれていたことに気づいた。しかし、何度確認しても誤差の理由はわからなかった。そして謎の誤差は日に日に大きくなり、最終的に花丸食品の運転資金がまったく足りないことが判明。このままでは資金ショートで月末にも倒産しかねない。美智子は大輔に連絡を取り、運転資金として5,000万を貸し付けてもらったのだが……
「2ヶ月後には5,000万返済できそうか?」
「……ううん、その逆。2ヶ月後には5,000万を使い切ってまた資金がショートしちゃいそう
修学旅行の見回りで無体を強いるステレオタイプの体育教師ではないが、
「廊下に取締役全員を正座させて往復ビンタを食らわせてやる!」
と叫んだ父・大輔の心情は何となくわかる。

今回は父親の浜口大輔に憑依してスタート!

資金繰り表と銀行の通帳残高がずれている。
前期の決算書は売上20億、利益も出ている。
特に経費を無駄づかいしたは形跡ない。
決算書の現預金の残高は通帳で、借入金は銀行の残高証明で確済みである。

→【粉飾決算】の疑いが発生!

そもそも花丸食品に経理担当者はおらず、社長がひとりで行っていた。
それ、かぎりなく真っ黒に近い灰色では?

さて、大輔(北条)の説明では粉飾する箇所はどの会社でもだいたい同じだという。製造業でいえば『売掛金』『棚卸資産』『人件費』の3点。

1.売掛金

まずは『売掛金』からチェック開始。
『損益計算書』の年間売上20億
20億÷12ヶ月=約1億6,000万/月
『貸借対照表』売掛金4億

*売掛金の振込は翌月または翌々月が大半
*売掛金の最大は2ヶ月分の3億2,000万。
*4億−3億2,000万=8,000万架空計上。
*翌月支払いのものもあるため、実態は8,000万以上の架空計上の疑いあり。

続けて2期前の決算書の売掛金明細をチェック。
結果、2期前・前期の売掛金明細で取引先名と金額がぴったり一致したものが20社判明。さらにこの20社中1社は浜口食品と取引のあったスーパーだが、2年前に倒産していた。
20社の売掛金のトータルは1億。回収不能な債権が1億デスよ、社長。案の定、貸倒損失は計上されていなかった。

こうして過去の決算書で売掛金の粉飾を行っていたことが確定。ただし、融資した5,000万消滅との直接的な関連性は見られなかった。

2.棚卸資産

『製造原価報告書』なんて初耳ですが。

【損益計算書】
売上高20億
期首製品棚卸高1億
当期製品製造原価15億
期末製品棚卸高2億
売上原価14億
売上総利益(粗利益)6億

*花丸食品の粗利益率は30%
*おかずの製造過程でのロスはほとんどないが、弁当として完成してからのロスは多い。にもかかわらず粗利益率がよいとは?

具体的な金額は不明だが、棚卸資産においても粉飾を行っていたことが確定。

3.人件費

最初に疑惑の目が向けられたのが『製造原価報告書』にあった外注費3億円。会社の規模を考えるとちょっと金額が大きすぎやしませんか?
そもそも工場のラインは人 > 機械で受注があふれ過ぎている気配は皆無。だというのに、一体何を外注しているのか?

指摘されたのは別会社。
作った別会社で社員を雇用し、花丸食品の工場に派遣するという方法。
「なんでそんな面倒くさいことを?」
お金を極力払いたくないからです。
別会社の設立は1年半前。
資本金1,000万未満の会社は最初の1年半は消費税を納める必要がなく、会社は1年半ごとに作り変えていました。アウトっ!!

これによって社員の雇用契約変更が確定。同時にこの人件費に対応する10%の社会保険料と5%の消費税追加が不可避となる。
外注費3億×15%=▲4,500万/年

4.キャッシュ・フロー

もはや決算書の修正が効くレベルではないので潔く生き残る方法を考えよう。そんなわけでキャッシュ・フローの登場である。

幸い花丸食品のフリー・キャッシュ・フローは+であったため、追加で発生した▲4,500万/年を差し引いても△4,000万/年のフリー・キャッシュ・フローがあった。だが、銀行への借金5億の返済期間は5年。
現実は非情である。

現状、打てる手はないのか? ありますとも!

○会社が使えるお金を増やす
→決算書の数字を元に戻して、その分を経費として計上する。
結果、支払う税金が減ってキャッシュが増え、会社の再生に回させる。

会社の再生とは? → 花丸食品精算します!
・銀行からの借入金5億と同額の資産を浜口食品が花丸食品から買い取り、その金で借入金を返済。
・社員は花丸食品と同条件で浜口食品が雇用。
・他節税テクニックは以下略

○決算書の利益を増やす
→工場のラインを増やして、浜口食品が外注している分のお惣菜を花丸食品で作らせる。
・生産量が上がる分、工場の固定費が分散されるので浜口・花丸食品の商品1個あたりの原価が下がる。
・3年前に購入したまま放置されていた設備もフル稼働へ。きっと無駄に性能がいいはず。
・新しいラインに導入する設備のリース料を差し引いても、粗利益率30%達成に希望が見えてきた。

○現実の売上と利益率を上げる(ビジネスモデル変更)
→コンビニへの商品投入
・浜口食品が主に商品を卸しているのはデパートやスーパーで、コンビニへの販路は持っていなかった。
・今回、花丸食品を買収したことでコンビニへの販路を確保できたので、今後は花丸食品のお弁当以外の商品も卸していく。今までの実績を武器に商品開発を持ちかけるのもあり。
・コンビニやスーパーから指定されていた取引業者の切り替えも忘れずに。

大ざっぱにこんな感じで時間切れを迎え、今回の「幸せ」対象だった美智子さんは5年後に独立起業して無事「幸せ」になりました。そして、最後の最後までどこに消えたからわからなかった5,000万、ここにきてようやく使途判明。

急逝した花丸食品社長の後妻さんと娘さんが支払った相続税がぴったり5,000万だったそーです。

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