見出し画像

【会計天国】部長、待って、Stay、Sit down! 屋上からの「I can fly」は固くお断りしておりますっ!?【感想】

本書の主人公は、経営コンサルタントの北条。娘のウェディングドレスの試着につきあうために呼び出され、その途中で事故死。現世に復活するため、天使から指定された人生崖っぷちの5人を経営のノウハウを使って幸せにすることに……。

【第4章 部長課長が同期との競争に勝って出世する方法】

登場人物
【大塚修斗】
国内でも5指に入る建築資材の専門商社の第一営業部部長。社長賞を5度受賞した出世頭。

【桜井】
一課課長。社長賞を2度受賞した典型的な営業畑の課長。体育会系のさっぱりした性格で取引先の評判もいい。社内外が認める「期待の星」的存在。
派手な営業が必要なマンション関連がメイン。

【藤島】
二課課長。理系の大学から営業職を希望した変わり種。地味な仕事でも黙々とこなす。
地道な営業活動が必要な戸建て関連の仕事がメイン。

【状況】
第一営業部部長の大塚は部下である桜井と藤島の扱いに頭を悩ませていた。大塚自身、桜井と藤島が水と油の関係であることは理解していたが、だからこそ互いの長所と短所を補えると考えていたのだ。しかし、桜井と藤島はすぐに互いをライバル視するようになり、部下たちもそれに習ってだんだんと口を利かなくなっていった。
電話が鳴っていても一課、あるいは二課の電話だからと無視し、課同士のミーティングすら満足にできなくなった結果、大事な顧客への対応でもミスを連発する
ようになってしまったのだ。そしてそれは桜井と藤島の取っ組み合いの大喧嘩という形で爆発した。

【喧嘩のきっかけ】
大塚の営業ノウハウを吸収して売上の数字を急激に伸ばして天狗になっていた桜井が、目標売上を毎月ぎりぎりでクリアしていた二課の悪口をぽろっと口にしてしまったから。

【藤島の言い分】
桜井が二課の悪口を言ってきた。
そもそも大手ゼネコンに対してリベートを渡して営業ノルマを達成する一課のやり方には納得できない。利幅が薄くなるので会社にとって良策とは思えません。売上はのびていないが二課は利益が取れています。

【桜井の言い分】
最初に難癖をつけてきたのは藤島。
営業はスピードとパワー。リベートを渡すと利幅は薄くなるが受注のスケールメリットで相殺されます。まずは数字を達成し、それから利幅の大きい提案営業にシフトしていけばいい。
地方の小さい建築会社にのんびりと提案営業をしているほうがむしろ問題。企画書の作成にも時間がかかるし、何度もミーティングをすれば人件費も無駄になる。扱える件数もかぎられてくるので、事実、二課の売上は伸びていない。

*この時点での所感*
桜井の言い分にイラッときた。売上と利益は必ずしも比例してねーからな。自慢するなら売上より利益自慢しろ、利益。
だいたいリベートで薄くなった利幅は受注のスケールがデカいから相殺できるって? それ、見方を変えれば相応のリベートを渡さないと相手にしてくれないってことじゃないのか。確実に足下見られてるよな。ノルマ達成してから利幅の大きい提案にシフトですか。まあ、悠長なことで。
売上とノルマ達成を優先するより、ノルマと営業先を見直して利益率上げる方向に尽力するのが賢い選択では? と営業の素人は言ってみる。

そして、桜井と藤島に対して大塚が何と言ったかといえば、

・上司としての一番重要な仕事は、実践的な経験を通じて部下に営業テクニックを教えること。売上がのびる喜びを知れば、部下のモチベーションも上がり、結果として給料を増やすこともできる。
・礼儀や常識を指導することで人として成長する手助けをすることも上司の役目だと思う。
・早い話が妥協しろ。上司がいがみあっていたら仕事に差し支える。お互い協力して仕事に専念しろ。

……言いたいことは何となくわかる。わかるけれど、違う、今聞きたいのは”それ”じゃない!

そもそも問題の根っこは業績。
“そこ”の数字が漠然としているから、相手の言葉に納得できず、幼稚な言葉の応酬になるんだろう。叱責するにしろなだめすかすにしろ、まずは納得のいく数字を用意するのが先でしょうが。

まあ、そんなわけで、今回の「幸せ」案件というのが、この大塚第一営業部部長である。
北条曰く、大塚は「部長って仕事を完全に勘違いした日本の会社に多いだめ上司の典型」らしい。

「サラリーマンは実戦経験から営業テクニックを学ぶことが大事だなんてバカなことを言って、ろくに勉強もしない人間に、出世は100%ありえない」

なかなか厳しい。しかし、北条の指摘通り、現状のままでは業績を伸ばせず、結果として大塚は部長職を解かれ、3年後には部下をすべてを失ってうつ病にかかり、最後にはビルから飛び降り自殺することになる。

屋上からの「I can fly」は固くお断りしております!
やるならプールかトランポリンでどうぞ。もしくはバンジージャンプで妥協しろっ!!

今回は元質屋の社長だった清掃員のおじいちゃんに憑依してスタート。

【上司の仕事は「利益を稼ぐ」ことです】

清掃員のおじいちゃんに憑依した北条は、まずは「上司の仕事」について大塚に確認する。
上司の仕事は「利益を稼ぐ」こと。
ここは北条も大塚も一致。大塚自身、会社の売上を増やすことに全力を尽くしていると断言している。そこへ
「自分の担当している部署の決算書は作成しているか?」
と北条からの不意打ち。
ちなみに大塚、昔から数学や物理が苦手だったせいもあり、社内研修で何度も教えられたがいまだに苦手意識を克服できないでいた。

「ちゃんと会社からフォロー入ってんじゃん! 大ざっぱでいいから貸借対照表と損益計算書くらいは作れよ。営業職ならなおさら。しかも部長! 高確率でリベートの金額減らせるから。あと決算書が読める部下が増えると利益もきっと増えると思う。数字大事、数字!」

いや待て、大塚が決算書が苦手で今までスルーしていたということは、その教えを受けた桜井も当然決算書が読めないということか? もしくは読めるのにスルーしてた? まさかそんな……。
深く考えるとホラーになるので軌道修正。

北条の指摘に対し、大塚は「経理部が作ったものを読めるだけで十分では?」と切り返す。決算書よりも会社が設定した営業のるまをクリアするほうが大事であり、事実、大塚はそうやって出世してきた。
「部署の売上目標が決まっているなら、部署の目標の利益は? それはどうやって決めているのか?」
ここで大塚は言葉に詰まる。
「決算書を作らないかぎり、本当に利益を稼ぐことができているのか、最終的にいくらお金が入ってくるのか、わからなくなってしまうぞ。そんな状態では部下の給料すらまともに決められないだろう」

ここで再びホラーな話。
部下の給料は大塚が評価しているが、どうやって評価しているのか?
さすがに売上だけで評価しているわけではないと大塚は言ったが、売上の詳細についてはノータッチだという。理由は自分と部下の間には信頼関係があるから。それ以外に根拠は? ノーコメントですか、そうですか。
……査定基準……、基準ってどこ?

ぐるんぐるん悩んだ末、大塚は部署の決算書を作ることを決意。ようやく第一営業部の決算書作成スタートである。

【部署は会社の固定費を回収するために貢献すべきとな?】

◆貸借対照表
=会社の資産や借金の状況を表す
◆損益計算書
=会社の儲けを表す
上記を会社ではなく部署で使えるものに変換する。

【総資産利益率】
総資産利益率=営業利益÷資産合計
【利益率の目標】
会社全体の総資産利益率を超えること

部署の貸借対照表+損益計算書(図20)
・貢献利益
・管理可能利益
・事業部利益

聞いたことも見たこともない単語が出てきた……。
とりあえず、部署の利益を計算するさいは、その責任者が管理可能かどうかが重要ということは理解した。

ここで大塚から言葉の意味を詳しく教えて欲しいと言われ、北条はまずは変動費について触れる。売上原価についてはきちんと把握できていたが、リベートについては見落とされていたのでカウント追加。

【貢献利益の計算:売上−変動費】
・商品であるガラスを1枚売ったときに増える利益

「それは粗利益ではないのか」と大塚は問うが、「売上−変動費=粗利益」になるのは「売上原価=変動費」となる会社であって、大塚のいる会社は該当しないとのこと。

ところで、貢献利益って何に対する貢献?
→「固定費」回収に貢献している、という意味。

質問:貢献利益は管理可能ですか不可ですか?
→大塚:管理不能っぽいですね。
正解:いえ、管理できます。大塚部長、アウト!

貢献利益とは部署のビジネスの利益そのもの。
貢献利益が小さいと固定費の削減も限度があるので、絶対に回収できなくなって赤字になる。
よって部署としては商品の価格を高くして売るアイデをひねり出し、原価率を小さくする努力をしなくてはいけない。薄利多売ダメ、絶対。

【管理可能利益】→貢献利益ー管理可能固定費
固定費の種類
・全社共通費(管理不能)
・管理可能固定費
・管理不能固定費

【全社共通費】
固定費の中で配布する基準がないもの。なので会社が勝手に、各部署が負担する金額をきめてしまうという意味。社長やその秘書の給料その他諸々がこれに該当。
何だろうこの理不尽感。でも、予め決めておかないと損益計算書の利益がマイナスになるので仕方がない。

【管理可能固定費・管理不能固定費】
全社共通費を引いた固定費を管理が可能か否かで区別したもの。

【事業部利益】管理可能利益ー管理不能固定費
【営業利益】事業部利益ー全社共通費

最終的なゴールは「営業利益」の黒字化。
ただし、固定費・変動費以外に「全社共通費」がかかってくるので、当面の目標は「事業部利益」のプラス。

では、だいたいのデータが揃ったところで、決算書の作成および一課・二課の比較を始めます。

結果
わりと予想の通りではあったけれど、二課のほうが利益は高かった。圧倒的黒字の9,000万。対する一課はこちらの予想を超えた▲6,000万の大赤字。

損益計算書を見れば、一課は売上12億に対して変動費11億4,000万という悪夢!? そこに管理可能固定費1億、さらに追加で管理不能固定費2,000万がのしかかってくるのだから、利益なんぞ出るわけがない。
どう考えても元凶はリベートです。アリガトウゴザイマセン、コノ野郎。
とはいえ、貢献利益自体は6,000万のプラスなので、部署全体の固定費回収には貢献していることは証明された。
するとこの部長大塚、部署の損益が明確になったから
「明日にでも桜井を呼びつけて赤字を伝えます」
とのたまいおった。
「何でさ!? 上司自らトドメ刺しにいってどうする。フォローなしか!」
案の定、北条から叱責が飛んだ。

【赤字の原因とは速やかに縁を切りましょう】

・短期的に変更可能な経費
 →変動費・管理可能固定費
・長期的に変更可能な経費
 →管理不能固定費

黒字を目指すにはまず赤字から脱却しなくてはならない。だから、当たり前のことだが経費から見直そう。
目標は「管理可能固定費 > 管理不能固定費」。

真っ先に切り込んだのは赤字の元凶であるリベート。
図23の例を見ると、売上1,000万の内訳が

売上原価700万
リベート200万
人件費200万
赤字100万

業界人ではないので相場はわからないが、これ、取引する意味あったのか? 所感のところでも書いたけれど、むしろ損するためにリベート払ってないか!?

北条は取引先ごとに貢献利益を計算し、人件費を差し引いて赤字になっている取引先のリベートを下げるよう大塚に言った。第三者からすれば、そもそも赤字になるような多額のリベートを要求してくる時点でお断りである。
二課については現時点ですでに儲かっているので、
一課の業務を縮小して二課にリソースを集中させるということで大枠はまとまった。

他に見直せることはありませんか?
管理可能固定費です。

利益が出ていない一課の管理固定費を下げて、その分儲かっている二課の管理固定費を増やす。具体的に言えば一課の人員を二課に回し、その分増えたスペースの負担を二課に回すなど。

【最後の大仕事は情報の共有】

いきなりこんな人事異動を発表されて素直に受け入れられるはずがないので、まずは異動の根拠となる損益決算書の提示。そこから業務を見直し、今後の目標を伝えて全員に理解してもらわなくてはならない。
分業体制確立後は、目標と実績のズレをチェックし、定期的に部署で検証すること。

今後の目標があらかた決まったところで、リミットを告げる鐘が鳴った。
「未来TV」で確認すると、大塚は売上低迷と部長職解任を無事免れ、創業以来の最年少取締役に就任することになっていた。

死亡フラグ、無事回避!

他の章に比べて今回は結構端折ってるので、詳細が気になる方は書店かKindleでどうぞ。

【感想一覧】
No.1
【会計天国】そこの経営ツートップ、とりあえず頭に水ひっかぶってから正座しようか【感想】
No.2
【会計天国】安さ勝負の全商品値下げから適正価格へのUターンって、結構な高難易度では?【感想】
No.3
【会計天国】親友の死後、遺族に泣きつかれて親友の会社を買収したら粉飾決算ど真ん中(?)でした。それなんて罠?【感想】
No.4
【会計天国】部長、待って、Stay、Sit down! 屋上からの「I can fly」は固くお断りしておりますっ!?【感想】
No.5
【会計天国】多角経営しながら決算書はひとつで十分かなぁ、だと? さすがラスト案件、度し難いっ!!【感想】

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

「知識欲と好奇心の尖兵」の職務を全うするため、いただいたサポートは色んな意味で色んな方面に投資させていただきます。ときどき紅茶と簿記・会計。そこそこ愉快な生態もたまにレベルUP