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寝台特急サンライズ出雲91号の旅(part1)[2022.4-5 サンライズGR③]


大型連休真っ只中である。
用事を済ませてから乗車した上野東京ラインの列車を東京で降りると、ホームの向かい側には定期列車の「寝台特急サンライズ出雲」が停まっている。乗車列を形成している人々が、今か今かとドアが開くのを待ち望んでいるのが見えた。
私はその姿を横目に、そそくさとそのホームから離れる。まだ、サンライズ号のきっぷを発券していないから、急いで遂げなければならない。

東海道新幹線の乗換改札口付近にある券売機できっぷの引き換えを無事に終える。大型連休だから尋常でない混雑を見せているだろう、と危機感を抱いていたが、それは杞憂に終わった。

さて、東京と出雲市を結ぶ「寝台特急サンライズ出雲91号」は、半日以上かけて走る”ロングラン”列車だ。出雲市に着くのは正午をゆうに過ぎた頃だから、朝食はおろか、昼食も事前に用意しておく必要があろう。サンライズ号には車内販売という概念は存在しないため、このことを絶対に忘れないようにしたいものである。

ということで、駅弁屋で「かにめし」を購入した。せっかく山陰地方へ足を運ぶのだから、微々たるものでも、山陰を訪ねる高揚感を上げるためには必至のアイテムだと考えた結果である。

これをもって、駅構内でやることはなくなったから、あとはホームへ上がって列車が到着するのを待つのみとなる。列車が発つ8番線には、まだ目当てのものは来ていなかったものの、それを撮らんとする旅行客らが場所取りに明け暮れている。ハイエナの如くという表現がぴったりである。

22時を回ったあたりで列車が入る旨の自動放送が流れ、私の高揚感は最高潮に達する。前照灯を煌々と照らしながら悠然と滑り込んできたその車体は美しく、またすべてを包み込むかのように背が高く、そして巨大な姿は見る者を圧倒させるものだ。
今回、私が乗るのは最下等のノビノビ座席であるけれども、目の前で繰り広げられている光景を目の当たりにすると、”最下等”という言葉が持つ悪い印象が完璧に払拭される。

ホームに着いてからおこなう最終的な作業が終わりを告げ、駅員のアナウンスとともにドアが開く。乗客が堰を切った水のように、勢いよく車内へと吸い込まれる。私も勿論その一員だ。

ノビノビ座席は窓側を頭にして横になるカーペット敷きの席である。頭が来る部分にだけ仕切りがついており、半個室的様相を呈する。送風機や読書灯、プラスチックのカップが備え付けられているが、枕はない。枕がないと眠るのが難しいという人はぜひとも注意していただければと思う。
座席やトイレ、洗面台の設備を確認し終わり、ようやく字面どおりにノビノビし始めたら、まもなく列車は出雲市へ向けて長い長い旅を始める。22時21分のことである。

東京を出ると、次は横浜に停まる。山手線や京浜東北線などと抜きつ抜かれつの競争をしながら、高輪ゲートウェイ付近に差し掛かる。このあたりは、これから再開発がさらに盛んにおこなわれるとのことで、まだ空がひらけている。23区内でこれだけ空が見渡せるところは数少ないのではないか。もしかすると、天体観測だってできるかもしれない。一応、車内からも星を探せるかどうか試してみたものの、窓ガラスの内側が少しばかり汚れていたから、残念ながら失敗に終わった。
そのようなアクティビティをしているうちに、品川を通過する。この駅を通り過ぎる旅客列車は”珍しい”という位置付けになるはずだから、短い時間ではあったが、十分に堪能することができた。

列車は、普通列車と同調しなければならないため、最高速とまではいかない速さで、しかし快調に走行を続けている。多摩川を渡って神奈川県へ入ると、すぐに川崎市に入り、それから十数分経つと、もう横浜に着いてしまう。この品川ー横浜間は、距離は結構あるものの、他社間との競争意識があるせいか、速度を目一杯だして爆走する。だから、いつも個人的に楽しみにしている区間だ。今回も京浜急行電鉄との戦いが見られた。見てる側からすれば、非常に面白い見世物である。むろん、シノギを削って時間短縮するよりも、安全に舵を取り続けることが最適解であるというのは申し上げる必要がある。

横浜からも多数の乗車客がある。もちろん、東京から乗る人のほうが多いが、ここに停まる意義を素人ながらにも感じられるほどに乗ってくる。サンライズ号もまだ安泰だと胸を撫で下ろしつつ、身体を横にするも、”乗って残そうサンライズ”という標語がおぼろげに思い浮かんできた。
目が冴えた。今日はもう少し起きてみることにしよう。


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