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短歌

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スキーしに行った短歌連作(2024年、晩冬)―揺川たまき

スキーしに行った短歌連作(2024年、晩冬)―揺川たまき

スキー・スノボウェアのフロアに降り立てばそれぞれの羽でみな嬉しそう

人差し指、ひとより長いのかな、たぶん。手袋いくつもいくつも試す

試着室のカーテンゆれる 雪山を頭にえがく必要がある

トンネルを出れば光で 天然水のラベルみたいな山あらわれる

ゲレンデ横のラーメン・カレーののぼり旗 非日常をしてくれて、ありがと

斜面にてむりやり止まればななめってしまう遠くの白い山脈

ウェア、ゴーグル、帽

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#2023年の自選五首を呟く by揺川たまき

#2023年の自選五首を呟く by揺川たまき

X(Twitter)で投稿しましたが、記録用に。
2023年にお世話になった皆さま、ありがとうございました。
2024年もよろしくお願いいたします。

眼鏡のほうがすきだったなんて言えなくて無防備なその凹凸をみた

真夜中の窓に映ったおれたちもクレーンゲームのあひるなのかな

またきみはわたし以外が好きらしいわたしは置き傘とかしないのに

沢木耕太郎がかわりに旅してくれたから膝を抱えてるだけの土曜

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「Nutrition」揺川たまき〈短歌9首連作〉

「Nutrition」揺川たまき〈短歌9首連作〉

クレープのサンプルは夜にひらかれて優しいゆびさきを待っている

買いもしない葡萄の粒はつやめいて開店前の冷えた朝日に

マカダミアナッツほろほろ崩れてく口の中 これ、洗脳みたい

誕生日ケーキの上のロウソクを消すのってなんか縁起悪くない?

ピザ屋まで 3キロ歩く ピザ食うたびこの日のことを思うんだろう

ねむれない 卵焼き色のライオンのぬいぐるみは嘘だけどかわいい

天体ショーはショーではなくて

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「夏の公園」揺川たまき〈短歌25首連作〉

「夏の公園」揺川たまき〈短歌25首連作〉

入口にいつものコートがないせいで突然冬が終わってしまう

退職するひととしてきょうはお菓子とか紅茶をもらいニコニコしてみる

退勤のボタンを押すと機械からよろしいですかとやや責められて

終業のビルからふたり吐き出され目と目に分かち合うおなじ月

仕事から仕事終わりへ 前髪をわざと狂った風にあそばす

雑踏で押されてすこしふらつくと胸の小石がからころと鳴る

上澄みの夜を飲み込むわたしたちバイト終

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#2022年の自選五首を呟く

#2022年の自選五首を呟く

2022年末にTwitterに載せたのですが、どんどん流れていってしまうので、
こっちにも載せようと思います。 #2022年の自選五首を呟く です。

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ジンジャーエール、飲む前に嗅ぐときだけがいちばんおいしいけど飲みました

なんとなく断れんくてついていったカフェのケーキの細さ気になる

折りたたみ傘を失くして雨の夜のユニクロのなか 服になりたい

鍵閉めてそのへんにきみのコートがある

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「口約束で」揺川たまき〈短歌25首連作〉

「口約束で」揺川たまき〈短歌25首連作〉

もう何回目だろう東京に帰るのは行くとか向かうとかではなくて

雲が雲に落とした影を目で追った目でしか追えない場所にいたから

太平洋、音のはるかなあかるさに憧れるだけでよかった日々よ

新曲に慣らされている薬局でウィダーインゼリー買う深夜さえ

イチョウの葉まだ小さくて黄緑ですね自分はずっと自分のまま

笑わせたのか笑われたのかわからずにとても感じるエアコンの風

コーヒーのかたちを変

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短歌6首(『日出処の天子』(山岸凉子作)に寄せて)

短歌6首(『日出処の天子』(山岸凉子作)に寄せて)



ただ抱き寄せて欲しかったこと思いつくまでにしおれた紫苑の花よ

おまえのその敬語つらくて稲穂すら凭れるものが傍にいる

脱皮する夢の苦しさ耐えかねて何度もおまえ、喚んでいるのに

おまえが髪乱して誰かとくちづける朝の白さにまみれていたい

目を瞑れ おまえの中に住めなくていいからせめて滅ばせてくれ

海、それはすべてを呑むのだろうけどわたしのことはわたしで殺す